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「1人あたり1000万円超」の借金大国・日本 財政を健全化する方策は2つしかない 2022/09/24 07:15マネーポストWEB  週刊ポスト2022年9月30日号

2022-09-24 10:56:35 | 日記
「1人あたり1000万円超」の借金大国・日本 財政を健全化する方策は2つしかない
2022/09/24 07:15マネーポストWEB  週刊ポスト2022年9月30日号

「1人あたり1000万円超」の借金大国・日本 財政を健全化する方策は2つしかない
(マネーポストWEB)

 岸田政権は10月に「経済総合対策」を策定すると発表した。こうした緊急の経済対策には補正予算が組まれ、赤字国債が発行されることも少なくない。政府は膨らみ続ける財政赤字への対策を明確にはしていないが、どうすれば「国の借金」は減らせるのだろうか。経営コンサルタントの大前研一氏が、借金大国・日本の現状を解説する。

 * * *
 国の2023年度一般会計予算における各省庁からの概算要求総額は、過去2番目の規模となる110兆484億円だった。年末の予算編成段階で要求額はさらに膨らむ見込みだという。

 一方で、日本の「国の借金」(国債・借入金・政府短期証券の合計)は、6月末時点で1255兆1932億円に達して過去最大を更新し、国民1人あたりで単純計算すると初めて1000万円を超えた。これは今後も増え続けることが確実だろう。

 借金大国・日本の現状を見て私が思い出すのは、1984年から1989年までニュージーランド首相を務めたデビッド・ロンギ氏の大改革だ。

 ニュージーランド経済は国民党政権下の1970年代後半から悪化の一途を辿り、インフレの加速や経常収支の悪化が続いて国民1人あたりの借金は世界最高水準に達していた。

 そこで、労働党の党首だったロンギ氏は総選挙のテレビCMにかわいい女の子の赤ちゃんを登場させ、「この子は、生まれながらにして5万ドルの十字架(借金)を背負っている」というキャッチコピーを打ち出してキャンペーンを展開した。借金の金額などについては記憶違いがあるかもしれないが、いずれにしても、ロンギ氏率いる労働党は、この印象的なキャッチコピーとともに、経済の立て直しと財政の健全化を公約に掲げ、政権交代を果たした。

 そして「国民の支持を得られなくとも、改革を断行する」と宣言し、財務大臣にロジャー・ダグラス氏を起用して規制緩和、国営企業の民営化、税制改革、補助金削減、行政部門の役割の見直しなどを推し進めた。

 その結果、ニュージーランド経済は低迷から脱し、財政赤字も改善した。この「ロジャーノミクス」と呼ばれる経済・財政・行政改革は、イギリスのサッチャリズム、アメリカのレーガノミクスと並ぶ20世紀の代表的な経済政策として知られている。

 一方、岸田文雄首相には、ロンギ氏のような危機感は全くないようだ。しかし、日本の債務残高はGDP(国内総生産)の2倍を超え、主要先進国の中で最も高い水準にあるのだから、かつてのニュージーランドと同じような状況と言える。経済が成長しないのに、国の債務だけが成長しているという異常事態なのだ。
政府がやるべき2つのこと

 なぜ日本政府は、これほど野放図に借金できるのか? アベノミクスと異次元金融緩和を継続し、日本銀行が事実上の財政ファイナンス(財政赤字を穴埋めするために中央銀行が国債などを直接引き受けること)を行なっているからだ。しかし、これまた「出口」はない。

 欧米の中央銀行がインフレ抑制のため利上げを進める中、日銀の黒田東彦総裁は今の異次元金融緩和を続けたまま来年4月の任期を終えるのだろうが、「出口戦略」を示すことなく退任するのは無責任極まりない。

 一部のリフレ派【*1】やMMT【*2】論者は、国債を買っているのは海外マネーではなく主に国内の銀行や生命保険会社で、国の借金の半分は銀行や生保から国債を買い入れている日銀の資産なので問題ないと主張している。だが、銀行や生保は預金者や契約者から預かったカネで国債を引き受けているのだから国民が国債を買っているのと同じであり、結局、この借金を返していくのは国民──今の若者たちであり、これから生まれてくる子供たちなのである。

【*注1:リフレ派/積極的な金融緩和を通じて景気の回復と緩やかな物価上昇を促す経済政策「リフレーション」を支持する学者やエコノミスト】

【*注2:現代貨幣理論/自国通貨を発行できる政府・中央銀行は、財政赤字を拡大してもデフォルト(債務不履行)になることはないという理論】

 日本が経済を立て直して財政を健全化する方策は2つしかない。1つは、ガソリン補助金や詐欺の餌食になった新型コロナウイルス対応休業支援金・給付金のような無駄遣いをしないこと。もう1つは、国債の償還を借り換え・繰り延べでごまかして負担を子や孫に先送りしないことだ。

 私はかつて引退したロンギ氏に会いにニュージーランドまで行ったことがある。「あなたはニュージーランドにとって偉大な恩人だ」と称賛したが、彼は「国民は誰も私に感謝していないし、今や私を覚えてもいない」と落胆していた。ロンギ氏は最後はバッシングされ、石もて追われた。サッチャーもレーガンも同様だった。しかし、次世代で経済が好転し、結果的には改革が高く評価されている。

 翻って、愚策だらけの「新しい資本主義」では、日本経済を立て直して財政赤字を改善することはできない。借金という十字架を背負って生まれてくる赤ちゃんのことを考えず、次の選挙のために予算をバラ撒く悪習は、直ちにやめてもらいたい。さもなければ、もし岸田政権が次の国政選挙まで3年続いたとしても、それは日本経済にとって「黄金の3年」ではなく「暗黒の3年」になるだろう。

【プロフィール】
大前研一(おおまえ・けんいち)/1943年生まれ。マッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社長、本社ディレクター等を経て、1994年退社。現在、ビジネス・ブレークスルー代表取締役会長、ビジネス・ブレークスルー大学学長などを務める。最新刊『大前研一 世界の潮流2022-23スペシャル』(プレジデント社刊)など著書多数。

※週刊ポスト2022年9月30日号

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