伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年に続き2023年も目標達成!

総務・人事の安心知識 ハラスメントとメンタルヘルス対策

2022-10-14 22:19:16 | 実用書・ビジネス書
 法令上求められており企業としては実施しておかないと行政指導等の対象となるハラスメント防止対策と、企業にとって従業員の生産性維持のためにも必要なメンタルヘルス対応や休職への対応などをシンプルに解説した本。
 わかりやすいといえばわかりやすいのですが、「マタハラ等では、上司と休業者との間で職場復帰後の労働条件(賃金が下がる、雇用形態が変わるなど)などについて確認し合うことが重要です」(59ページ)という記述には驚きます。出産・育児休業からの復職時に賃金切り下げや非正規雇用化が普通にあり得るかのような感覚、著者が専ら企業側の立場だからということなんでしょうけど、出産休業や育児休業の取得を理由として不利益処分をすることはまさに法令上禁止されているマタハラそのものです。労働者を丸め込めばそれでいいんだという感覚を、ハラスメント対策の本を書く著者が持っているというのはいかがなものか、こういう見解を公然と口にすること自体、今ではマタハラなんじゃないでしょうか。
 セクハラについて他社からの調査への協力を求めるセクハラ指針の規定について「右の条文を参照してください」とされている(78ページ)その右の条文として相談や相談への協力をした者に対する不利益処分を禁止する均等法第11条第2項が記載されている(79ページ:正しくは均等法第11条第3項とセクハラ指針5項を示すべき。セクハラ指針5項は158ページに掲載)など、雑なところが見られます。
 また、著者の経験で、労働者が上司のセクハラを訴えた労働審判で、自分がセクハラ研修をしていたからセクハラ防止対策をしていたという資料を提出したら「セクハラに該当せず」との判断になったという自慢話をしています(87~88ページ)が、研修をしていたから会社(使用者)が職場環境配慮に努めていたとして、会社の責任が否定されることはあり得ても、研修をしたことを理由に上司の行為がセクハラにならないという判断はあり得ないと思います。93ページで、「F事件」(フクダ電子長野販売事件:使用者側の人は企業に忖度して会社名を隠したがりますが、報道もされているので)の東京高裁平成29年10月18日判決を紹介しているんですが、それを「裁判を経て、従業員4名は自己都合退職扱いにより退職金を支給された」「約900万円の支払を会社および代表取締役に命じた」と書いています。この事件、代表取締役からパワハラを受けて退職に追い込まれた4名が、会社が退職金を自己都合退職基準で支給(1名は自己都合扱いだと支給基準に足りず不支給)したのに対して、パワハラの慰謝料や退職金の会社都合扱いとの差額等の支払を求め、裁判所がその請求を認めたものです。ですから、裁判を経て会社都合扱いの退職金が支給されることになったわけです。そして、裁判所が支払を命じた金額は、会社に対して元本ベースで660万9599円、判決日までの遅延損害金込みで806万6032円(遅延損害金は計算方法により若干の差はでますが)で、うちパワハラの慰謝料・弁護士費用分の元本ベースで275万円、判決日までの遅延損害金込みで330万6778円は代表取締役も会社と連帯して払うことを命じられました。どこをどう計算しても約900万円という数字は、判決からは出てこないんですが(判決報道でも、約660万円と書かれています)。判決を紹介するなら、ちゃんと読んで書いてほしいものです。


古見明子 同文舘出版 2022年8月5日発行
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