日銀マイナス金利解除時期、テイラー・ルールは有効な手掛かりになり得るか
藤岡徹
2023年10月3日 10:30 JST 更新日時 2023年10月3日 14:32 JST
植田氏は2000年8月のゼロ金利解除に反対、テイラー・ルールが影響
日銀はテイラー・ルールだけを見ているわけではない-野村総研
日本銀行の植田和男総裁が20年余り前にゼロ金利解除に反対票を投じた際に引用した同じルールを適用した場合、世界最後のマイナス金利政策は早晩解除される可能性が高い。
植田氏は、日銀審議委員だった2000年8月の金融政策決定会合でゼロ金利解除に賛成しなかった理由をテイラー・ルールを使って説明した。その半年後に日銀がゼロ金利への逆戻りを強いられたことで、反対票を投じた植田氏の洞察力が高く評価されることとなった。
Bank of Japan Governor Kazuo Ueda News Conference After Rate Decision
植田和男日銀総裁
Source: Bloomberg
植田氏は01年9月の講演で、「当時、私自身はいわゆるテイラー・ルールによって適正金利の具体的な水準を試算してみたが、その結果は、適正金利は上昇しつつあったが水準はなおマイナスというものであった」と説明。「単純化して言えば、このような認識こそが2000年8月のゼロ金利解除に私が反対した理由である」と語った。
植田氏は、日銀がテイラー・ルールを政策決定のベンチマークとして活用していないことを明確にし、当時の植田氏の分析的アプローチを説明するための単なる手段にすぎないものとして言及した一方、14年の日本経済新聞への寄稿では、日本と米国の金利の適正水準を議論するためにテイラー・ルールを取り上げていた。
日銀出身でドイツ証券の小山賢太郎チーフエコノミストは、現在の状況は2000年とは大きく異なると指摘。日銀のマイナス金利解除の時期については来年1月を予想している。同氏の推計によると、足元ではテイラー・ルールが示唆する政策金利水準は7%だという。
テイラー・ルールは利上げの必要性を示唆
出所:ドイツ証券
「こうした政策ルールが示唆する政策金利は相当な幅を持って見る必要があるものの、これだけ明確にプラスに転じていれば、マイナス金利政策を解除しても依然として緩和的な金融政策を維持できるであろう」と分析。「現在におけるポリシーエラーは、むしろ、マイナス金利解除が遅れること、そしてそれによる円安の進展とインフレの高止まり」だとみているという。
1993年に米スタンフォード大学のジョン・テイラー教授が考案して以来、テイラー・ルールとその修正版の有効性については活発に議論が行われてきた。
Interview with IMF Managing Director Christine Lagarde and Key Speakers At The IMF and World Bank Group Annual Meetings
ジョン・テイラー教授
Photographer: SeongJoon Cho/Bloomberg
前セントルイス連銀総裁のジェームス・ブラード氏は6月に、自身のテイラー・ルールの枠組みの最新情報を投稿し、インフレ率が依然として高過ぎるにもかかわらず、当時の政策は「十分に景気抑制的な」範囲の下限にあったことを示唆した。
元連邦準備制度理事会(FRB)議長のベン・バーナンキ氏は15年に、「金融政策は自動的なものではなく、体系的であるべきだ」と記した。「テイラー・ルールの単純さは、FOMCメンバーが適切な政策決定を行うために絶えず行わなければならない判断の根底にある複雑さを覆い隠している」 と指摘した。
植田総裁の日銀審議委員当時に秘書を務めた野村総合研究所の井上哲也シニア研究員は、「おそらく分かりやすいからテイラー・ルールを使ったということではないか」と指摘。「日銀内部でもちろん見ていると思うが、これだけを見ているわけではない。コロナなどで経済に変化があり、今は特にテイラー・ルールを使用するのは難しいのではないか」との見方を示した。
元日銀調査統計局長の関根敏隆氏も、テイラー・ルールは金融政策の立案者を不安にさせる可能性があるものの、中央銀行はその指標だけに依存しているわけではないと同様の見解を示した。
関根氏によると、テイラー・ルールは「メカニカルに従う必要性はないが、自問自答するために使うものだ」という。「それが現実と乖離(かいり)している時間がずっと長くなり、自分の胸に手を合わせた時に何となく居心地悪いと感じるものがあったら、やっぱり政策変更しなければならないという示唆だと思う」と語った。
原題:BOJ’s Ueda Would Need to Hike Rates If He Used Taylor Rule Again(抜粋)
(更新前記事は見出しと2段落目の表記をマイナス金利に訂正済み。見出しを差し替えるとともに、チャートを追加します)