日銀の追加利上げは早くても10月、サービス価格弱く-渡辺東大教授
伊藤純夫、藤岡徹-
植田日銀の政策判断はデータ次第に、3月利上げは乱暴な対応だった
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バランスシート規模の新たな普通を模索、年内にも方針を示すべきだ
日本銀行出身で物価研究が専門の渡辺努東大大学院教授は、賃金と物価の好循環の見極めに重要なサービス価格について、特殊要因を除けば鈍化傾向にあるとし、日銀が次の利上げに動けるのは早くても10月になるとの見方を示した。3月29日のインタビューで語った。
渡辺氏は物価情勢について、コストプッシュ要因のはく落に伴う財価格の鈍化は想定通りだが、全国旅行支援や外国パック旅行費など特殊要因の影響を除いたサービス価格は「去年の秋ごろをピークに、徐々に伸び率が落ちてきている」と分析。賃金の伸びが鈍い地方を中心に、サービス消費を控える動きが出ていることが背景にあるのではないかとの見解を示した。
先行きも好調な今年の賃上げがサービス価格に転嫁され、地方を含めてそれに耐えられる状況になるかは「本当に分からない」という。賃上げを追い風にサービス価格が回復してくるのは早くて7、8月ごろとみており、日銀による次の利上げは最短で四半期に1回の経済・物価情勢の展望(展望リポート)を議論する10月の金融政策決定会合とし、後ずれする可能性も相応にあるとみている。
渡辺氏がサービス価格の弱さを理由に今回示した見方は、1ドル=152円に迫る約34年ぶりの円安水準も踏まえて、早期の追加利上げを見込む市場の見方とは対照的だ。ブルームバーグが3月会合後の21日に実施したエコノミスト調査では、約6割が次回利上げは10月までに行われると予想。10月の26%と7月の23%が拮抗(きっこう)している。
日銀は3月18、19日の会合で17年ぶりの利上げに踏み切り、イールドカーブコントロール(長短金利操作、YCC)の廃止や上場投資信託(ETF)の新規購入の停止も決めた。今年の春闘やサービス価格の動向などを背景に、賃金と物価の好循環の強まりが確認されたと説明した。
渡辺氏は、利上げは「3月はもちろん、強い数字が想定されない4月も無理だと思っていた」という。3月の利上げ決定は、データよりも「急がなければならない大事な大人の事情があったのだろう」と推測。円安対応の可能性については、多少の利上げでは効果は限定的であり、考えにくいと語った。
今後の政策対応については、引き続き景気の下支えが必要な状況の中で、3月会合のようなデータを無視した乱暴なことはしないとし、「データディペンデントになるだろう」とみている。植田総裁の姿勢を踏まえれば、「データを見ながら、受け身だが普通の政策判断になるのではないか」との見方を示した。
バランスシート
今回の政策変更は、不要なものを捨てる断捨離のようなものとし、最も重要なポイントは多額のバランスシートを残したことだと指摘。大規模な国債買い入れで、日銀の当座預金残高は550兆円弱と国内総生産に匹敵する規模に拡大している。今後は金融機関の決済需要や長期金利の安定などの観点から、過去の水準よりも多めの残高を保有する「ある種の新しい普通」を模索する段階に入ったとみる。
2001年から06年まで行われた量的緩和政策の前後の当座預金残高は10兆円を下回っていた。植田総裁は大規模緩和の終了に伴い「バランスシートのサイズを徐々に縮小していく方向感」としているが、政策変更前から続く月間6兆円程度の国債の買い入れを含め、縮小のタイミングは「現時点で確たることは申し上げられない」と明言を避けている。
日銀が一定規模の国債を保有し続けることで、財政ファイナンスとの指摘が出る可能性があるが、渡辺氏は、財政規律は政府や国会がルールなどを作って維持するのが本筋だと主張。新たな水準へのバランスシートの圧縮には「何十年、何百年かかっても構わない」としつつ、バランスシートの「遠景として目指す姿などについて、日銀は年内にも方針を示した方がいい」と語った。
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