伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年に続き2023年も目標達成!

羊と鋼の森

2022-10-20 21:40:17 | 小説
 それまでピアノに触ったこともなかった高校2年生の外村が、北海道の山中の学校の体育館でベテランの調律師板鳥がピアノの調律をするのに立ち会って感動して板鳥に弟子入りを志願し、専門学校に通った後に板鳥が勤める会社に就職して調律師となって試行錯誤を重ねていく青春小説。
 天才的な才能を発揮するようなことはなく、先輩たちの仕事ぶりに感化されながら、さまざまに思いをめぐらせて行くという線が貫かれていて、清々しい読み味です。
 最初のシーンで板鳥が調律をしながら、昔は山も野原もよかったからと話し始め、昔の羊は山や野原でいい草を食べていたのだろう、いい草を食べて育ったいい羊のいい毛を贅沢に使ってフェルトを作っていたんですね、今じゃこんないいハンマーはつくれません、と言って、ここのピアノは古くて優しい音がするとしみじみ語っています(12~13ページ)。こういった世界、見方、語りが、この作品の基調にあり、落ちついた穏やかで深みのある味わいを作っているように思いました。
 仕事についてのやりがいや職業人としての自負に関してもさまざまな投げかけがあり、考えさせられます。長く手入れされずに酷い状態のピアノを見ても、「それでもこの仕事に希望があるのは、これからのための仕事だからだ。僕たち調律師が依頼されるときはいつも、ピアノはこれから弾かれようとしている。どんなにひどい状況でも、これからまた弾かれようとしているのだ」(158ページ)と受け止める外村の姿勢に打たれました。


宮下奈都 文春文庫 2018年2月10日発行(単行本は2015年9月)
「別册文藝春秋」連載
2016年本屋大賞受賞作
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