伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年に続き2023年も目標達成!

グレイスレス

2023-03-24 23:37:20 | 小説
 母親が離婚時に財産分与で得た都心から車で1時間半ほどかかる家に、母親がほとんど現れなくなった今では祖母と2人で暮らす聖月が、AV撮影時の女優の化粧を生業としながら過ごす日常を描いた小説。
 主人公のスタンスは、「彼女たちの愚かしく美しい顔を、より美しく整えて、より愚かに壊してみたいという執着」が生まれ、「私の心中には、彼女たちにもっと触れたいという欲望と、彼女たちを立ち直ることが困難なほど否定してみたいという欲望が込み上げて、消えることなく今もそこにある」(26~27ページ)、「どちらにせよ精液や唾液や涙で泥のように流れてしまう化粧について、あれこれと注文する女優や譲れない箇所がある女優を面倒だとはあまり思わない。数十分後には裸になり、身体も性も自尊心も数時間の間は放棄する彼女たちがそれでも明け渡さないものがあるのだとしたら、その片鱗に触れる私は幸運だとすら思う」(53ページ)というようなところに置かれています。
 作者が元AV女優ということもあり、一種のお仕事小説という趣で、AV業界にいることについても、また肉体的にも精神的にもハードな環境で壊れそうになりながら仕事をこなす女優たちの様子にも、どこか距離を置いた淡々とした描写が続きます。AV撮影の現場と自宅や家族の様子が入れ替わりながら、ところどころ渾然とするように語られていく様は、いかに特殊な仕事であれ、それに就く者にはそれは日常となり、他方で日常生活にも非日常的なことは起こり、人間はそれらを結局は日常の中に取り込み淡々とこなしやり過ごして行くものというような底意があるのかなと思いました。


鈴木涼美 文藝春秋 2023年1月14日発行
第168回(2022年下半期)芥川賞候補作
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