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『新・中国人と日本人―ホンネの対話』

2010-11-17 06:56:02 | 世界
本書の発行日は2010年11月20日です。著者から献本して頂いたのでもう読了することが出来ました。しかし出版間際になってなってあの尖閣諸島海域の事件が起こって「まえがき」を書き直し、序「尖閣諸島漁船衝突事件はなぜ大事(おおごと)になったのか」を加筆するなどして、最後まで大変だったと想像しています。

『中国人と日本人―ホンネの対話』が書かれた2005年と現在を比べると、日本が停滞していたのに対して中国経済の膨張は凄まじく、今年はGDPでも中国に追い抜かれるのが確定的です。秋葉原を歩けば中国人の団体客が溢れていますが、より多くの中国庶民は東南アジアへ繰り出しています。行き先のベスト3は”新・馬・泰”、つまりシンガポール・マレーシア・タイです。中国の庶民の年収でも頑張れば海外旅行が出来る条件が出来たのです。

日本への旅行は東南アジアへの旅行より高くなりますが、最近は100万人を超える中国人が日本にやって来ます。主な目的はショッピングです。私達がびっくりするほどのお金を使うのは、親戚の分までまとめて購入するからです。このあたりの事情は本書に詳しく書かれています。
何より彼らが驚くのは日本の都市の清潔さです。そして日本的サービスです。この情報を持って故国に帰り、ありのままの日本の良さを親戚・友人に吹聴するでしょう。中国にも生息する「ネットイナゴ」の数を減らすにはこれが一番でしょう。

中国のお客さんが求めるのは日本製品の品質の高さです。高品質の商品は中国国内では生産されず、入手が極めて困難であり、メイド・イン・ジャパンを所有することは一種のステータスになっています。一方私達日本人も中国製品無しの生活を考えることは出来ません。「ダイソー」には常々お世話になっていて、求めるのは低価格です。

中国で本格的な技術開発が行われない事情を著者の林さんは拿来主義(ナーライチューイー、外から持ってくる主義、魯迅が使った言葉)として説明しています。開発部門を持たなければ製品のコストを下げることが出来て、同業他社との競争に勝つことが出来ます。業界が低価格路線を走っている時に、悠長に独自技術を開発していたら潰れてしまうのです。

日本が中国へ「ハイテク製品」を輸出していたのは最近に限ったことではありません。今から600年ほど前の室町時代、当時の勘合貿易で日本は中国に刀剣を輸出していました。しかもその数は半端ではありません。年間約1万振りにのぼります。日本刀の製作には技術と手間がかかります。平安時代後期に確立した技術は殆ど変化していないはずで、詳しい製作工程は日立金属のサイト「たたらの話」に詳述されています。
中国が刀剣を日本に求めた理由は明らかで、その品質です。中国で出土される刀剣は鋳造品であって、精密に鍛造された日本刀には比べることが出来ません。中国の代表的な刀剣「柳葉刀、りゅうようとう」の幅が広いのは強度不足だったからでしょう。日本の製鉄技術は大陸伝来なのに、家元ではこれを発展させることが出来なかったのです。
Wikipediaで「勘合貿易」を引いてもその具体的なイメージを描くことが出来ません。それで大雑把ですが、日本の武器輸出の規模を計算してみました。まず現在の貨幣価値で日本刀の単価を想像してみます。1万円/本では安すぎ、100万円/本では高すぎるので、10万円/本と仮定してみます。すると年間100億円の取引になります。室町時代の日本の人口は約1千万人、商船の大きさや頻度を考慮すると大変な規模と言えるでしょう。中国からの輸入品では銅貨が目立ちます。鋳造品です。勘合貿易でも日本の大幅な輸出超過であったと考えて間違いないと思います。

この拿来主義によって発展できなかったのは製造業に限りません。拿来が最も容易に出来るのがソフトウェアです。巨大なマンパワーが存在するのに、画期的なソフトウェアが中国で生まれないのはこのためでしょう。より根源的な理由について述べられているのが第3部「グローバルスタンダードと中国人」です。

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