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希望はどこから生まれてくるか

2024年07月15日 | 読書
 『月の満ち欠け』は実に印象深い小説だったが、それ以来書いていなかったのだろうか。図書館で見つけたRe60『冬に子供が生まれる』(佐藤正午 小学館)を読んだ。これもまた、ある意味で幻想感に包まれる作品だった。作家のこのテンポは懐かしく、最初は分かりづらく厄介な展開に思えて、後半に揺さぶられる。


 話者の正体が終盤で明確になったのは仕掛けなのか。とすれば、ほぼ同齢の元教師を設定し、どうしようもない「悲しさ」に泣き続ける場面で終えた意味はどう受け止めたらいいか。様々な記憶を持ったり、消したりするのは愚かしいことか。そんなふうに「泣く」行為で振り切れば、そこに希望は生まれるか。




 『希望学』(中公新書クラレ)に続けて読んでみたRe61『希望のつくり方』(玄田有史 岩波新書)。同時期に出版された2冊なので、当然内容は似ているがこちらの方が読みやすかった。読むきっかけが本県の新聞記事だったと書き、「希望最下位」の中味を解釈したいと考えた。自分なりには、あるエピソードに頷いた。


 米国の優良IT企業を辞めていった優秀な女性たちに、その理由を訊いたときに大きく二つに集約されたという。一つは「このまま会社で働いてとしても、先が全く見えないから」、そしてもう一つは「先が見えてしまったから」なのだ。「働く希望を失った」理由は実に対照的だが、結局将来の想像力を喚起しないことか。


 そこに本県のデータを重ねて見えることがあるかもしれない。個人レベルに留まらず、少なくとも地域社会レベルで考えてみたい。本書は最後に「希望をつくる八つのヒント」がまとめられている。八番目が「空欄」となっていて自分で見つけるように促す。これが著者の姿勢であり、最終的な結論だ。共感できる。



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