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Snowmint

Ca m'est reste dans l'esprit.

「国境の南、太陽の西」村上春樹

2005-10-02 | BOOK
村上春樹の小説は、どうしてこんなにも切ないのだろう。
何が悲しいとか、どこか悲しいというわけじゃない。
ただ切ない。

「とても残念なことだけど、ある種のものごとは、後ろ向きには進まないのよ。それは一度前に進んでしまうと、どれだけ努力しても、もうもとに戻れないのよ。もしそのときに何かがほんの少しでも狂っていたら、それは狂ったままそこに固まってしまうのよ。」

そう言った彼女の言葉が琴線に触れ、私の胸の警笛が鳴った。ヤバい!

主人公を苦しめた「たぶん」や「しばらく」という曖昧な言葉にも、以前苦しめられた。
「期待」という愚かな思いに縛られるからだ。
それでも、それを待たずにはいられず、また苦しい思いを引きずるんだ。
そんなことさえ思い出してしまった。

自分を不完全だと感じたり、人とは違う何かに気付いてしまったとしても、違う自分を演じられる人は上手く生きていけるものだと思ってた。
そんな風に生きてはいけない不器用な人の方が生きにくいと。
しかしそれは違う。上手く順応しているように見える人のほうが自分を偽っていることに苦しんでいる。
そんな不完全な自分を埋めてくれる存在に出会えたら、簡単には手放せない。
うっかり目を離してしまったら、絶対に後悔する。
他の誰もその代わりにはなれない。
きっとまたずっと、その人を待ち続けるんだろうな。永遠に、戻らない事を知っていたとしても。

読み終えて、私も彼のように、暗闇の中で海に降る雨のことを思い、泣いてしまった。
広大な海に、誰に知られることもなく密やかに降る雨のことを思う。

雨の日に思い出を持つものではない。それが辛いものではなく、たとえ楽しいものであったとしても、雨が降るたび思い出す。
雨が降るたび、切ない思いに駆られてしまう。

本を読んで泣くことは少ないのに、村上氏の描く喪失感にまた泣かされてしまいました。



「あやし」 宮部みゆき

2005-10-01 | BOOK
読んだもの日記です。
ブックオフで105円で買いました。

相変わらず上手な文章でぐいぐい読ませてくれる。
宮部みゆきは好きで何冊か読んでいたのだが、時代小説は始めて読んだ。
在り来たりのお化けや妖怪で怖がらせるなんて手法ではなく、心の中の恐怖を引きずり出されるような恐ろしさだ。
しかし、ほんの少しではあるが、物足りなさを感じるのは何故だろう。
池波正太郎の描く色気や艶、藤沢周平の得意とする人情などと比べると、それが薄いからかもしれない。
時代小説には、現代物とは違う世界観が必要。
江戸という町で暮らしているという生活感が必要なんだ。
江戸時代でも初期中期後期によって姿が違う。
そういう「色」が見えてこない。
宮部さんも頑張ってるんだけど、ちょこっとあっさり塩味って感じです。

個人的には「安達家の鬼」が好きです。
人は自分を映した鬼の姿を見る。
それが見えないうちは、まだまだ半人前なのですね。

Book!

2005-09-27 | BOOK
昨日スパイラルで懐かしい本と再会した。
昔、私が買った洋書の料理本。また入荷したんだね。
ベジタリアンのレシピ本で、写真が美しい。
気に入りの本だったが気に入っていただけに、料理の好きな人の身近に置かれ頻繁に開いてもらったほうが良いと思い、友人の誕生日にあげてしまった。
それは後悔してないけれど、あげた友人はもう遠くに行ってしまった人だから、それはもう見ることの無い本かと思っていたからびっくり。

表紙を見た瞬間、「ああ、あの本だ!」とすぐに分かった。

そっと開く。懐かしい。

もう一度買おうか、再び私の手元に置こうか、

とても迷ったけど、やっぱり買わずにその場を離れた。

友人にあげたあの本との本当の再会を、淡く期待しているんだね、きっと。


待つ楽しさと読める喜び

2005-09-03 | BOOK
新聞小説って読んだことあります?
今は新聞を取っていないので読めませんが、朝と夕刊の小説を読むのが楽しみでした。
朝刊と夕刊って、載る小説のカラーが違うのですよ。
夕刊のほうが娯楽小説っぽいものが掲載されるんです。
私はNHKの朝ドラを見るのが好きなんですけど(笑)、毎日少しずつ進むお話、っていうのが新聞小説に似ているような気がします。

昔、電車の中で、新聞小説を切り取り束にしてクリップに留めているものを読んでいる女性がいたんですよぉ。
あれは邪道だ!!!
だったら単行本を買ってしまえー! と思ってしまいました(^_^;)

なんてことを思い出し、久しぶりにスティーヴン・キングの「グリーン・マイル」を読んでみました。

今はハードカバーでも売っていますが、あれが97年に発売された当初は薄い単行本6冊でした。
それも一ヶ月ごとに出たんです。
先の展開をわくわくして待つ喜びを読者に感じてほしいという、キングの試みでした。

続きを待ちながら、出たらかぶりつくように一気に読んでしまった当時のような感動を得られないのは、やっぱり家に6冊揃っているからでしょうか・・・。


「ブッダの生涯」 ジャン・ボワスリエ

2005-08-21 | BOOK
1995
創元社
ジャン ボワスリエ, Jean Boisselier, 富樫 瓔子

12月8日と聞いて何を思い出すだろう。
若い人ならジョン・レノンが暗殺された日、歴史に詳しい方なら開戦記念日かもしれない。
どちらにしても、あまり印象の良くない日であるのだが、これは私のお誕生日でもあった。
しかし、12月8日は、ブッダが悟りを開いた日でもある。
そんなことでちょっと興味を持って読んでみました。
仏教関係の本というと、東洋人の書いたものが多いと思うのだが、これを書いたジャン・ボワスリエ博士はフランス人。
南方所伝の仏伝文学の文献と西洋における近代仏教の諸文献に基づき、ブッダの生涯や時代、仏教の歴史を、とても簡潔に、かつとても冷めた感じで書いている。そこがいい。
なんか、入れ込んでないっていうか(笑)
研究者としては当たり前のことだとは思うけど、宗教関係の本は、個人の思い入れの強いものもあるので。
私自身、仏教は、いい所もあるんだけど聞けば聞くほど同意できない部分もあって、ちょっと駄目です。
でも学問としては面白いと思う。
とくに一人の人に焦点を当てた読み物や歴史は面白い。
この本は絵や写真が沢山あり、とても綺麗で、文章も読みやすいです。

「神の子どもたちはみな踊る」 村上春樹

2005-08-15 | BOOK
近頃、この東京でも大き目の地震が続いている。
だからというわけでもないが、昔読んだ本をもう一度読んでみた。

阪神大震災を背景に、6つのお話が収められたオムニバス。
地震そのものを体験した人の話ではない。
それぞれの話につながりも無い。

巨大な破滅に少しでもかかわった人々の心模様・・・かな。
どの話にも、「希望」や「再生」が見える。

タイランド、蜂蜜パイが好きです。


村上春樹は、若い頃からずっと好き。今でも好きです。
新刊が出るともったいなくて読めないほど(笑)
今までも過去の作品は何度も読み返しています。
定番ですが、「ノルウェイの森」が好き。
なんとなく、ノスタルジーを感じさせてくれるんですよね。
そして切なく、甘酸っぱい。
次にノーベル文学賞をとる日本人は彼だと信じています。
予言。

「幸福論」 アラン

2005-07-29 | BOOK
読んだもの日記、というよりも私のバイブルです(笑)

アラン「定義集」の中の
『イチゴにイチゴの味があるように、人生には幸福の味がある』
という言葉が好きです。
定義集は、言葉に宝石箱のような本でした。

「幸福論」は、友人の勧めで読みました。
以来、虜です(笑)

岩波版神谷幹夫氏訳の本は、手に入らないかもしれない。
もしかしたら岩波には在庫ないかも・・・。
しかし集英社から白井健三郎さんが訳した文庫もあります。 ぜひぜひ。

自分自身が嫌いな人、自分は不幸だと思っている人にはぜひ読んでほしい。

難しい言葉を並べている本ではありません。
とても身近なたとえで、私たちに幸福に過ごすコツを教えてくれる。

「雨のなか」が好きです。
そのなかでアランは、

『小雨が振っていたとする。あなたは表に出たら、傘を広げる。それでじゅうぶんだ。「またいやな雨だ!」などと言ったところで、なんの役に立とう。雨のしずくも、雲も、風も、どうなるわけでもない。「ああ、結構なおしめりだ」と、なぜ言わないのか。』

-中略-

『人間のことも雨同様にみなすがいい。それは容易なことではない、とあなたは言うかもしれない。ところが容易なのだ。雨に対してよりもずっと容易なのだ。なぜならあなたが微笑したところで雨に対してなんということもないが、人々に対しては大いに役に立つからだ。そして、たんに微笑みのまねをしただけでも、もう人々の悲しみや悩みを少なくする。』

この本は、私を幸せにしてくれる。


「最後の瞬間のすごく大きな変化」 グレイス・ペイリー

2005-07-16 | BOOK
村上春樹 訳、というのが気になり、単行本を一冊買った。

グレイス・ペイリー「最後の瞬間のすごく大きな変化」

これが難解。 
春樹氏が後書きにも書いているが、話が気分しだいであちこちにシフトしてしまう。
読み進んでいけばいくほど、訳の分からない迷宮に迷い込んでしまったかのような文章の中に放り出されてしまう。
しかし、その中に魅力的な詩的表現がちりばめられていて、目が離せない。
なんだろう。おと?センテンスのリズム?
これが何とも心地よい。

じつはこの本、まだ読了していません。
半分ほど読んだところで、
この本は簡単に読んでしまうにはもったいなさ過ぎる。
ということに気が付いたのです。
あっさり読み終わってしまうにはもったいない本だ。
この本は、私が何かを待っている時に読む本にしよう。
友人を待っている喫茶店、病院の待合室、どこでもいい。
終わりのあるなにかを待っている時間にこの本は読みたい。
繰り返し、行ったり来たりしながら、何度も何度も彼女の言葉を浴びる喜びに浸りたい。

しかしこれはもしかしたら鞄の隅にこの本を、いつも忍ばせておきたい、という思いなのかもしれない。




「嫌われ松子の一生」山田宗樹

2005-06-26 | BOOK
書店で見かけては気になっていたのだが、何となく読む気になれなかった。
帯に書いてある内容があまりに暗すぎる(笑)
題名も、「嫌われ松子の一生」だもの。
惨めな死で終わる不幸な女の一生を読みたいと、誰が思うだろうか。
はぁ~い、私です(爆
だって本屋の店先でパラッと開いてしまったら、とり付かれてしまったのですもの。
読み始めたら、ぐいぐい引き込まれます。
二日で読み終えてしまいました。あ~、もったいない。

松子は愚かだ。
読めば読むほどそう思う。なのに、どんどん彼女に惹かれてしまうのは何故だろう。
幸せを求めれば求めるほど、不幸への階段を転がり落ちてしまう彼女の生き様から目が離せなくなる。

躓くきっかけは、必ず男。
「愛してる?」「愛してる?」「愛してる?」
愛が欲しかったんだね。

身内から、その存在を抹殺されていた彼女であったが、本当の死によって、甥っ子が彼女を知ることとなる。
見知らぬ叔母の死に遭遇し、生を追いかけることで、彼自身も人間としての成長を得る。
それは読んでいる者も同じかもしれない。