折角なので、松本竣介の作品から1940年代に青を基調とした風景がから、人物の典型が印象的な作品をいくつか。
まずは1942年6月の「風景」。デッサンでは「ゴミ捨て場付近」となっている。リヤカーと人と犬が印象的である。デッサンでは犬はいないが、油彩画では犬が書き込まれた。「画家の像」「立てる像」の強い意志を示す人物の後ろ姿とは思えない。都会で疲れた俯き加減の男の像である。
次が1943年の「並木道」。ルソー風の作品と言われる。都会の憂愁と不安が全体に漂っていると私は感じている。この作品、日本画家の伊藤深水が自由美術展で感銘を受けて生涯手元に置いていたという。
そして1947年の「ニコライ堂付近」。人物が点景として描かれた最後の作品と思われる。戦前・戦中の青い絵具から「Y市の橋」と同じく茶褐色の絵具へと変わり、そして人物像もどことなく落ち着かない場所に据えられている。
この人物が描かれている戦前・戦中の作品に出会うと私はホッとする。特にデッサンではこの人物が鮮明に描かれている。興味は尽きない。