福島原発事故、二大事故との違い(2)
(ナショナルジオグラフィック)
[ 2011年3月18日17時 ]
◆放射能漏れの影響
スリーマイルと同様に、福島原発の原子炉でも、燃料被覆管、原子炉圧力容器、原子炉格納容器の3重の壁で放射能漏れを防いでいる。チェルノブイリは格納容器が無い設計だった。
放射性物質が大気中に漏出すると、広大な範囲に影響を及ぼす可能性がある。「汚染の度合いは距離と関係ない。つまり、遠く離れているからといって必ずしも被曝量が少ないわけではない」とロッシュバウム氏は説明する。その要因の1つである卓越風により、影響を受ける範囲が変わってくるという。チェルノブイリでは、発電所から150キロ以上離れた場所が数十キロ圏内よりも高濃度で汚染された例もある。
「チェルノブイリはまったく常軌を逸していた。放射性物質は格納容器のない原子炉構造と黒鉛の火災が原因で上空に舞い上がった」。黒鉛火災は10日間続き、長引く漏出の間に天候が変わった。放射性物質の気体と粒子は風に乗って上空まで運ばれ拡散し、現場から遠く離れたところで雨と共に地上に降り注いだという。
スリーマイルの放射能漏れは即座に健康被害が出るほどのレベルではなかった。国際原子力事象評価尺度(INES)では、最悪のレベル7より2段階低いレベル5(施設外へのリスクを伴う事故)に分類している。チェルノブイリはレベル7(深刻な事故)にランクされ、極めて多数の被曝者を出した。
福島第一は当初、レベル4(施設外への大きなリスクを伴わない事故)にランクされていたが、今後どこまで影響が及ぶのかは未知数だ。300キロ近く離れた東京では15日、通常の23倍の放射線量が計測されたが、同日中に10倍程度にまで下がっている。
◆被曝に関する正しい知識を
アメリカでは、自然界のほか、医療処置や一般的な商品など人工の発生源から被曝する放射線量は、平均で年間6.2ミリシーベルト(1ミリシーベルト=100ミリレム)だという。
AP通信によると、厚生労働省は15日、原発作業員の被曝量の上限を100から250ミリシーベルトに引き上げた。米国原子力エネルギー協会(NEI)の調べでは、福島第一原発の放射線量は15日午後に毎時11.9ミリシーベルトに達したが、6時間後には毎時0.6ミリシーベルトまで低下したという。
国連とNRCの調べによると、チェルノブイリでは、最初の爆発現場で800~1万6000ミリシーベルトもの放射線を被曝した作業員600人のうち、134人が急性の放射線疾患を発症したという。このグループの2人は事故時の火災と放射線被曝によって命を落とし、28人が3カ月以内に死亡している。さらにその後、4000人もの人々が被曝によってこの世を去ったとみられている。
公衆衛生の観点から見ても、史上最悪の被害を巻き起こし、6000人以上の子どもたちが放射線被曝によって甲状腺癌(がん)を発症した。そのほとんどは、汚染された牛のミルクを飲んだことによる内部被曝だという。
◆情報開示の大切さ
「福島の危機を乗り越えるために、世界中の原子力業界が共同体勢を取って情報交換している。業界内で活発な情報交換が図られている点で、スリーマイルやチェルノブイリとまったく違う」とウィルムシャースト氏は語る。
当然、原発事故に関する情報は業界外にも伝わる必要があるが、東京電力はこの点で厳しい批判にさらされている。15日には国際原子力機関(IAEA)の天野之弥事務局長が日本政府に対し連絡体制の強化を要請した。共同通信によると、同日に菅直人首相は東電本社を訪れ、幹部を叱責。爆発事故の連絡が首相官邸まで届くのが遅れたためで、「一体どうなっているんだ」と情報伝達の必要性を強く訴えたという。
スリーマイルの事故当時は、原子炉を冷やして安定化させる作業が行き詰まっていても、当局側は国民に対して「危険は過ぎ去った」と説明するだけだった。チェルノブイリでも情報はほとんど開示されていない。世界原子力協会(WNA)は、「チェルノブイリの直接の引き金となったのは、冷戦時代の孤立状態が生んだ安全意識の欠如だ」との見解を示している。
アメリカ環境保護庁(EPA)は1986年のある論文の中で、「チェルノブイリ事故では当初、深刻な隠蔽工作が行われた」と述べている。実際、ソ連で大規模な原発事故が発生した事実が国際社会で明らかになったのは、翌日にスウェーデンの原発作業員の衣服から大量の放射性物質が検出されたことがきっかけだった。ただちに発生源の調査が行われ、ソ連は日が変わってからようやくチェルノブイリでの事故を認めた。情報不足のため、死者数から付近の原子炉での火災まで、さまざまな憶測が流れたという。
日本でも状況が悪化するにつれ、高まる危険性を過小評価するような関係者の発言に非難が集中している。エネルギー環境研究所(IEER)の所長アージュン・マキジャニ氏は、原子力業界が用意した脚本をなぞるかのような日本政府の対応を批判する。「脚本のタイトルは“全然大丈夫”というところだろう」。
「判明した事実と不明点。損害の大きさとそれがもたらす結果。情報を率直に伝えることが、国民からの信頼につながる」と同氏は話す。「しかし現在のところ、会見では放射線量の低さで安全を強調しているが、対照的に避難指示の範囲は広がるばかりだ」。
「Wall Street Journal」紙によると、日本政府は東電からの情報伝達の遅さを非難しているという。憂慮する科学者同盟(UCS)の世界的安全保障プログラム(Global Security Program)の物理学者で、核管理研究所(Nuclear Control Institute)の元所長エドウィン・ライマン氏は、「東電の会見は回を重ねるごとに曖昧になっている」とのコメントを寄せた。
「日本の関係者から出される情報の精度にばらつきがあるのは明らかだ。だが、それはいまだに状況把握に追われている状況を示しているのかもしれない」とライマン氏は続けた。同じくUCSの核専門家エレン・バンコ(Ellen Vancko)氏も、「現場は相当な混乱状態にあるだろう」と同意する。
「アメリカや他の国々の業界で、今回の事故があいまいにされなければよいが」とライマン氏は語った。「福島第一原発事故は原子力開発の歴史上、最も深刻なレベルにあると考えている」。