日銀が17年ぶり利上げ決定、世界最後のマイナス金利に幕-YCC廃止
伊藤純夫、藤岡徹
2024年3月19日 12:39 JST 更新日時 2024年3月19日 14:14 JSTブルームバーグ
ETFの新規購入も停止、13年来の大規模金融緩和が転換点迎える
無担保コール翌日物レートを0-0.1%に、緩和的な金融環境を継続
日本銀行は19日の金融政策決定会合で、世界で最後のマイナス金利(マイナス0.1%)を解除し、17年ぶりの利上げを決めた。イールドカーブコントロール(長短金利操作、YCC)の廃止や上場投資信託(ETF)の新規購入の停止も決定し、2013年4月以来の大規模な金融緩和政策は転換点を迎えた。
新たな政策金利については、無担保コール翌日物レートを目標とし、0-0.1%に誘導する。当座預金の超過準備に対する付利は0.1%に一本化され、3層構造は終了した。新たな市場調節方針と付利は21日から適用する。現時点の経済・物価見通しを前提にすれば、「当面、緩和的な金融環境が継続する」と明記した。
YCC廃止後の長期国債の買い入れは、おおむね従来と同程度の金額で継続する。長期金利が急激に上昇する場合は、毎月の買い入れ予定額にかかわらず、機動的に買い入れ額の増額や指し値オペ、共通担保資金供給オペなどを実施。足元は月6兆円程度だが、実際の買い入れに際してはある程度の幅をもって予定額を示すとしている。
政策金利の引き上げは、07年2月に無担保コール翌日物金利の誘導目標を0.25%前後から0.5%前後に変更して以来。16年1月に導入が決まり、8年間にわたって続いてきた異例のマイナス金利に終止符が打たれた。
日銀が政策正常化に向けた一歩を踏み出したことで、市場の関心は今後の利上げや国債買い入れのペースに移る。午後3時半からの植田和男総裁の記者会見や4月会合で議論する新たな経済・物価情勢の展望(展望リポート)などを基に、政策展開を探ることになりそうだ。
大規模緩和の役割終了
今回の金融政策の枠組みの見直しについて、最近のデータやヒアリング情報から、賃金と物価の好循環の強まりが確認されてきており、展望リポートの見通し期間終盤にかけて、2%の物価安定目標が持続的・安定的に実現していくことが見通せる状況に至ったと判断したと説明。マイナス金利政策やYCCなどの大規模な金融緩和は「その役割を果たした」としている。
声明では先行きの金融政策運営に関し、引き続き2%の物価安定の目標の下で適切に金融政策を運営すると説明。マネタリーベースの拡大方針を示したオーバーシュート型コミットメントは「要件を充足した」とし、「必要があれば、躊躇(ちゅうちょ)なく追加的な金融緩和措置を講じる」との文言も削除された。
野村証券の岡崎康平シニアエコノミストは、「フォワードガイダンスおよびオーバーシュート型コミットメントが落とされたことから、少しタカ派的な印象を受ける内容」と指摘。足元の円安や賃上げ動向を踏まえると、「25年前半ぐらいまでインフレ率は2%を超えるような状況が続く」とし、10月会合での0.25ポイントの追加利上げを予想した。
10年に導入した中央銀行として異例のETFと不動産投資信託(J-REIT)の新規購入を停止。コマーシャルペーパー(CP)と社債の買い入れは、段階的に減額し、1年後をめどに終了する。貸し出し増加支援の資金供給や気候変動対応オペなどは、貸付利率を0.1%に引き上げ、貸付期間を1年として実施する。
円安進み150円台
日銀会合結果を受けて東京外国為替市場では円売りが優勢となっており、対ドルでは発表直前の149円30銭前後から150円台前半まで下落した。債券相場は上昇し、新発10年債利回りは一時3ベーシスポイント(bp)低い0.725%。東京株式相場は上昇し、日経平均株価は0.5%高の3万9900円台で推移している。
マイナス金利の解除については賛成7人、反対2人。中村豊明審議委員と野口旭審議委員が反対した。長期国債の買い入れについては賛成8人、反対1人で、中村委員が反対した。
植田総裁が賃金と物価の好循環を判断する上で重要なポイントに挙げていた春闘は、連合が15日発表した第1回回答集計で平均賃上げ率が5.28%と33年ぶりの高水準となった。これを受け、市場では今回会合でのマイナス金利の解除など正常化観測が急速に強まっていた。
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(詳細とエコノミストコメントを追加して更新しました)
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