ヨーロッパの社会ではキリスト教が大きな影響力を持っている。
それ故、カトリックの総本山的存在ローマ教皇庁の、最高責任者である歴代のローマ法王は、日本人の想像を遥かに超える絶対的な存在となっている。
1978年の9月30日、そのローマ法王ヨハネ・パウロ1世が謎の死を遂げる。ローマ法王に就任して、僅か33日の出来事だった。
死因は急性の心筋梗塞だと発表された。
しかし、ほとんどの人々は、ヨハネ・パウロ1世の死を、単純な病死と解釈することができなかった。
何故なら、彼は数週間前の健康診断で、心臓を含めて全身のどの部分にも異常が認められない健康体だと診断されていたからだ。お酒もタバコも縁が無い上、心臓病の既往歴は全く無い。まるで何かに呪われた死の様な匂いさえする。
人々は、その呪いの基は秘密結社フリーメーソンにあるのではないかと、不審の目を向ける様になっていた。
フリーメーソン。今もその実体は秘密のベールに閉ざされ、団体の規模やメンバー構成などは明らかにされない謎の団体である。
フリーメーソンが結社されたのは18世紀初頭。ロンドンでだったと伝えられている。
20年も経過しないうちに、海を越えてアメリカのフィラデルフィアに支部が結成されるなど、見る見るうちに勢力を拡大して行った。
結成の目的は「自由、博愛、平等」な社会を実現することで、その為にはカトリックと云う伝統さえも根絶すべきだと云う考え方を持っている。カトリックの司教から権力を剥ぎ取り、新しい時代のキリスト教のあり方を模索すると云うのは、結局、カトリックの絶対権力者であるローマ法王を、排除すべき敵と見なしていると云う見方ができる。
また、フリーメーソンのメンバーの多くが政財界などに発言力を有する名士が多いと噂された。
嘗て、プロイセン(現ドイツ)国王だったフリードリヒ2世もメンバーだったと言われ、地位の高さと潤沢な資金を背景に、世界の動向を自分たちが描いたシナリオどおりに動かそうとしていると噂されている。それ故、ローマ法王の不審な死に、フリーメーソンが関わっているのではないかと云う疑いが浮上したのである。更にフリーメーソンは、敵視している相手の中枢部にも平気でメンバーを送り込むパワーを持つとも言われて来た。
実際、ローマ教皇庁の御膝元であるバチカン市国内にも、数多くのメーソン聖職者が入り込んでいると指摘されている。而も、彼らはメーソンのメンバーであるイタリアの政財界や官僚と手を組み、バチカン銀行の資金を悪名高きイタリア・マフィアに不正融資する仲介をするなど、ヨハネ・パウロ1世就任時は社会問題化していた。
ヨハネ・パウロ1世は、そんな現状を打破しようと。バチカン内のメーソン聖職者や職員を追放する計画を立て、実行に移そうとしていた。解職されるのは100人余りになると言われ、画期的な大改革になるものと予想されていたのである。そんな矢先のヨハネ・パウロ1世の急死である。呪いと言うより、疑惑の目がフリーメーソンに向けられたのは当然の結果である。
ヨハネ・パウロ1世の死に疑問を持ったバチカン記者クラブは、遺体を解剖して死因を正確に掴むべきだと主張した。
バチカン市民もそれに賛同したが、バチカンの国務長官だったヴィロ枢機卿は、故パウロ6世の教皇継承規定の中に解剖禁止の項目があると云う理由からこれを拒否し、遺体を防腐処理してしまう。
実は、このヴィロ枢機卿もメーソン聖職者の一人と言われ、解職される予定のメンバーに連なっていたと言われている。而も、修道女からヨハネ・パウロ1世の死を最初に聞いて駆けつけたのがヴィロ枢機卿であり、法王の主治医ではない医師を呼んで心筋梗塞と云う診断結果を発表したことで、益々ミステリーの色合いが濃くなっている。こうして、事の真相は明らかにされないまま、ヨハネ・パウロ1世の死は闇に葬り去られた。
(画像 ヨハネ・パウロ1世)
呪い あなたの知らない不気味な世界
呪いの惨劇はこうして起きた