黒人暴行死デモ、全米に拡大 コロナ禍で国の混迷一段と
新型コロナ 北米
2020/5/31 10:43
黒人死亡事件への大規模な抗議活動が全米に広がっている(30日、ワシントン)=ロイター
【シリコンバレー=佐藤浩実】警官の暴行による黒人死亡事件への抗議活動が燎原(りょうげん)の火の如く全米に広がっている。30日には主要30都市以上で大規模デモが起こり、29日に続いて警官隊と衝突した。新型コロナウイルス対策が続くなか、人との距離が取れないデモは感染の拡大を招きかねない事態となりつつある。ただ、深刻な人種問題に根ざす抗議活動を無理やり抑え込むと火に油を注ぎかねず、当局は難しい対応を迫られている。
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米の暴動、各地で広がる 黒人死亡に抗議
西部カリフォルニア州のロサンゼルス。30日は黒人暴行死に抗議する人らが数百人規模で集まり、警官隊との小競り合いに発展した。デモ参加者に火を付けられたパトカーからは炎と黒煙が上がった。ニューヨークや南部ルイジアナ州ニューオーリンズなど全米各地で大規模なデモが起きた。
発端はミネソタ州ミネアポリスで25日に黒人のジョージ・フロイドさんが警官の暴行を受け、その後に死亡した事件だ。「息ができない」と助けを求めるフロイドさんの姿を現場に居合わせた市民がSNS(交流サイト)に投稿し、全米に衝撃を与えた。警官は29日に殺人容疑で逮捕されたが、抗議活動は収まる気配がない。一部は暴徒化し、争乱への発展を懸念する声も出始めた。
シカゴでは一部のデモ参加者が市営バスの屋根に上り、「正義がない限り、平和はない」と訴えた(30日)
各地の自治体は暴徒化の抑制に苦慮している。30日にはミネアポリスのほか、ケンタッキー州ルイビルやコロラド州デンバーなど少なくとも8市が夜間の外出禁止令を発令した。ミネソタ州のワルツ知事は最大で1万3千人強の州兵をミネアポリスの監視に充てると表明。国防総省も必要に応じて陸軍を動員できる準備に入った。ジョージア州やオハイオ州なども州兵を動員する。
デモ参加者の多くはフロイドさんの死に関して警察の説明責任と社会正義を求めることを目的にしている。ただコロナ禍での外出制限でたまった憂さを晴らすために参加する若者も多いようだ。
略奪や暴力を目的とした人も少なくないと自治体関係者は訴えている。ミネアポリスなどではスーパー大手が略奪の標的となった。カリフォルニア州オークランドではホンダの自動車ディーラーから車を盗み出す事件も起きている。暴徒化によるビジネスへの影響もじわり広がりつつある。昼間は秩序だったデモであっても、日が落ちた後に過激になる例が目立つ。
抗議活動は一部が暴徒化し、略奪を繰り広げる事例も相次いでいる(ミネソタ州ミネアポリスの店舗、30日)=ロイター
抗議は米国に根ざす人種差別という問題を起点としているだけに、やみくもに抑え込むと活動の激化を招きかねないリスクをはらむ。ニューヨークのデブラシオ市長は平和的なデモならば認める考えを表明。「抗議活動をする権利は守る。だが、あなたの前にいる警官が今回の問題をつくったわけではないことは尊重してほしい」と訴えた。経済再開を求める抗議活動が5月上旬に起きた際に「集会は一切認めない」と一刀両断にしたのとは対照的な対応だ。
悩ましいのは全米で広がる今回の抗議がコロナ問題を抱える局面で起きていることだ。米国ではいまなお1日あたり2万人前後のコロナ感染者がでているが、抗議活動の様子はまるでパンデミックが終わったかのようだ。ミネソタ州のマルコルム厚生長官はデモが感染拡大をもたらすことを警戒。「集会に参加する人は感染リスクを十分認識してほしい」と訴えた。
抗議活動が警官隊と衝突するケースも(30日、ニューヨーク市)=ロイター
各州が経済再開に踏み切るなか、感染の拡大を抑制するには社会的距離の確保に加え、感染者の追跡もポイントとなる。ミネソタ州セントポールでは「(暴徒化し)逮捕された人は皆よそから来ていた」(同市のカーター市長)。遠くから来たデモ参加者が抗議活動中に感染し、ウイルスを地元に持ち帰る――。こんな悪循環を引き起こすリスクが膨らみつつある。
米国では数年ごとに警官による黒人暴行事件が社会問題になり、大規模な抗議活動に発展している。2014年にはミズーリ州ファーガソンでマイケル・ブラウンさんが警官に射殺された。ロサンゼルスでは、1991年にスピード違反で逮捕されたロドニー・キングさんが暴行を受ける事件が起きている。
16年にトランプ大統領を誕生させた米国では社会の分断と不平等が一段と進んだ。コロナによる死者が10万人を超え、米経済が戦後最悪の局面に陥るなかで加わった黒人暴行事件は、国家の危機を一段と深めている。
新型コロナ 北米
2020/5/31 10:43
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発端はミネソタ州ミネアポリスで25日に黒人のジョージ・フロイドさんが警官の暴行を受け、その後に死亡した事件だ。「息ができない」と助けを求めるフロイドさんの姿を現場に居合わせた市民がSNS(交流サイト)に投稿し、全米に衝撃を与えた。警官は29日に殺人容疑で逮捕されたが、抗議活動は収まる気配がない。一部は暴徒化し、争乱への発展を懸念する声も出始めた。
シカゴでは一部のデモ参加者が市営バスの屋根に上り、「正義がない限り、平和はない」と訴えた(30日)
各地の自治体は暴徒化の抑制に苦慮している。30日にはミネアポリスのほか、ケンタッキー州ルイビルやコロラド州デンバーなど少なくとも8市が夜間の外出禁止令を発令した。ミネソタ州のワルツ知事は最大で1万3千人強の州兵をミネアポリスの監視に充てると表明。国防総省も必要に応じて陸軍を動員できる準備に入った。ジョージア州やオハイオ州なども州兵を動員する。
デモ参加者の多くはフロイドさんの死に関して警察の説明責任と社会正義を求めることを目的にしている。ただコロナ禍での外出制限でたまった憂さを晴らすために参加する若者も多いようだ。
略奪や暴力を目的とした人も少なくないと自治体関係者は訴えている。ミネアポリスなどではスーパー大手が略奪の標的となった。カリフォルニア州オークランドではホンダの自動車ディーラーから車を盗み出す事件も起きている。暴徒化によるビジネスへの影響もじわり広がりつつある。昼間は秩序だったデモであっても、日が落ちた後に過激になる例が目立つ。
抗議活動は一部が暴徒化し、略奪を繰り広げる事例も相次いでいる(ミネソタ州ミネアポリスの店舗、30日)=ロイター
抗議は米国に根ざす人種差別という問題を起点としているだけに、やみくもに抑え込むと活動の激化を招きかねないリスクをはらむ。ニューヨークのデブラシオ市長は平和的なデモならば認める考えを表明。「抗議活動をする権利は守る。だが、あなたの前にいる警官が今回の問題をつくったわけではないことは尊重してほしい」と訴えた。経済再開を求める抗議活動が5月上旬に起きた際に「集会は一切認めない」と一刀両断にしたのとは対照的な対応だ。
悩ましいのは全米で広がる今回の抗議がコロナ問題を抱える局面で起きていることだ。米国ではいまなお1日あたり2万人前後のコロナ感染者がでているが、抗議活動の様子はまるでパンデミックが終わったかのようだ。ミネソタ州のマルコルム厚生長官はデモが感染拡大をもたらすことを警戒。「集会に参加する人は感染リスクを十分認識してほしい」と訴えた。
抗議活動が警官隊と衝突するケースも(30日、ニューヨーク市)=ロイター
各州が経済再開に踏み切るなか、感染の拡大を抑制するには社会的距離の確保に加え、感染者の追跡もポイントとなる。ミネソタ州セントポールでは「(暴徒化し)逮捕された人は皆よそから来ていた」(同市のカーター市長)。遠くから来たデモ参加者が抗議活動中に感染し、ウイルスを地元に持ち帰る――。こんな悪循環を引き起こすリスクが膨らみつつある。
米国では数年ごとに警官による黒人暴行事件が社会問題になり、大規模な抗議活動に発展している。2014年にはミズーリ州ファーガソンでマイケル・ブラウンさんが警官に射殺された。ロサンゼルスでは、1991年にスピード違反で逮捕されたロドニー・キングさんが暴行を受ける事件が起きている。
16年にトランプ大統領を誕生させた米国では社会の分断と不平等が一段と進んだ。コロナによる死者が10万人を超え、米経済が戦後最悪の局面に陥るなかで加わった黒人暴行事件は、国家の危機を一段と深めている。