伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年に続き2023年も目標達成!

アート・ローの事件簿 盗品・贋作と「芸術の本質」篇

2023-06-11 20:12:04 | 実用書・ビジネス書
 美術品をめぐる法的紛争の経緯とその裁判結果を取り上げて解説した本。
 「はしがき」冒頭に「本書は、日本と諸外国のアートに関する裁判事件をできるだけわかりやすく紹介するシリーズの一つです」とあり、「アート・ローの事件簿 美術品取引と権利のドラマ篇」と同日発売になっています。どちらが「1」でどちらが「2」という区別もなされていませんが「シリーズの一つ」というと今後続編があるのでしょうか。
 この本では、アート/芸術とは何かをめぐる事件(芸術性・価値に関する名誉毀損、関税の課税(美術品は非課税ないし低税率)、著作権の行使)、アートをめぐる犯罪(贋作詐欺、窃盗・略奪)、盗品・略奪品の現所有者に対する返還請求、贋作か真作かの判断を取り上げ、読み物としての流れというかまとまりはつけられているように思えます。しかし、セットの「美術品取引と権利のドラマ篇」でも、アートの取引をめぐる問題として制作・売買の仲介の報酬のほかに贋作か否かの調査義務が取り上げられ、略奪品の外国美術館に対する返還請求、著作権紛争が取り上げられているのを見ると、この2冊での分担は必ずしもクリアではありません。まとめて1冊にすると分厚くなるということでとりあえず2冊にしたのかなと思います。
 美術品をめぐる実際の事件で裁判所がどのように判断したのか、さらには裁判の行く末を見越しあるいは裁判の長期化を踏まえて当事者がどのように和解したかなど、ほどほどの分量でわかりやすく書かれているので裁判ものの読み物として楽しめます。業界人としては、裁判の前提となる事実関係や裁判所の判断についてより突っ込んで知りたくなる部分も出てきますが、それを書いていたら一般人向けには出版できないから仕方ないでしょう。
 外国の裁判が多数紹介されているため、法制度の違い、裁判所の姿勢の違いなども感じることができて興味深く読めました。
 各事件の最後に係争対象となった作品の作者/アーティストに関する紹介があり、そこに著者の感性というかウィットが感じられ、その点も、私は好感しました。


島田真琴 慶應義塾大学出版会 2023年4月20日発行
コメント
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