伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年に続き2023年も目標達成!

日航123便墜落事件 JAL裁判

2023-03-30 22:02:53 | ノンフィクション
 1985年の日航機墜落事故の遺族が、日本航空に対して墜落機のボイスレコーダーとフライトレコーダーの開示を求めた裁判の1審判決に至るまでの経過についてのノンフィクション。
 実際の裁判についてのノンフィクションは、職業柄、弁護士の訴訟活動のねらいや裁判官の対応とその意味合いなどがある程度見えることもあって、興味深く読めます。この本も、そういう意味で楽しく読みましたが、同時に弁護士の感覚・読みと、当事者(この場合は当事者本人よりもサポーターである著者)の確信・主張のズレを強く認識させられました。当事者なり世間では、道徳的にあるいは自分の価値観上「正しい」者が裁判で勝つ「べき」でありかつ「はず」だと考える人がよくいますが、裁判制度は、原告の請求が法的に認められる内容の請求で、法的に認められる要件となる事実が証拠によって認められたときに原告が勝訴し、そうでないときには敗訴するというしくみです。この裁判でも原告代理人は裁判所にこの請求を認めさせることは容易ではなく、チャレンジとして行っていると考えるべきで、原告代理人の発言からもそれはふつうに読み取れるものです。そして、1審判決が、事故により運送債務が履行不能となって損害賠償請求権に変わった場合に、被害者ないし遺族が損害賠償請求権を行使するかどうかの意思決定をするために、被害者との旅客運送契約上の信義則に基づいて航空会社が情報提供義務を負うこと、そしてその内容としてボイスレコーダー等の開示の余地があることを認めたこと自体、情報公開請求のトップランナーとして闘ってきた弁護士である原告代理人であればこその成果と言えると、私は思いますし、他方でその情報提供義務が、損害賠償請求権を介して認められ、遺族の死者に対する敬慕の情を根拠としては認められなかった(損害賠償については和解済みであるから、情報提供義務もないとして開示請求が認められなかった)ことが、現在の情報開示請求をめぐる法理論と裁判の限界なのだと受け止めるべきでしょう。自分の希望どおりでなかったからと、「不当判決」の一言で終わらせることには、違和感を持ちます。弁護士の仕事をしていてときどき感じることですが、依頼者との関係上とか運動論的(対外的)には言わないことが多いことがら・思いではあります。
 1審判決について、301ページには、原告が受け取った判決文の要旨を316~325ページに掲載すると書かれているのですが、316ページには「以下は筆者による判決文の要約である」と書かれています。ここに掲載されているのは裁判所が作成した判決要旨なのか、著者が要約した要旨なのか、データ・資料の扱いとして、そこははっきりとして欲しい。


青山透子 河出書房新社 2022年11月30日発行
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