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Snowmint

Ca m'est reste dans l'esprit.

「女王の百年密室」森博嗣

2006-01-08 | BOOK
文章を作ることは数学に似ている、と思っている。
それは操る言葉の美しさとはまた別の話で、文章の成り立ちや物語の組み立て方のようなもの。
もちろん、数学的なセンスを感じずとも素晴らしいものに出会うことも多い。
しかし私は、理系の作家の書く文章が好きだ。

森博嗣の作品はS&Mシリーズと四季の全て、Vシリーズのいくつかと短篇、水柿教授の文庫を一つとナ・パ・デアを読み、Gシリーズも読み始めた。
それらから比べると、これはかなりSF。

この物語に対して何の情報もないまま読み始めた。
なので、不思議な感じ。
近未来なんだ!
読み進むと、そこは2113年だということが分かる。
私の今生きている世界とはあまりにかけ離れた世界。
しかし全く想像できない進歩ではなく、そうだな、もう少し文明が進んだら、こんな感じになるかもしれない、という程度。そして主人公が迷い込んだ世界はちょうど百年前の文明のまま、つまり現代に近い。

彼女の秘密、彼の秘密。
女王の秘密、Cityの秘密。
そして想像のできない結末。

拒んでも訪れるのが「死」。しかしここにそれはない。あるのは永遠の眠りだけ。そしてそれに意味はなく、「生」の存在と証明さえ無意味だ。
肉体さえ不確か。
これを読んだらそう感じてしまう。
罪もなく罰の無い世界は、果たして楽園だろうか。

登場人物はとても少ない。なので、そうかな?と思った部分がそうであったものもあった。
しかし、私の貧困な想像力は、あのラストまでは予測することはできなかった。

「フランチェスコの暗号」イアン・コールドウェル&ダスティン・トマスン

2006-01-06 | BOOK
西欧世界における黎明記の印刷物の中で、もっとも重要視されると同時に、もっとも難解な書物として知られている実在の書、「ヒュプネロトマキア・ポリフィリ」。
その謎の作者フランチェスコ・コロンナと、ヒュプネロトマキアに隠された本当の意味を探る学生の物語。
この本に魅せられた学生が、五世紀もの間解読されなかった物語に隠された秘密を解き明かしていくが、それに伴い次々と殺人事件が起きる。

しかしただの推理小説とは異なり、ヒュプネロトマキアについての記述も多く、この難解な書の秘密が解き明かされていく過程も面白い。

そして主人公が父を亡くして以来ずっと逃れられずにいるヒュプネロトマキアの呪縛と父への思い、卒業を前にした学生達の希望と不安、
そうではないと知っていても、永遠であると信じたい、愛と友情が全編を通して描かれ、主人公が時折つぶやく哲学的な言葉も心に残る。これはどちらの手腕だろう。

推理劇ではあるが、青春の最後の一こまらしく、甘酸っぱく、切ない。
しかし、ミステリーの謎解きに関しては面白みに欠けている。
帯に書かれた「もしもウンベルト・エーコ(『薔薇の名前』)とダン・ブラウン(『ダ・ヴィンチ・コード』)そしてフィッツジェラルド(『グレート・ギャッツビー』)が手を組んで小説を書いたとしたら、それはまさしく『フランチェスコの暗号』)になるだろう」というネルソン・デミルの言葉は大げさだろう。
『薔薇の名前』は他と比較できる物ではありませんから!



時代小説(四)

2006-01-05 | BOOK
今年はいくつか時代小説を読もうと思う。
世の中で一番好きな時代小説家は池波正太郎。しかし、悲しいかな読み尽くしてしまった。
そしてもう新作が出ることはない。

誰を読もうかと迷っていたときに、これが目に留まった。
「時代小説 読切御免第四巻」

これはいい。
好きな作家を探すにはもってこいの本じゃないか!
とはいっても一、二、三巻はまだ未読。
(四)が最新刊コーナーにあったので、とりあえず買ってみました。

藤沢周平、宮城谷昌光、北方謙三、火坂雅志、鈴木輝一郎、佐藤雅美、平岩弓枝の七篇。

私は戦や政治の話より、市井の人の暮らしぶりの見られる話や、少ない禄で慎ましく暮らす武士のお話などが好き。

藤沢周平「岡安家の犬」と、平岩弓枝「老鬼」が良かった。
この二人の作品はいくつか読んでいて、面白いのは分かっていた。
やはり、知らない作家を探すなら、一、二、三も読むべきだろうか?

「神の手」上・下 P・コーンウェル

2006-01-03 | BOOK
つい読んでしまった小説がシリーズ物になり、その内容如何に拘らず、買わずにはいられなくなる症候群・・・です。
年末恒例のP・コーンウェル検視官」シリーズ「神の手」です。
読み終わって真っ先に思ったことは、
「これを映像化するのは難しい」
紙の上でしか成り立たない。どんなに上手く造っても、映像ではすぐにネタばれだろう。
検視官のシリーズは始めから前作まですべて読んでいる。秀作もあればそうでない物もあったが、内容よりも登場人物たちの行方が気になり、放り出すことが出来ない。
世間の探偵たちが数々の幸福な偶然に見舞われながら事件を解決していくのとは異なり、塵のような証拠を拾い集め、それを科学的に証明していく様が好きだった。
そっと、うっかり破いたりなどせぬように、まるで薄い皮を剥ぐみたいに、ピリピリと音の出るよな緊張感の中で核心に迫っていく、
そんなスタイルが好きだったのだが、最近のものには、それを感じない。
余分なプロットを増やしてじりじりと読み手を焦らし(いや、途中で観客は気づいてしまうのだから、焦らしてないのかも)、ご都合主義な結末。
え~?!これって少年探偵コナンですか?と言いたくなるほど。
それでもやっぱり、今年の年末も買っちゃうんだろうな・・・(-_-;)

「サヨナライツカ」辻仁成

2006-01-02 | BOOK
失った恋が辛いのは、その人のことがまだ好きだからだろうか。
それとも楽しかった思い出が懐かしく、ただそれが忘れられないだけなのか。
別れ際に受けたひどい仕打ちに傷つき、悲しみから抜け出せない人もいるだろう。
悲しみは歳月が癒してくれる。しかし、愛した記憶や辛い気持ちはいつまでも消えることが無い。

辻仁成という人のことはよく知らない。
ただ、家族を捨て、新しい愛に走った人だということは知っている。
家庭を持つ女の立場から見たら、ひどい男だ。
しかし、愛された女は幸福。
たぶん、自分に正直に自分を裏切らずに生きる人なのだろう。
しかしそういう意志を貫く人は、多分に誰かを傷つける。
その犠牲の上に成り立つ幸せなどあるのだろうか?
それは疑問ではあるけれど、それを越えてでも得たい愛、というものもあるのかもしれない。

この小説を書きながら、作家は大きな決断をする。
物語の主人公が25年も抱え続けた、あの切なくも苦しい後悔を持たないように、新しい運命を歩みだす。
この作品が作者の人生を大きく左右した。

死ぬときに、愛したことを思い出すか愛されたことを思い出すか?

私はきっと、愛シタコトヲオモイダス。

タイを舞台にしたオリエンタルな雰囲気も、この夢のような一瞬の出来事には最適な舞台だった。




サヨナライツカ

いつも人はサヨナラを用意して生きなければならない
孤独はもっとも裏切ることのない友人の一人だと思うほうがよい
愛に怯える前に、傘を買っておく必要がある
どんなに愛されても幸福を信じてはならない
どんなに愛しても決して愛しすぎてはならない
ただ巡って人生を彩りあきさせないだけのもの
愛なんて口にした瞬間、消えてしまう氷のカケラ

サヨナライツカ

永遠の幸福なんてないように
永遠の不幸もない
いつかサヨナラがやってきて、いつかコンニチワがやってくる
人は死ぬとき、愛されたことを思い出すヒトと
愛したことを思い出すヒトにわかれる
私はきっと愛したことを思い出す

「 東京タワー ~オカンとボクと、時々、オトン~ 」 リリー・フランキー

2005-12-02 | BOOK
お母さんの物語だった。
読み始め、これはリリーさんの半生、又は家族の物語なのかと思っていたのだが、リリーさんを愛しんで育ててくれたお母さんの半生記だった。

母とはこういうものだ。
親が子を思う以上の想いはない。
求めているうちはそれがわからないのだが、親が自分になにを想っていたのかは、与える立場になって初めてわかる。
そうなんだよね。
自分はこんなにも愛されていたのだと、大人になってから気づくもの。

大切な人のことを想って何が悪い?
好きな人のことを話して、なんで気持ち悪いとか言われなければいけないのか?

まったくそのとおりです。
これはマザコンなんかじゃない。

りりーさんといえばエロなイメージであったが、この本を読んで少し見る目が変わった。
しかし遅刻やサボリを繰り返す学生時代や、美大を卒業しても就職もせずサラ金の借金で首が回らず親や恋人に金をせびる姿は期待を裏切らない。
わたしはこういうダメな人がとても好きなので、
こういう人が実在するということが、読んでいて本当に楽しかった。


「東京奇譚」 村上春樹

2005-11-27 | BOOK
きたん【奇譚】<名詞>
不思議な、あやしい、
ありそうにない話。
しかしどこか、あなたの近くで
起こっているかもしれない物語。

帯の言葉である。

始めの一編「偶然の旅人」の中で村上氏は、自分の身の回りに起こった不思議な偶然について語る。
誰もが「ああ、そういうことってあるよね」と言いたくなるような嬉しい偶然、リンク、シンクロ。
それに出会ったときの、ほわっとした優しい喜びが伝わってくる。
そしてその後に、不思議であやしくありそうにのないがどこかで起こっているような、村上春樹の小説が四編続く。

「日々移動する腎臓のかたちをした石」が好き。
本当に意味を持つ異性が一生に三人しかいないと言われたら、やはりそれは意識してしまうだろう。彼女(彼)は自分にとって意味のある人なのだろうか?
これは意味のある出会いなのだろうか?
もう二人と出会ってしまったというのに今でもパートナーがいないとしたら、最後の一人は慎重にならざるを得ない。
面白いな、と思う。

「品川猿」も良かった。
この作品がこの本の中で一番村上春樹らしいと感じた。


「アフターダーク」 村上春樹

2005-11-15 | BOOK
友人から借り、何の知識も無いままにこの本を読んだ。
読み始め、少し混乱する。
え?私たちは誰?この状況は?と。
村上春樹の、新しい試みだろうか、読む者を巻き込み引き込む、全く新しいスタイルの小説だと思う。

「私たちは目に見えない無名の侵入者である。
私たちは見る。耳を澄ませる。においを嗅ぐ。
しかし物理的にはその場所に存在しないし、痕跡を残すことも無い。」
これが読み手のスタンス。

眠らぬ街の一夜の出来事とそれに繋がる人々の狭間を、時間と距離を飛び越えて覗く。
観察はするが、介入はしない、正統的なタイムトラベラー。

これは覚醒の物語だ。誰もが持っている自分の知らない自分。
自分にもきっとそれがあることを、知らされる。

日常とは、こういうものなのかもしれない。

この本は一気に読まなくては面白みが半減してしまうような気がする。
新しいスタイルの小説だが、村上色はそのままで、昔からのファンは裏切られない。
しかし少々あっさり味です。

根気が無くては読めません

2005-11-08 | BOOK
古本屋にも特色があり、得意も不得意もある。
神田辺りに行けばそうだろうと思っていたが、
はたして近所の古本屋もそうだった。
最寄り駅近くには古本屋が三軒あるのだが、一軒は漫画が多い。もう一軒は雑誌。
そして最後の一軒は写真集や美術書、専門書、マニア本などが多い。
その三番目の本屋が長男のお気に入りらしく、そこでよくこんなものが!?というような物を買ってくる。
今夜もその戦利品を見せてもらった。
なかなか面白そうなのだけれど、字が小さい!
読みたいなと思っても、最近根気が無くってね・・・。

世界の映画作家10篠田正浩吉田喜重
(田山力哉・富岡多恵子・遠藤周作・関根弘ほか)
出版社名 : キネマ旬報社
発行年月 : 1971年5月

現代のシネマ5 アラン・レネ
著者/訳者名 : ガストン・ブーヌール著/岡本利男訳/解説・吉田喜重
出版社名 : 三一書房
発行年月 : 1977年00月

デザインになにができるか
著者 : 粟津潔
出版社名 : 田畑書店
発行年月 : 1969年7月


100円ショップで本を買う

2005-10-16 | BOOK
食わず嫌いなんです。
駄目だと感じたら一切読まない。
そのかわり、興味を持ったらとことん読む。
芥川、夏目、三島は、若い頃に読破しました。(若かったからできた所業)
現代の人では村上春樹と池波正太郎が好きです。
でもね、太宰だけは駄目だったんです。
文章には惹かれましたが、内容に共感できなかった。本なんて、共感できなくてもいいとは思うんですけどね、少し読んで、「だめだ!」と思ってしまった。
しかし、食わず嫌いは良くないなと思い始めた今日この頃・・・
100円shopで、ふと、目に留まった。
ダイソーの文学シリーズ。
これ、おもしろいです。
「この本を読む前に」なんて解説が最初についていたり、
文章の下に「難しい語句の解説」なんてのもある。
しかも、「スピーチや手紙に使ってみよう」とか・・・。
「桜桃」の「子供より親が大事・・・」というフレーズを、保護者会や懇談会で使ってみましょう~なんて、ずいぶんとチャレンジャーじゃありませんか?(^_^;)

他の本も買ってみたいです。