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伊東良徳の超乱読読書日記

はてなブログに引っ越しました→https://shomin-law.hatenablog.com/

青い春を数えて

2023-09-20 22:59:55 | 小説
 高1のときにNHK杯全国高校放送コンテストで県大会1位になって全国大会に出場した部長と同級生でそのとき自分は本番では頭が真っ白になって結果を出せなかった高3の放送部員の宮本知咲と人見知りをして他の部員と話せていなかった高1の森唯奈、宮本の同級生で受験科目でない生物はまったく勉強せず赤点を取って補習を受け続ける辻脇菜奈と模範的な成績優良児の長谷部光、辻脇の個別指導塾での担当教師の大学生の妹で料理好きで手作り料理をSNSにアップして好評を博している高1の森崎真綾と同級生で男子の制服で登校する吹奏楽部の米谷泉、米谷と電車の中で絡んで知り合った他校の高3の清水千明、学校をサボり続けて放校寸前の清水と同級生で学校に行けなくなった学級委員長の細谷の5組の高校生たちの悩める姿を描いた短編連作青春小説。
 第4話の清水千明を別の高校の生徒として第5話もそちらの話で終わっています。清水千明を同じ高校の3年生にして第5話で絡む相手を放送部長の三浦有紗にするというパターンを、普通の作家なら目指すと思うのですが、そこはどっちがよかったのか…
 私のサイトで書いている小説「その解雇、無効です!」の主人公(狩野麻綾)と同じ読みの登場人物(真綾)が登場するのを見て、読んでしまったのですが、森崎真綾も含め、慕われるあるいは普通にやっていると見える女子高生の内心の鬱屈・ひがみ・やさぐれを描きながらフッと力を抜いて前を向けるという展開で、爽やかなというか安心できる読後感です。


武田綾乃 講談社文庫 2021年7月15日発行(単行本は2018年8月)
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マインドエラー

2023-09-18 23:25:29 | 小説
 埼京線戸田公園駅西口から歩いて15分くらいの住宅街に住みレンタルビデオ店でバイトする大学生の豊平章教が、はす向かいに住む幼なじみで小学生の頃同級だったが高校生のときに母親が7つ年下の弟が通う小学校でPTA会長とともに自殺したためにひっそりと暮らしつつ今は美容師になるために専門学校通いをしている友成果瑠が自宅内で殺害された事件に翻弄されつつ真相を探ろうとするミステリー小説。
 狭いコミュニティを舞台としているということはあるけれども、それにしても関係者の地縁・血縁が濃すぎるというか都合よすぎる印象を持ちます。
 また、親の育児放棄なり無責任さが子の人格・犯罪性向を決定づけるという意識、中学生の犯罪の凶悪性・残酷さを非常に強調する傾向が見え、そういう主張ももちろんあろうかと思いますが、私はちょっとイヤな感じがしました。


永山千紗 文芸社文庫 2023年2月15日発行
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サンズイ

2023-09-17 20:49:11 | 小説
 元総務事務次官で参議院議員に転身した議員の公設第1秘書大久保俊治を汚職事件の容疑で追及していた警視庁捜査2課の刑事で、かつて代議士の秘書を務めていた父親が代議士の指示を受けて行った不正を一身にかぶって自殺したことから警察官を志した園崎省吾が、検察庁からの圧力で警視庁としては手を引いた後も上司の黙認の下で相棒と2人で潜行捜査を続けていたところ、妻がひき逃げされて意識不明の重体となり、千葉県警捜査1課の刑事から殺人未遂の容疑をかけられ…という展開のサスペンス小説。
 一貫して園崎の側からの語りになっていて、真犯人は誰か、園崎がやった可能性はないかという疑問は呈されることはなく、その意味でメインの「謎」はないのでミステリーではなく、また警察組織の構造・力関係についても若干の言及はあってもその特殊な組織の論理のようなものが前面に展開されるというものでもないので「警察小説」の印象もそれほどはなく、警察を舞台としたサスペンス小説と位置づけるべきかと思いました。そういう点でもシンプルな構造での敵との戦いの物語で、わかりやすく入り込みやすい作品です。


笹本稜平 光文社文庫 2022年7月20日発行(単行本は2019年10月)
「小説宝石」連載
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ジューンドロップ

2023-09-17 00:02:40 | 小説
 母親が不妊治療中で、自らは「閃輝暗点」と診断された偏頭痛を伴う眩い光が見える症状に苦しむミルキー好きの高校生椎谷しずくが、駅前の親水公園の一画にある縛られ地蔵で知り合った「ウメモトタマキ」と名乗る高校生と、地蔵に願う事情を背景としつつ言葉と心情を交わす様子を描いた小説。
 しずくの光視症と偏頭痛、口内炎が折々に姿を現しますが、これはストーリーのアクセントなのか、心象を示すものか…
 タイトルは、植物が梅雨の時期に1本の木が育てられる果実の限界を超えた若い果実、種の入っていない果実や弱い果実を小さいうちに落とす「生理的落果」から(73ページ等)。しずくの母が不妊治療にかける期待と情熱、しずくの立ち位置と感情が反映されているものと読めます。ちょっとせつないですが。


夢野寧子 講談社 2023年7月27日発行
群像新人文学賞受賞作
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リボルバー

2023-09-15 21:51:21 | 小説
 パリ大学で19世紀フランス美術史を学び、そのままパリでゴッホとゴーギャンの関係での博士論文をものにしようと、パリの小規模のオークション会社「キャビネ・ド・キュリオジテ」(通称CDC)に勤める37歳の高遠冴が、フィンセント・ファン・ゴッホの腹部を撃ち抜いたリボルバーだとして持ち込まれた拳銃を調査するという設定で、ゴッホとゴーギャンの関係、ゴッホの死の真相を推理するというミステリー小説。
 史実についてはわかりませんが、さまざまな資料・文献が引用され、作者のゴッホとゴーギャンへの愛情が感じられます。ゴッホとゴーギャンの絵に、これまでとは違う価値を感じられる、これまでとは違う見方ができるように思えるのが収穫だと感じました。


原田マハ 幻冬舎文庫 2023年7月10日発行(単行本は2021年5月)
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雪ぐ人 「冤罪弁護士」今村核の挑戦

2023-09-14 13:36:40 | ノンフィクション
 有罪率99.9%という弁護人にとっては絶望的な日本の刑事司法の下で無罪判決14件を獲得した今村核弁護士(2020年8月没)の刑事弁護の実践、生い立ち・経歴等を描いたノンフィクション。NHKで放送した番組の制作過程での取材を元に出版したものだそうです。
 私自身、刑事事件を(刑事事件も)やっていた頃は、弁護士会内では刑事弁護についてそれなりに評価されていたと思いますが、刑事事件を(刑事事件も)やっていた22年間(1985年~2007年)で全部無罪は1度も取ったことがなく、一部無罪が1件あるだけです。私は、公判請求された後に無罪を取ることは絶望的と認識して、刑事弁護は起訴前弁護の方に力を入れて不起訴を取ることを目指してやっていました。無罪判決14件というのは、弁護士の世界では、とてつもないことです。
 無罪判決獲得に向けた今村弁護士の執念と取り組みに感銘を受けるとともに、弁護士としての経験上わかっていることではありますが、そこまでやらないと無罪判決が取れない日本の刑事裁判って何?と改めて思います。
 著者であるNHKのディレクターが、インタビューで専門は何かと問いかけた(当然聞いている方は冤罪事件が専門と言わせようとしている)ときの今村弁護士の応答が、弁護士の目からは実に切なく、また共感します。「『専門は、冤罪事件です』って言ったらさ、その瞬間に、俺の商売生命は終わりだから。…他の依頼が来なくなるから。いちばん困るような質問なんだよ!」(11~12ページ。133~134ページも同趣旨)。弁護士にとっては当たり前のことなんですが、労多くして報酬がほとんど得られない経済的に割に合わない事件について、専門の弁護士なんて報道されたら営業的にはマイナスにしかなりません(そのあたりはこちらのページで書いています→「弁護士の専門分野」)。そのことを報道側がわかっていない(弁護士は自営業なんだから報道されれば宣伝になっていいだろうくらいの姿勢でいる)ことの方に、私などは驚きます。
 マスコミの人の認識に関して、「巨体、ボサボサ頭、くたびれたスーツ、ヨレヨレタオル、ボソボソ声、無口――――。それも、凄腕弁護士のイメージからかけ離れていた。テレビドラマなどで観る『できる弁護士』と言えば…」(23~24ページ)いうのも、ノンフィクション・ドキュメンタリーやる人なら取材してわかるでしょ、テレビドラマの方がいかにいい加減で現実離れしているか、そちらをテレビ人として反省すべきでしょうに。また、「法律家が自ら『法知識だけでは勝てない』と断言していた」(184ページ)と何か意外なことのように書いていますが、刑事事件だけじゃなくて、民事事件でも、実際の裁判ではほとんどは事実認定の争いで勝負が決します。法解釈以前に証拠・証言をどう評価するかが重要です。そこでは法律以外のさまざまな領域の知識経験がものを言います。そんなこと当たり前なのに、ドキュメンタリーをやる報道人がその認識もないのか…
 そして、同業者としてさらに哀しいのが、冤罪事件で無罪判決を取った場合でさえ、依頼者(の一部だと思いますが)からは「『もともと無実なんだから、勝って当たり前』と言われるので、喜びは意外と少なくて、苦しみばかり多いんですよ」(195ページ)というところ。そして、痴漢冤罪事件で否認を続けるなら妻を逮捕すると言われて妻を守るために虚偽の自白をした夫が妻も支援活動を続けて3年以上かけて無罪判決を得ても夫は拗くれ妻との間に溝ができ結局離婚したというエピソード(111~114ページ)も、弁護士として哀しいところです。今村弁護士はそういうところも怒りに変えてエネルギーにしていたというようですが、大変な労力をかけて勝った場合でさえ報われないこういう事情が、理想に燃えていた弁護士の多くを潰しているのだと、私は思います。


佐々木健一 新潮文庫 2021年5月1日発行(単行本は2018年6月:NHK出版)

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優等生は探偵に向かない

2023-09-13 23:12:28 | 小説
 前作「自由研究には向かない殺人」で判明した5年前のアンディ・ベル失踪事件とサル・シンの死の真実と、その過程で明らかになったレイプ事件の裁判について、「グッドガールの殺人ガイド」のタイトルでポッドキャスト配信を始めたピップが、友人コナーの兄ジェイミーが行方不明状態となっていることについてポッドキャストで捜索をして欲しいとコナーに懇願され、逡巡した後にそれを引き受け、「グッドガールの殺人ガイド」シーズン2としてジェイミーに関する情報を配信し始め、前作で恋人になったサルの弟ラヴィに励まされながら、事件の真相に迫って行くというミステリー小説。
 警察もできなかった真相解明を成し遂げた者(高校生探偵)は、賞賛され尊敬を集めるかというと、自分の事件も解決してくれるものと一方的に期待し、少しでも期待に添えないと感情的になるわがままな者に言い寄られ言い募られる、周囲には陰口をたたき何か足を引っ張れる材料があればと機会を窺う者が溢れ…という哀しい状態。そのあたり、とても共感し身につまされながら読みました。
 前作の原題 " A Good Girl's Guide to Murder " そのままのポッドキャスト番組タイトルを、さすがに邦題にした「自由研究には向かない殺人」とは訳せずに、そこは素直に「グッドガールの殺人ガイド」としています。出版社の思惑で原題とかけ離れた邦題が付けられることが多々ありますが、もう少し考えて欲しいなと思います。


原題:Good Girl, Bad Blood
ホリー・ジャクソン 訳:服部京子
創元推理文庫 2022年7月22日発行(原書は2020年)
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自由研究には向かない殺人

2023-09-12 22:14:02 | 小説
 イングランド南部の小さな町リトル・キルトンで5年前に発生した17歳の少女アンディ・ベルの死体なき殺人事件とその直後に森で自殺したと見られ犯人と断定されているボーイフレンドサルについて、サルが殺人を犯したとは思えない高校生のピップが、「2012年、リトル・キルトンにおける行方不明者(アンディ・ベル)の捜索に関する研究」というタイトルで学校の自由研究を開始し、関係者へのインタビューを続けて事件の真相を解明するというミステリー小説。
 高校の課題という名目で怪しまれずに、相手が断りにくい環境をつくったのが斬新で、ピップの人柄と語り口で重いできごとを比較的明るく読ませ、読み味はいいです。
 ミステリーとしては、わりといいできばえと思いますが、1人目の犯人の心情なり人物設定はもう少し作り込んで欲しかったなぁと思いますし、ラストでもうひとひねりと頑張っているのはいいですがその前に使ったネタをもう一度使われると少しシラケます。


原題:A GOOD GIRL'S GUIDE TO MURDER
ホリー・ジャクソン 訳:服部京子
創元推理文庫 2021年8月27日発行(原書は2019年)
ハヤカワ・ミステリマガジン「ミステリが読みたい!2022年版」海外篇1位
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黄昏の百合の骨

2023-09-11 21:43:32 | 小説
 「麦の海に沈む果実」の釧路湿原内の学園を出てイギリスに留学していた水野理瀬が、祖母が死にその遺言で祖母と義理のおば(祖母の夫の連れ子)の梨南子・梨耶子姉妹が住んでいた周囲の住民から白百合荘とも魔女の家とも呼ばれる長崎の坂の上の洋館に6か月居住することとなり、祖母が生前説明してくれなかった「ジュピター」なるものの秘密をめぐって、隠された財宝の存在を疑う義理のおばたち、従兄弟で大学病院の勤務医の稔と起業した大学院生の亘、近所に住む理瀬の同級生やその弟、幼なじみらが錯綜するミステリー小説。
 りりしく逞しく育った理瀬が、16歳の高校生ながらに同級生はもちろんのこと、年上の者たちを超えた洞察力、胆力を示して謎や事件に取り組んでいく姿に好感します。
 正義と悪で割り切れない、暗闇の「こっち側/そっち側」を飲み込む覚悟、それに対して「自覚していない悪」をどう受け止めるかなどを考えさせられました。


恩田陸 講談社文庫 2007年4月13日発行(単行本は2004年3月)

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麦の海に沈む果実

2023-09-10 21:56:17 | 小説
 釧路湿原内の閉鎖された領域に建てられた寄宿制の広大な学園に入れられた14歳の少女水野理瀬が過ごす学園生活とそこで起こった事件を描くミステリー小説。
 閉鎖的な学園、寮ごとに分けられ「ファミリー」単位での生活、主人公を特別扱いする謎めいた校長、聡明で周囲から一目置かれ賞賛される一方で妬まれ疑惑をかけられて孤立する主人公、その中でも絆を結ぶ数少ない友人の存在、時として幻覚・悪夢とも思われる脳内映像に悩まされる主人公、学園内で催されるさまざまなお祭り的行事と生徒が巻き込まれる悲惨な事件、そしてハロウィーンに起こる特別なできごと…といった設定・展開は、私には「ハリー・ポッター」との共通性を感じさせます。「終章」がなければ、私には、この作品はハリー・ポッター類似の読み物と受け止めたでしょう。
 水野理瀬の人物像が、当初からの聡明ではあるが自信のない不安定な少女から終章で一変するところが、この作品の肝ではありましょうけれども、私はそこに馴染めない気持ちがあります。どちらかといえば最初から終章のような人物像であればそれをより肯定的に評価できたのに、という思いがあるのです。
 文章については、情景描写の巧みさに感じ入りました。


恩田陸 講談社文庫 2004年1月15日発行(単行本は2000年7月)
「メフィスト」連載
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