伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年に続き2023年も目標達成!

ユーロ消滅? ドイツ化するヨーロッパへの警告

2013-05-05 20:07:04 | 人文・社会科学系
 ユーロ危機とギリシャやイタリア、スペインなどの救済プログラムを通じて、経済財政問題が最大の問題とされ、ドイツがヨーロッパの教師として力を持ちそのように振る舞う姿を、ドイツの社会学者である著者が分析評価するとともに、経済問題にのみ目を向けるのではなく政治と社会の問題として欧州の連帯を考え強化してゆくべきことを論じた本。
 EUがかつての敵国を良き隣人とし独裁政権を安定した民主制に移行させ市民に政治的自由と高い生活水準を享受させている世界最大の市場・通商ブロックであるという成功した側面を忘れてはならず、もしEU前に逆戻りするとしたらどうなるか、そのようなことに耐えられるのかが問題提起され、それを忘れて経済・財政的危機を語ることを戒めています。ここ数十年の大きなできごと(チェルノブイリ原発事故、9.11、気候変動、ユーロ危機など)は起こる前には想定もできず、その結果・影響がグローバルなもので、「リスク社会」「拡大する非知」、すなわち明日起こるかもしれないカタストロフィを今日永遠に予期し続ける(原発は爆発するかもしれない、金融市場は暴落するかもしれない)仮定が常態と化す社会が、現在の西洋社会の特質となっている、その混乱した脅威が巻き起こす感情が権力を集中させ憲法と民主主義のルールが気にかけられなくなるということが指摘されています。後者は、ヨーロッパに限ったことではなく、危機を煽り排外主義的な感情をかき立てたがる政治家や官僚たちが危機管理の名の下に権力を集中したがる様子を、どこの国であれ注意すべきでしょう。
 「アテネだけでなく、ヨーロッパ中どこでも、『富者と銀行には国家社会主義で臨むが、中間層と貧者には新自由主義で臨む』という下から上への再分配を主導する危機管理政策への抵抗が広がっている」(10ページ)という指摘には、思わず膝を打ちました。そう、新自由主義を考えるときに、いつもストンと落ちなかったのは、新自由主義者が自己責任を語るのは貧者に対してだけで、富豪と銀行には新自由主義は適用されていないことです。かつて国家はむき出しの資本主義から社会的弱者を守る制度を創り、富める者から取った税金を貧者に再分配していた、少なくともそうすべきと考えられていたのに、今では貧者に対してはむき出しの弱肉強食を強いておきながら貧しき者から取った税金を企業に再分配して強者を助けている(例えば消費税を増税するとともに法人税を減税するとか、銀行や東京電力に税金を際限なくつぎ込んで救済するといったように)わけです。こういうことをやる連中は庶民から愛国心を失わせるだけだと思うのですが。
 学問的なモデルなどの議論が取っつきにくいですが、EUという試みの価値と政治家と市民、債権者と債務者などの亀裂と双方の視点への考察が、私たちには東アジアや日本では?という思考のきっかけともなり、示唆に富む本だと思います。


原題:Das deutsche Europa
ウルリッヒ・ベック 訳:島村賢一
岩波書店 2013年2月26日発行 (原書は2012年)

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