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伊東良徳の超乱読読書日記

はてなブログに引っ越しました→https://shomin-law.hatenablog.com/

チェインギャングは忘れない

2012-09-20 19:37:35 | 小説
 恐喝と傷害で懲役1年6月の実刑を受けて刑務所に護送中の大貫修二が脱走し、大貫を検挙した所轄署の神崎らが大貫の脱走の動機を計りかねながら大貫の行方を追ううち、大貫がトラック運転手水沢早苗と同行しているという情報を得て・・・というサスペンス小説。
 明るめ軽めのタッチの小気味よい展開、終盤まで大貫の動機という謎をうまく保持した上で最後までひねり続ける姿勢で、ミステリーとしてもエンターテインメントとしてもきちんと読ませてくれます。大貫のダンディズムというかヒロイズムも、読後感をよくしています。ちょっと、それはないだろとも思いますが、そこが小説だともいえるあたりの収まりどころが、私にはいい感じに思える作品です。


横関大 講談社 2011年11月24日発行
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大いなる時を求めて

2012-09-19 20:40:18 | 小説
 日本の植民地時代に朝鮮で育ち、戦後李承晩政権下での左翼弾圧を逃れて日本に密航してきた青年が、在日組織の指示で始めた同人誌活動で金日成個人崇拝の組織中央に反発して軋轢を生じる様を描いた小説。
 日本の植民地化で親世代の創氏改名や朝鮮語の禁止への反発と屈辱感を描きつつ、生まれたときから日本語教育しか受けず日本姓を名乗って生きる在日朝鮮人の立場の複雑さ、忸怩たる思いを表現し、それが組織中央からは朝鮮語で活動しないことを批判されるという形でさらに捻れた思いとして表されています。さらに主人公が、日本統治下の朝鮮人、反共の米軍支配下の社会主義者、在日朝鮮人社会での朝鮮からの密航者、在日朝鮮人組織での中央の指令に反発する地方組織、中央の金日成崇拝に同調しない同人誌の主宰者と、いずれの時点でも周辺側、弾圧を受ける側に位置することで、弾圧を受ける側の生きにくさと恐れ、反骨としたたかさを描いています。そういった周辺側、抑圧される側の存在と思いが、読みどころというか感じどころなのだろうと思います。
 他方、主人公の変遷の中での一貫性や設定の必然性には疑問もあり、小説としてうまく流れていない感じが残ります。また、連載の単行本化にありがちな、同じことの繰り返しの直し落としが目につきました。


梁石日 幻冬舎 2012年2月25日発行
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東京ディープぶら散歩

2012-09-18 08:24:12 | 趣味の本・暇つぶし本
 東京の街角に残る古い建物や看板や装飾類を紹介する本。
 銭湯や老舗の店の紹介が多めで、私の関心では、「セキグチ」(モンチッチなどのキャラクター商品が主力商品)が四ツ木近くの古い建物でやってると紹介されていて(54~55ページ)なんだかうれしく思いました。
 紹介されているものの大半は戦前からのもので、戦前への回顧なんですが、著者自身は「武道館といえば、昭和四十一年(一九六六)六月三十日、この武道館にて、ビートルズの日本公演第一回目を見たことを思い出す」(140ページ)、「新宿といえば、頭に浮かぶのは、昭和四十四年(一九六九)新宿駅西口地下広場での反戦フォークソング集会のころのこと」(118ページ)といういかにも全共闘世代で、地の文では70年代への回顧も目につきます。戦前への回顧と70年代への回顧が整理も区別もなく一緒になっていることに、私はやや違和感を持ちますが、そういう点にこだわらない雑学趣味にはいいのかなと思いました。


町田忍 アスペクト文庫 2012年5月31日発行
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ニキの屈辱

2012-09-17 21:49:28 | 小説
 若くして地位を確立した写真家ニキと写真家志望のアシスタント加賀美和臣の出会いと別れを描いた恋愛小説。
 女の子扱いされることを嫌い、写真家の自分に興味を持たれることを嫌うニキが、業務上はモデルに気を遣い関係者にも若くして成功して苦労を知らないなどと言われないように姿勢を低くしながら、アシスタントには高圧的に振る舞うとともに弱音を吐く姿に、才能を片手に一人で仕事を勝ち取り生き抜く者のしんどさが表れていてせつない。傍目には強いキャリアウーマンに、憧れの目で接して、内側のつらさや危うさを知った加賀美の驚きと、密かな高揚感も、読ませてくれます。
 しかし、それでもなお、別れ際には、ニキが気持ちいいって思うことを何でもしてあげようとがんばっていたという加賀美と、加賀美が思いつく気持ちいいやり方があったら全部つきあってあげようと思って一生懸命つきあってきたというニキの、セックスをめぐる認識のすれ違いが表面化するくだりに作者の真骨頂があるように思えます。
 とんがったキャリアウーマンの反省で終わるのは、萎縮的なニュアンスがあるのと、ストーリーとしてももう一ひねり欲しい感じがして、私の好みとしては、ニキにその屈辱感を跳ね返すラストが欲しかったのですが。


山崎ナオコーラ 河出書房新社 2011年8月30日発行
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しょうがない人

2012-09-17 00:23:52 | 小説
 自然素材サプリメント販売店でパート勤めしている河埜日向子43歳が、高校の同級生の勤務先社長辺見渚左、パート仲間の50代の蒲田と木内と、家族・親族との関係の悩みを打ち明けたり励ましたりしながら過ごす、世間話的短編連作。
 従姉で元客室乗務員の有閑マダムのジコチュウぶり、優雅でできる姑の当てこすり、大学時代のサークル仲間の見果てぬ夢の就活と不倫、携帯とお小遣いアップを目指す思春期の娘との冷戦、夫とラーメン屋を営む妹とその親族への違和感、社長が学生時代に通ったバーのバーテンだったコンサルタントのタヌキ親父ぶり、長時間電話で相談してくる悩ましい顧客、自宅をゲストハウスにして貸したいと言い出した両親とそれを支持する妹一家との確執、自分に事前に相談しないで話をつけた夫に対する反発といったネタを元に、日向子の感情や、それを職場での愚痴にしての顛末を綴るというスタイルです。
 9話構成のうち最後の3話は続く形ですが、それ以外はネタを拾い出しての1話完結になっています。
 中年主婦の理解されたい願望、隣の芝生は青い的視点が、自営業者的な視点の社長や介護経験者の同僚からの揶揄とセットで綿々と語られていて、掲載誌の「婦人公論」読者層には共感なりカタルシスを、そうでない読者には中年の主婦ってこういうこと考えてるのねって感想を呼ぶ読み物かなと思います。


平安寿子 中央公論新社 2011年5月25日発行
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エリアナンの魔女 1~6

2012-09-15 13:25:13 | 物語・ファンタジー・SF
 異世界の大陸「エリアナン」で赤毛の双子の姉妹イサボーとイズールトを中心に魔女や反乱軍が、魔女や妖精を弾圧する謎の王妃マヤや王家と対立するティルソワレーの「光の戦団」、「薊のマルグリット」らと闘う冒険ファンタジー。
 りりしく力強い魅力的な女性キャラが多数登場し、イメージとしては女性版指輪物語というところ。私にとっては、「イズールトかっこよすぎる。惚れた」という作品です。
 原作は6巻組のところ、日本語版は前半3巻だけをそれぞれ上下に分けた6巻本として出版しています。そのため最後は一応大団円のようにも見えますが、よく読むといろいろと中途半端。後半は出版しないということだと日本語版の出版社の姿勢が問われるところです。
 日本語版が前半だけの出版になっていることと、暴力・流血シーンが多すぎるきらいがありますが、人物造形の魅力と冒険ファンタジーとしての構想・読み味はなかなかのものです。
 湿原の妖精メスマードはイメージや「死のキス」からハリー・ポッターのディメンターとの共通性を強く感じますし、透明マントが出てくるのも。出版時期を見るとメスマードはエリアナンの魔女の方が先で、透明マントはハリー・ポッターの方が先のようですが、同時期に並行して書かれた作品だけに影響し合ってるというところでしょうか。


原題:The Witches of Eileanan
ケイト・フォーサイス 訳:井辻朱美 徳間書店

魔女メガンの弟子 上 2010年12月31日発行 (原書は1997年)
魔女メガンの弟子 下 2011年1月31日発行 (原書は1997年)
黒き翼の王 上 2011年2月28日発行 (原書は1998年)
黒き翼の王 下 2011年4月30日発行 (原書は1998年)
薔薇と茨の塔 上 2011年5月31日発行 (原書は1999年)
薔薇と茨の塔 下 2011年6月30日発行 (原書は1999年)
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幻影の星

2012-09-02 00:54:01 | 小説
 酒類販売会社で働く諫早出身の熊沢武夫のもとに母親からポケットに撮影日付が6週間先の写真データ入りのSDカードが入った自分が買ったばかりのレインコートが送り届けられ、日常業務に追われながらその不思議を考え、それを突き止めようと動く主人公らの様子を描いた小説。
 東日本大震災後の無常観と重ね合わせて、自分以外の全てをイリュージョンと捉える堀江さんと、自分以外には現在はなく目に入るものは全て「過去」である(当該物質が過去に発したあるいは反射した光を認識するしかない以上、目に入るのは全て「過去」の姿)と捉える主人公の、存在や時間を相対化した議論が時折見られ、難しい言葉は使っていませんが、認識論等の哲学的な思弁を要求されるところがあります。
 荒唐無稽な話ですが、もし自分に主人公同様に未来の写真を収めたSDカードが送られてきたらどうするでしょうか。未来を変えないためにその通りに行動するか、その未来を変えるために別の行動をするか。なぜそこでコートやSDカードが持ち主の手を離れたかを考えると主人公にとって好ましくないできごとがまず予測できますから、私だったらその日その撮影場所には近寄らないと思うのですが。
 前半には一定の重さをもっていた堀江さんという魅力的なキャラが後半では登場せず、作品の半分が過ぎてもう一人の主人公が登場するという構成は、最初からの構想なのかわかりませんが、読んでいる側からはぶつ切りにされた感が残ります。


白石一文 文藝春秋 2012年1月15日発行
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タラ・ダンカン9 黒い女王 上下

2012-09-01 22:53:51 | 物語・ファンタジー・SF
 魔術が支配する「別世界」の人間の国「オモワ帝国」の世継ぎの17歳(8巻では途中で16歳になったという説明でしたが、9巻のはじめでタラが知らないうちに8巻のうちに17歳になっていたという注がついています:上巻6ページ、38ページ)の少女タラ・ダンカンが、様々な敵対勢力の陰謀や事件に巻き込まれながら冒険するファンタジー。
 この9巻では、8巻で悪魔のパワーを吸い取って自らの内側に悪の化身「黒い女王」を抱え込んだタラが、黒い女王が皇宮内で表に現れたことからお尋ね者として指名手配されながら、敵マジスターのセレナ(タラの母親)の幽霊を悪魔の宝のパワーを使って生き返らせる計画を阻止するために仲間たちとともに建国の始祖デミデリュスが5000年前に悪魔の宝を封じ込めるために創造した海底の広大な洞窟をさまざまな防御装置に苦しみながら進み、マジスターと先陣争いをし・・・という展開を見せます。
 圧倒的に魔力の強いタラ、力が強いモワノー、ファフニールなどの力強く魅力的な女性キャラを中心に立てていながら、近刊ではお色気路線に走りがちだったのが、9巻では新たな女性指導者のヘーグル5とサリュタを登場させ、タラに「女性を見くだすことは、人類の半分を見くだすことだわ」と久しぶりに自覚的なフェミニスト的発言をさせています。タラの恋愛の相手も、これまでイケメンで戦闘能力の高いエルフのロバンだったのを幼なじみのカルに切り替えたことも含め、初期の元気な女の子のファンタジーとしての新鮮さを改めて感じさせ、私には好感が持てました。
 このペースで最初に言っていたとおり10巻で完結に向かえば締まってよかったと思うのですが(作者は現在は12巻まで書くと言っています)。
 悪魔の宝で死者を蘇らせるとか、5000年前の建国の始祖が幽霊としてではなく現れて(「灰色時間」の中にいたとか・・・)強い魔力を発揮して次々困難を解決するとか、これだけ何でもありにされると緻密に考えたり批評しようという気力もなくなります。それはそれでおもしろいからそれでいいと割りきるべきなんでしょうね。
 悪魔の宝も、確か私の記憶(記録)では6巻で13個+悪魔のシャツとパンツで15個と説明されていたのが、今回何の説明もなくマジスターが着用している悪魔のシャツとタラが破壊したシリュールの玉座、ブリュックスの王杖(とクラエトルヴィールの指輪の試作品)の他にクラエトルヴィールの指輪、ドレキュスの冠、グルイグの剣が現存していたと整理されています(下巻177ページ)。
 こういうふうに場当たり的に前提事実が変わったりするのがつらいですが、むちゃくちゃな急展開とこういう場当たり的な説明が9巻も続いているのでたぶん1巻からきちんとストーリーを押さえて読んでいる読者はほとんどいないと思います(私はもう全然ついて行けていません)から、気にする人自体ほとんどいないでしょうね。そういうハチャメチャなパワーに期待する作品というところでしょうか。私はもうかなり疲れてきていますけど。


原題:TARA DUNCAN , CONTRE LA REINE NOIRE
ソフィー・オドゥワン=マミコニアン 訳:山本知子、加藤かおり
メディアファクトリー 2012年8月3日発行 (原書は2011年)

8巻は2011年8月23日の記事で紹介しています
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