自分よりできる同僚と社内結婚して2年のレコード会社勤務の37歳の葛西泉が、妻香織が妊娠し臨月まで働き続けるという状況で、それと並行して68歳の母百合子の認知症が進んで行くという様子を描いた小説。
仕事と妻の妊娠に加えて、母の容態への懸念、徘徊等への対応、施設探し、症状悪化を見るダメージ等を通じて、認知症家族の疲れと、しかしもっとできたんじゃないか、もっと寄り添えばよかったという後悔と悲しみの心情を描いています。多くの読者にとって切なく、身につまされるテーマだろうと思います。ラスト6ページの泉の思いには心揺さぶられます。
この作品では、母が中学生だった泉を捨てて愛人と出奔したという過去があり、それを百合子は負い目に感じ、泉もまた複雑な思いを持ち続けていることが、ストーリーに陰影を付けています。もっとも、それが現在の母子関係に与えている影響は必ずしも明らかではなく、その設定がなかったとしても同じような読後感を持つのではないかとも思えます。こういう設定にする以上やむを得ないのかとも思えますが、その過去の1年を百合子の日記で示し、それが54ページにわたって続くというのは、間延び感が強くありました。適当に切って泉の受けた衝撃とか、あるいは現在のできごとを挟んでまた日記に戻すなり、日記全体をもっと短く切り上げるなりした方がよかったのではないかと感じました。
川村元気 文春文庫 2021年7月10日発行(単行本は2019年5月)
「月刊文藝春秋」連載
仕事と妻の妊娠に加えて、母の容態への懸念、徘徊等への対応、施設探し、症状悪化を見るダメージ等を通じて、認知症家族の疲れと、しかしもっとできたんじゃないか、もっと寄り添えばよかったという後悔と悲しみの心情を描いています。多くの読者にとって切なく、身につまされるテーマだろうと思います。ラスト6ページの泉の思いには心揺さぶられます。
この作品では、母が中学生だった泉を捨てて愛人と出奔したという過去があり、それを百合子は負い目に感じ、泉もまた複雑な思いを持ち続けていることが、ストーリーに陰影を付けています。もっとも、それが現在の母子関係に与えている影響は必ずしも明らかではなく、その設定がなかったとしても同じような読後感を持つのではないかとも思えます。こういう設定にする以上やむを得ないのかとも思えますが、その過去の1年を百合子の日記で示し、それが54ページにわたって続くというのは、間延び感が強くありました。適当に切って泉の受けた衝撃とか、あるいは現在のできごとを挟んでまた日記に戻すなり、日記全体をもっと短く切り上げるなりした方がよかったのではないかと感じました。
川村元気 文春文庫 2021年7月10日発行(単行本は2019年5月)
「月刊文藝春秋」連載
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