時計の針戻すオミクロン型、コロナ終息に数年
編集委員 矢野寿彦
日経ヴェリタスセレクト
2021年12月31日 4:00
多様な観点からニュースを考える
津川友介さん他1名の投稿
2022年、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)は果たして終わるのか。変異ウイルス「オミクロン型」の出現で、その可能性は限りなくゼロになった。感染を抑え込むのにワクチンが万能とはいかないことが判明。世界のどこかで大きな流行が繰り返される状況が当分続く。どの国も自国の感染状況に応じて対策のアクセルとブレーキを踏み分ける闘いをあと数年は強いられるだろう。
「集団免疫」獲得シナリオは頓挫
開発段階では発症や重症化だけでなく感染を防ぐ効果も確認されていたコロナのワクチン。接種が広がればパンデミックは各国での「収束」から世界での「終息」に向かうはずだった。が、免疫をすり抜ける力をつけたオミクロン型によって、社会が「集団免疫」を獲得するシナリオはもろくも崩れた。感染拡大を用心し経済や社会活動をコロナ禍の前に戻す「ウィズコロナ」の策は軌道修正を迫られた。
21年11月の南アフリカでの症例報告を発端に世界は新型コロナ禍からオミクロン禍に転じたともいえる。これまでのところウイルスの病原性が低下し重症化するケースも減るのではないかと多くの専門家は見ているが、だからといって新型コロナ感染症の病原体であることに変わりはなく、肺炎などから死につながるリスクがゼロになることはない。
このウイルスが厄介なのは感染がいったん広がり始めると、指数関数的に感染者数が倍々の勢いで増加する。たとえ病原性が下がったとしても、感染者数が一気に増えれば、高齢者を中心に重症化するリスクも増す。医療機関もあっという間に逼迫する。
感染の速度をみる指標に「倍加時間」がある。流行が始まってから累積の感染者数が倍増するのにかかる時間(日数)のことだ。京都大の西浦博教授は12月22日の厚生労働省のアドバイザリーボードに、急速な勢いでオミクロン型の感染が広がった南アフリカ、英国、デンマークでの倍加時間を示した。資料によると、おおよそ2~3日だった。いわゆる「オーバーシュート」と呼ぶ感染爆発が起きていた。
閑散とする成田空港の国際線到着ロビー(11月28日)
この2年を振り返ると、コロナの脅威は流行という名のごとく世界を転々とした。中国・武漢で始まったアウトブレイク(集団発生)。その後、欧州へと感染爆発は広がり、米国やブラジルへと移る。デルタ型発祥のインドでは、21年5月に1日40万人という未聞の感染者数、そして死亡者の急増へとつながった。
比較的落ち着いていたアジアも例外ではなかった。日本は東京五輪のあった21年7~8月に大きな波が訪れ、医療が崩壊した。そしてお隣の国、韓国は今、まさに4、5カ月前の日本を再現するかのように感染者増が医療を崖っぷちに追い込む。
日本、第5波レベルの感染者急増も
日本国内での感染の広がりは9月末に緊急事態宣言が解除され、ピタリと収まった。しかし、年末からオミクロン型の市中感染が出始め、年明け1~2月の第6波到来は専門家の誰もが予想するところだ。その規模はよくわからないが、ウイルスの主役がオミクロン型となれば、ワクチン接種における2回目と3回目の「空白期間」が生じることから、第5波に匹敵する感染者数の急増も考えられる。
岸田文雄政権は常に最悪の事態を想定しながらコロナ対策を進めていく意向だ。外国人の入国を原則認めないとした水際対策の徹底や、感染拡大の予兆がある地域での無料検査はその表れといえる。感染拡大時でも行動制限を緩和する「ワクチン・検査パッケージ」は3回目接種が始まった以上、その実効性に疑問符がつく。5回目の緊急事態宣言が発令され、「ステイホーム」となる覚悟もしなければならない。
岸田政権にとって国民向けの情報発信が課題となる(12月22日、首相官邸)
コロナの対策に正解はない。しかも、その効果は医療制度や保健態勢、公衆衛生に対する社会の考え方に大きく左右される。世界一律とはいかず、みずから常に「最適解」を見つけていくしかない。安倍、菅両政権がつまずいたのは対策の中身というより、その情報発信の曖昧さだった。岸田首相には現状分析となぜその策を最優先するかを明確に国民に伝える責務がある。
過去のパンデミックでもそうだが、感染が確実に鎮まっていくと見通せない限り、終わりを迎えない。だとするとあと数年は確実にかかるだろう。
[日経ヴェリタス2022年1月1日号]
【関連記事】
- ・英とイタリアでコロナ感染過去最多、仏も20万人超
- ・隔離期間の短縮、世界で広がる オミクロン型感染拡大で
- ・コロナ、消えぬ病床逼迫リスク 現場任せの医療に限界