エミン・ユルマズ氏「2050年日経平均は30万円に」超少子高齢化の日本が劇的復活するワケ
1/6(土) 9:06配信
日刊ゲンダイDIGITAL
今世界がインフレに見舞われる中、日本では依然として給料が上がらず、GDPはドイツに抜かれ4位に転落。類を見ない少子高齢化、人口減少、さらに国の債務、年金、医療など、問題山積みで悲観論が渦巻く中、「日本の将来は明るい」と語るのが、トルコ出身のエコノミスト、エミン・ユルマズ氏。なぜ一人負け状態の日本が劇的に復活するのか──。
◇ ◇ ◇
日本はバブル崩壊後の“失われた30年”と言われる長期低迷を経て、経済的に他の先進国のみならず新興国にも出遅れ、日本人の多くは将来を悲観していると思います。しかし、私の見方はだいぶ異なります。
デフレからインフレへの転換に伴い、これから日本人の給料は上昇。さらにグローバル資本が殺到し、2050年日経平均は30万円に──。多くの人にとって、私が唱える“日経平均30万円説”は荒唐無稽に聞こえるでしょう。
これから黄金期を迎える日本の鍵は、実は国力低下の要因とされる“人口減少”です。なぜこれから日本が復活するのか。その理由をお話ししていきます。
まず日本はすでに“失われた30年”を脱し、黄金期に突入しています。黄金期のスタートはアベノミクスが始まった2013年なので、すでに10年が経過しています。13年を起点に株価上昇は10年続き、日経平均は2009年3月10日につけた最安値7054円98銭から4倍超に。しかし、これが2050年まであと30年ほど続くので、まだまだ序の口です。
まず何が世界経済に影響を及ぼしているのか、大きな枠組みでとらえなくてはなりません。私は最大の要因が地政学だと考えています。歴史を振り返れば、それは明らかです。
日本は戦後、朝鮮戦争(1950年)の特需をきっかけに高度経済成長していきましたが、その背景に米ソ冷戦がありました。日本や西ドイツ(当時)を共産主義から守り、経済的に豊かにしようという米国の方針が恩恵をもたらしたといっていいでしょう。日独が人的資源に恵まれていたことも大きいですが、この地政学的追い風がなければこれほど短期間で経済成長は達成できなかったでしょう。
■日本が長期低迷に陥った背景と反転の兆し
それが一転するのが、1990年です。ソ連やベルリンの壁の崩壊が象徴する冷戦の終了で、日本は地政学的な重要性を失ってしまいました。日本の資産はバブルで割高になり、グローバル資本が成熟しきった日本市場から一気に引き上げ、中国や旧ソ連に向かいました。これがバブル崩壊後の長期低迷の背景です。
半導体のドミナンス(支配)など、80年代後半からの日米貿易摩擦に代表されるように、日本に吹いていた追い風が向かい風に変わり、日本バッシングが起こりました。日本人は自虐ネタが好きですが、歴史を振り返ると、どの民族の繁栄も低迷も自分たちの力量だけではなく、地政学的要因が大きかったと言えます。
さらに、戦後の好景気や株式市場の大相場は、1950年から90年までの40年、低迷は90年から2013年までの23年続きました。それ以前(1878年~1943年)の発展、低迷も、それぞれ40年、23年というサイクルで動いていることがわかります。13年から2050年の日本の黄金期は、発展の40年サイクルに当てはまるのです。
今世界の中で日本にアドバンテージがあるのは、地政学的な風向きが再び日本に吹き始めているからです。“米中新冷戦”と呼ばれる新しい体制に入った13年からの動きを見ると、第2次安倍内閣でアベノミクスが始まり、習近平が中国国家主席に就任。14年にはロシアによるクリミア侵攻。さらに現在、ロシアとウクライナ、パレスチナとイスラエル、中国と台湾と、東西で戦争や紛争が激化し衝突が懸念されています。
新型コロナのパンデミックをきっかけに欧米諸国と中国の関係はより悪化し、実質、鎖国状態となった中国からグローバル資本だけでなくサプライチェーンが逃げ出しています。それがどこに向かうかというと、代わりになる国はそうありません。ある程度インフラや人材が揃っていて製造業が盛んな国となると、結局日本しかないのです。
特に今“21世紀の原油”と言われる半導体の生産が、台湾に集中しすぎてしまっています。懸念される台湾有事が勃発すれば、生産がストップするリスクが高いのです。そのため、台湾のTSMCが熊本に工場を作ったように、半導体特許の大半を握る米国政府は生産をもう一度日本に戻そうと躍起になっています。今後、台湾の半導体生産拠点の半分以上を日本に疎開させると思われます。
猛烈な“日本買い”がやってくる
グローバル投資が日本にやってくるというと、世界的投資家のウォーレン・バフェットが日本の5大商社株を買っていることから、外国人が日本株買いに走ると考える人が多いと思います。しかし、それだけではありません。半導体工場がやってくるように、これから日本に直接投資(FDI)をする動きが活発化していきます。日本へのFDIは対GDP比1.1%で、昨年は中国を越えました。これは何を意味するのでしょうか。
海外からいろんな会社が来て、日本で事業投資をする。事業投資は地元に雇用を生み、経済に貢献します。それが、日本のかなり地方のほうにまで行っています。半導体分野だけではありません。インバウンド関連では、シンガポールの不動産投資ファンドが新潟・妙高高原のスキーリゾートに2000億円超の直接投資をすると報じられました。2兆円プロジェクトの大阪IRも同様です。
つまり、日本にお金が集まる。お金が集まれば人も集まる。人が集まれば情報も集まる。海外から直接お金が流れて、地方経済まで活発化していくと、今日本が抱えるさまざまな問題の解決につながるのです。移民に関して賛否両論ありますが、資本や技術が集まれば、高度な技術を持った移民が増えていくものと思われます。
■人口減少と自動化で日本はどうなる
さらに今後進んでいく自動化、無人化、ロボット化、AI化が仕事を奪うと言われています。
今は旧経済から新経済に移行している過渡期で、自動化は始まったばかりです。大多数の仕事への影響はまだ軽微ですが、このトランスフォーメーションが終わった時に最も困るのは、人口が多い国です。なぜなら、ものすごい勢いで作業効率化が進むことで、人間が携わる仕事がなくなり、人口が多い国では人があぶれていくからです。
大半の人が理解していないのは、自動化というのは今までの技術とは全く異なるということ。
人々は19世紀まで馬車に乗っていたのが、20世紀になると馬車が自動車になり、動力がエンジンに代わり馬が不要になっても人間が不要になったわけではありませんでした。しかし、これからの時代、無人で動くので運転手そのものが不要になる。
つまり、私たちは「20世紀の馬」と同じ運命にある中、人が携われる職がどんどん減っていき、職の争奪戦になったとき、その国の秩序は乱れていきます。これから将来に向けて人口が多い国は大変だと思います。
日本に関していうと、全自動化が完成した時にはだいぶ人口が減っているので、人口増加国よりダメージはかなり少ないはずです。自動化時代にとって、人口減少は追い風と言えるのです。移民大国と言われるアメリカでさえ、現在の人出不足の中で移民を増やそうとしていません。これは将来の人余りを見越してのことだと私は思います。
今の日本はどうでしょうか。有効求人倍率が1.3倍程度なので、30%ほど仕事のほうが多い状態です。しかし、問題なのは、セクターごとにあまりにも偏りが出ていることです。事務や総務などは人が余っているのに対して、建設や介護など3Kと言われる仕事は慢性的な人手不足です。
有効求人倍率が高いジャンルに人を集め、この不均衡を是正するには賃上げをするしかありません。人が集まらないのは単純にペイ(支払い)が良くないから。みんなが就きたいと思うくらい賃金を上げなければならないのです。
自動化が完成した将来、ホワイトカラーもブルーカラーも仕事が少なくなり、世の中は今とは全く違う景色になっている可能性が高い。
そんな中で多くの人はどうやって収入を得るのかというと、全国民にベーシックインカムを出さないといけなくなるでしょう。欧米はパンデミックでベーシックインカムの社会実験をやったところ、ものすごいインフレになった。日本もこれからインフレがさらに進み、2050年ごろまで続くと見ています。
日本人はまだインフレという概念に戸惑っていて、政官財のトップですらインフレを一過性のものと考えていて、頭が切り替えられていません。だから、多くの日本人はデフレマインドのままで投資どころかお金を遣おうとしないし、まだ貯蓄しようとしている。
しかし、私は悲観していません。なぜなら、日本人は変わるまで時間がかかりますが、変わった時は右に倣えで一瞬で切り替わるからです。マインドがデフレからインフレに変わった途端、日本でも消費も投資も活発化していくことでしょう。
今後、仕事がなくなっていくことへの漠然とした不安があると思います。再就職や転職に困らない業種とそうでない業種があるので、ある意味すでに二極化している状態です。現在もプログラマーや介護医療関係は足りないわけですから、スキルワーカーはどこでも働ける状態にある訳です。
一方で事務や総務、あまりスキルがいらない営業などはすでに人があり余っている状態です。そもそも論として、これから仕事が減っていく訳だから、スキルを持っていない人にとって難しい時代になるかもしれません。
どれくらいのトランジション(移行)期間が必要かはわからないけれど、コロナの3年間だけで私たちの生活様式は大きく変わりました。現金主義だった国でいつの間にかキャッシュレスが普及していって、気づいたらコンビニでもお金のやり取りはマシーンが主流になっていて、無人レジが登場してレジ打ちも必要なくなりつつあります。
機械のメンテナンスに人が必要なので、完全に人が不要になることはないものの、確実に職の概念が変わっていくことでしょう。あと単純作業はほんとうに不要になります。そういう職にしか就いていない人は危険ですから、会社に寄りかからずに済むような何かユニバーサルに評価される技能を身につけるなりしたほうがいいでしょう。
今ある仕事がなくなっていく肌感覚を、多くの人が持っていると思います。そうなったときのために、リスキリングをすればいいのです。あとは本人の努力次第です。こうした話は今に始まったことではなく昔からあるものです。
なぜ日経平均が30万円になるのか
日経平均は“平成バブル”どころでないほど沸騰か(C)日刊ゲンダイ
さて、これから日本が復活し、2050年ごろまで黄金期を迎えるとお話ししてきましたが、私の“日経平均30万円説”についても触れたいと思います。
失われた30年のデフレ時代、世界に類を見ない貯蓄率の高さから日本人は投資に向いていないと言われてきましたが、それは間違っています。デフレとはお金の価値が上がるということだから、この時の現金保有という日本人の経済行動は合理的で正しかったと言えます。
過去を振り返ると、日本人は投機している時代もあれば、投資熱がすごい時代もありました。江戸時代、世界に先駆けて米相場という先物市場を大坂(現在の大阪)で作ったのは日本人ですし、明治時代に値動きを示すローソク足のチャートを考案したのも日本人です。
※この部分は、コズモの個人的な補足事項ですが、日本が敗戦後、アメリカは米相場に関する資料を、全て勝手に全てかっさらって、シカゴ大学に放置しました。その後、シカゴ大学で、その資料が教授たちにより、発見されて論文として公になり、結果ノーベル賞を受賞する事になったのは、ご承知でしょう。以上、コズモの個人的な補足でした。※
これからインフレでお金の価値が目減りしていくことに気づけば、日本人は経済合理性に沿った動きをしていくはずです。つまり資産運用をするか、消費をするか。その端緒はすでに現れ始めています。
東証が利益を溜め込み再投資しないPBR(株価純資産倍率)1倍割れの企業に改善策の開示と実行を要求したり、投資枠が拡大した新NISAが24年からスタートしたりしていますが、これらはあくまできっかけに過ぎず“機械油”みたいなものです。日本人が投資に向かう本当の引き金になるのは、やはりインフレだと思います。
私は、毎年3~5%のマイルドなインフレが発生する、という強気な相場設定をコロナのだいぶ前から言ってきました。
2100兆円ほどと言われる日本人の個人資産のうち、今株式が占める割合は10%程度ですが、これがもし20%になれば、210兆円が株式市場に流れ込むことになります。200兆円のお金が入ってくるだけで、日経平均は簡単に10万円まで行くことでしょう。
1990年のバブルの時は最大で30%まで行きました。私はこれから10年、15年くらいかけてそれくらいの割合まで行くと見ています。そうなると、500兆円から600兆円ほどの日本人のお金が日本の株式市場に流れ込んでくるでしょう。「日経平均30万円」というのも今後のインフレを計算すれば、荒唐無稽な話ではないのです。
では“日経平均30万時代”に、日本人の給料、所得はどうなっているでしょうか。今、日本人の賃金が上がらないのは、日本の多くの経営者はインフレがずっと続くと思っていないからです。
今年はインフレの影響で値上げして商品の価格が5%上がった。当然、売り上げも5%上がります。しかし、来年もそうなると思っていないから、経営者は賃上げに躊躇している訳です。日本の企業では、賃上げなど一度決めた従業員への待遇は元に戻せないと思っているから、大手企業もボーナスは出したがるけど、ベースアップはしたがらない。
これもマインドの問題で、これから毎年5%くらい商品を値上げしなくてはならないとなると、従業員のベースも5%くらい上げないといけなくなります。しかし、まだその段階には来ていません。だから、賃上げは政府の働きかけとかはあまり関係ないのです。これも時間の問題だと思っています。
あと20年くらいしたら、5万円紙幣が出てくるかもしれません。日経平均30万円時代の新卒初任給は、100万円くらいになっていてもおかしくありません。多くの仕事がなくなっていく時代に、新卒という概念が存在しているかは不明ですが。将来への心構えをしておくべきだと私は思っています。
▽エミン・ユルマズ(エコノミスト、グローバルストラテジスト)トルコ・イスタンブール出身。16歳で国際生物学オリンピックの世界チャンピオンに。1997年に日本に留学。1年後に日本語能力試験一級を受けて、東京大学理科一類に合格。その後、同大学院で生命工学修士を取得。2006年、野村證券に入社。投資銀行部門、機関投資家営業部門に在籍後、16年に複眼経済塾の取締役・塾頭に就任。『コロナ後の世界経済』『エブリシング・バブルの崩壊』(ともに集英社)など著書多数。
1/6(土) 9:06配信
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今世界がインフレに見舞われる中、日本では依然として給料が上がらず、GDPはドイツに抜かれ4位に転落。類を見ない少子高齢化、人口減少、さらに国の債務、年金、医療など、問題山積みで悲観論が渦巻く中、「日本の将来は明るい」と語るのが、トルコ出身のエコノミスト、エミン・ユルマズ氏。なぜ一人負け状態の日本が劇的に復活するのか──。
◇ ◇ ◇
日本はバブル崩壊後の“失われた30年”と言われる長期低迷を経て、経済的に他の先進国のみならず新興国にも出遅れ、日本人の多くは将来を悲観していると思います。しかし、私の見方はだいぶ異なります。
デフレからインフレへの転換に伴い、これから日本人の給料は上昇。さらにグローバル資本が殺到し、2050年日経平均は30万円に──。多くの人にとって、私が唱える“日経平均30万円説”は荒唐無稽に聞こえるでしょう。
これから黄金期を迎える日本の鍵は、実は国力低下の要因とされる“人口減少”です。なぜこれから日本が復活するのか。その理由をお話ししていきます。
まず日本はすでに“失われた30年”を脱し、黄金期に突入しています。黄金期のスタートはアベノミクスが始まった2013年なので、すでに10年が経過しています。13年を起点に株価上昇は10年続き、日経平均は2009年3月10日につけた最安値7054円98銭から4倍超に。しかし、これが2050年まであと30年ほど続くので、まだまだ序の口です。
まず何が世界経済に影響を及ぼしているのか、大きな枠組みでとらえなくてはなりません。私は最大の要因が地政学だと考えています。歴史を振り返れば、それは明らかです。
日本は戦後、朝鮮戦争(1950年)の特需をきっかけに高度経済成長していきましたが、その背景に米ソ冷戦がありました。日本や西ドイツ(当時)を共産主義から守り、経済的に豊かにしようという米国の方針が恩恵をもたらしたといっていいでしょう。日独が人的資源に恵まれていたことも大きいですが、この地政学的追い風がなければこれほど短期間で経済成長は達成できなかったでしょう。
■日本が長期低迷に陥った背景と反転の兆し
それが一転するのが、1990年です。ソ連やベルリンの壁の崩壊が象徴する冷戦の終了で、日本は地政学的な重要性を失ってしまいました。日本の資産はバブルで割高になり、グローバル資本が成熟しきった日本市場から一気に引き上げ、中国や旧ソ連に向かいました。これがバブル崩壊後の長期低迷の背景です。
半導体のドミナンス(支配)など、80年代後半からの日米貿易摩擦に代表されるように、日本に吹いていた追い風が向かい風に変わり、日本バッシングが起こりました。日本人は自虐ネタが好きですが、歴史を振り返ると、どの民族の繁栄も低迷も自分たちの力量だけではなく、地政学的要因が大きかったと言えます。
さらに、戦後の好景気や株式市場の大相場は、1950年から90年までの40年、低迷は90年から2013年までの23年続きました。それ以前(1878年~1943年)の発展、低迷も、それぞれ40年、23年というサイクルで動いていることがわかります。13年から2050年の日本の黄金期は、発展の40年サイクルに当てはまるのです。
今世界の中で日本にアドバンテージがあるのは、地政学的な風向きが再び日本に吹き始めているからです。“米中新冷戦”と呼ばれる新しい体制に入った13年からの動きを見ると、第2次安倍内閣でアベノミクスが始まり、習近平が中国国家主席に就任。14年にはロシアによるクリミア侵攻。さらに現在、ロシアとウクライナ、パレスチナとイスラエル、中国と台湾と、東西で戦争や紛争が激化し衝突が懸念されています。
新型コロナのパンデミックをきっかけに欧米諸国と中国の関係はより悪化し、実質、鎖国状態となった中国からグローバル資本だけでなくサプライチェーンが逃げ出しています。それがどこに向かうかというと、代わりになる国はそうありません。ある程度インフラや人材が揃っていて製造業が盛んな国となると、結局日本しかないのです。
特に今“21世紀の原油”と言われる半導体の生産が、台湾に集中しすぎてしまっています。懸念される台湾有事が勃発すれば、生産がストップするリスクが高いのです。そのため、台湾のTSMCが熊本に工場を作ったように、半導体特許の大半を握る米国政府は生産をもう一度日本に戻そうと躍起になっています。今後、台湾の半導体生産拠点の半分以上を日本に疎開させると思われます。
猛烈な“日本買い”がやってくる
グローバル投資が日本にやってくるというと、世界的投資家のウォーレン・バフェットが日本の5大商社株を買っていることから、外国人が日本株買いに走ると考える人が多いと思います。しかし、それだけではありません。半導体工場がやってくるように、これから日本に直接投資(FDI)をする動きが活発化していきます。日本へのFDIは対GDP比1.1%で、昨年は中国を越えました。これは何を意味するのでしょうか。
海外からいろんな会社が来て、日本で事業投資をする。事業投資は地元に雇用を生み、経済に貢献します。それが、日本のかなり地方のほうにまで行っています。半導体分野だけではありません。インバウンド関連では、シンガポールの不動産投資ファンドが新潟・妙高高原のスキーリゾートに2000億円超の直接投資をすると報じられました。2兆円プロジェクトの大阪IRも同様です。
つまり、日本にお金が集まる。お金が集まれば人も集まる。人が集まれば情報も集まる。海外から直接お金が流れて、地方経済まで活発化していくと、今日本が抱えるさまざまな問題の解決につながるのです。移民に関して賛否両論ありますが、資本や技術が集まれば、高度な技術を持った移民が増えていくものと思われます。
■人口減少と自動化で日本はどうなる
さらに今後進んでいく自動化、無人化、ロボット化、AI化が仕事を奪うと言われています。
今は旧経済から新経済に移行している過渡期で、自動化は始まったばかりです。大多数の仕事への影響はまだ軽微ですが、このトランスフォーメーションが終わった時に最も困るのは、人口が多い国です。なぜなら、ものすごい勢いで作業効率化が進むことで、人間が携わる仕事がなくなり、人口が多い国では人があぶれていくからです。
大半の人が理解していないのは、自動化というのは今までの技術とは全く異なるということ。
人々は19世紀まで馬車に乗っていたのが、20世紀になると馬車が自動車になり、動力がエンジンに代わり馬が不要になっても人間が不要になったわけではありませんでした。しかし、これからの時代、無人で動くので運転手そのものが不要になる。
つまり、私たちは「20世紀の馬」と同じ運命にある中、人が携われる職がどんどん減っていき、職の争奪戦になったとき、その国の秩序は乱れていきます。これから将来に向けて人口が多い国は大変だと思います。
日本に関していうと、全自動化が完成した時にはだいぶ人口が減っているので、人口増加国よりダメージはかなり少ないはずです。自動化時代にとって、人口減少は追い風と言えるのです。移民大国と言われるアメリカでさえ、現在の人出不足の中で移民を増やそうとしていません。これは将来の人余りを見越してのことだと私は思います。
今の日本はどうでしょうか。有効求人倍率が1.3倍程度なので、30%ほど仕事のほうが多い状態です。しかし、問題なのは、セクターごとにあまりにも偏りが出ていることです。事務や総務などは人が余っているのに対して、建設や介護など3Kと言われる仕事は慢性的な人手不足です。
有効求人倍率が高いジャンルに人を集め、この不均衡を是正するには賃上げをするしかありません。人が集まらないのは単純にペイ(支払い)が良くないから。みんなが就きたいと思うくらい賃金を上げなければならないのです。
自動化が完成した将来、ホワイトカラーもブルーカラーも仕事が少なくなり、世の中は今とは全く違う景色になっている可能性が高い。
そんな中で多くの人はどうやって収入を得るのかというと、全国民にベーシックインカムを出さないといけなくなるでしょう。欧米はパンデミックでベーシックインカムの社会実験をやったところ、ものすごいインフレになった。日本もこれからインフレがさらに進み、2050年ごろまで続くと見ています。
日本人はまだインフレという概念に戸惑っていて、政官財のトップですらインフレを一過性のものと考えていて、頭が切り替えられていません。だから、多くの日本人はデフレマインドのままで投資どころかお金を遣おうとしないし、まだ貯蓄しようとしている。
しかし、私は悲観していません。なぜなら、日本人は変わるまで時間がかかりますが、変わった時は右に倣えで一瞬で切り替わるからです。マインドがデフレからインフレに変わった途端、日本でも消費も投資も活発化していくことでしょう。
今後、仕事がなくなっていくことへの漠然とした不安があると思います。再就職や転職に困らない業種とそうでない業種があるので、ある意味すでに二極化している状態です。現在もプログラマーや介護医療関係は足りないわけですから、スキルワーカーはどこでも働ける状態にある訳です。
一方で事務や総務、あまりスキルがいらない営業などはすでに人があり余っている状態です。そもそも論として、これから仕事が減っていく訳だから、スキルを持っていない人にとって難しい時代になるかもしれません。
どれくらいのトランジション(移行)期間が必要かはわからないけれど、コロナの3年間だけで私たちの生活様式は大きく変わりました。現金主義だった国でいつの間にかキャッシュレスが普及していって、気づいたらコンビニでもお金のやり取りはマシーンが主流になっていて、無人レジが登場してレジ打ちも必要なくなりつつあります。
機械のメンテナンスに人が必要なので、完全に人が不要になることはないものの、確実に職の概念が変わっていくことでしょう。あと単純作業はほんとうに不要になります。そういう職にしか就いていない人は危険ですから、会社に寄りかからずに済むような何かユニバーサルに評価される技能を身につけるなりしたほうがいいでしょう。
今ある仕事がなくなっていく肌感覚を、多くの人が持っていると思います。そうなったときのために、リスキリングをすればいいのです。あとは本人の努力次第です。こうした話は今に始まったことではなく昔からあるものです。
なぜ日経平均が30万円になるのか
日経平均は“平成バブル”どころでないほど沸騰か(C)日刊ゲンダイ
さて、これから日本が復活し、2050年ごろまで黄金期を迎えるとお話ししてきましたが、私の“日経平均30万円説”についても触れたいと思います。
失われた30年のデフレ時代、世界に類を見ない貯蓄率の高さから日本人は投資に向いていないと言われてきましたが、それは間違っています。デフレとはお金の価値が上がるということだから、この時の現金保有という日本人の経済行動は合理的で正しかったと言えます。
過去を振り返ると、日本人は投機している時代もあれば、投資熱がすごい時代もありました。江戸時代、世界に先駆けて米相場という先物市場を大坂(現在の大阪)で作ったのは日本人ですし、明治時代に値動きを示すローソク足のチャートを考案したのも日本人です。
※この部分は、コズモの個人的な補足事項ですが、日本が敗戦後、アメリカは米相場に関する資料を、全て勝手に全てかっさらって、シカゴ大学に放置しました。その後、シカゴ大学で、その資料が教授たちにより、発見されて論文として公になり、結果ノーベル賞を受賞する事になったのは、ご承知でしょう。以上、コズモの個人的な補足でした。※
これからインフレでお金の価値が目減りしていくことに気づけば、日本人は経済合理性に沿った動きをしていくはずです。つまり資産運用をするか、消費をするか。その端緒はすでに現れ始めています。
東証が利益を溜め込み再投資しないPBR(株価純資産倍率)1倍割れの企業に改善策の開示と実行を要求したり、投資枠が拡大した新NISAが24年からスタートしたりしていますが、これらはあくまできっかけに過ぎず“機械油”みたいなものです。日本人が投資に向かう本当の引き金になるのは、やはりインフレだと思います。
私は、毎年3~5%のマイルドなインフレが発生する、という強気な相場設定をコロナのだいぶ前から言ってきました。
2100兆円ほどと言われる日本人の個人資産のうち、今株式が占める割合は10%程度ですが、これがもし20%になれば、210兆円が株式市場に流れ込むことになります。200兆円のお金が入ってくるだけで、日経平均は簡単に10万円まで行くことでしょう。
1990年のバブルの時は最大で30%まで行きました。私はこれから10年、15年くらいかけてそれくらいの割合まで行くと見ています。そうなると、500兆円から600兆円ほどの日本人のお金が日本の株式市場に流れ込んでくるでしょう。「日経平均30万円」というのも今後のインフレを計算すれば、荒唐無稽な話ではないのです。
では“日経平均30万時代”に、日本人の給料、所得はどうなっているでしょうか。今、日本人の賃金が上がらないのは、日本の多くの経営者はインフレがずっと続くと思っていないからです。
今年はインフレの影響で値上げして商品の価格が5%上がった。当然、売り上げも5%上がります。しかし、来年もそうなると思っていないから、経営者は賃上げに躊躇している訳です。日本の企業では、賃上げなど一度決めた従業員への待遇は元に戻せないと思っているから、大手企業もボーナスは出したがるけど、ベースアップはしたがらない。
これもマインドの問題で、これから毎年5%くらい商品を値上げしなくてはならないとなると、従業員のベースも5%くらい上げないといけなくなります。しかし、まだその段階には来ていません。だから、賃上げは政府の働きかけとかはあまり関係ないのです。これも時間の問題だと思っています。
あと20年くらいしたら、5万円紙幣が出てくるかもしれません。日経平均30万円時代の新卒初任給は、100万円くらいになっていてもおかしくありません。多くの仕事がなくなっていく時代に、新卒という概念が存在しているかは不明ですが。将来への心構えをしておくべきだと私は思っています。
▽エミン・ユルマズ(エコノミスト、グローバルストラテジスト)トルコ・イスタンブール出身。16歳で国際生物学オリンピックの世界チャンピオンに。1997年に日本に留学。1年後に日本語能力試験一級を受けて、東京大学理科一類に合格。その後、同大学院で生命工学修士を取得。2006年、野村證券に入社。投資銀行部門、機関投資家営業部門に在籍後、16年に複眼経済塾の取締役・塾頭に就任。『コロナ後の世界経済』『エブリシング・バブルの崩壊』(ともに集英社)など著書多数。