伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年に続き2023年も目標達成!

小説 如月小春 前夜

2022-05-31 23:45:25 | 小説
 1980年代に一世を風靡し2000年に亡くなった劇作家・演出家の如月小春の学生演劇時代を描くという触れ込みとタイトルで、1970年代の演劇と演劇をめぐる状況・雰囲気を描いた小説。
 表題作自体は、高校時代に弘前高校演劇部で書いた作品「コモンセンス」で全国大会最優秀賞を獲得したのをピークに、その後演劇に関わったり離れたりしながら、演劇では何者にもなれなかった大道寺孝という人物が、学生時代に、学生演劇時代の如月小春が率いた3つの公演で照明係をしたというだけの縁で、自分の学生時代を語る中で一部当時の如月小春を語っているというスタイルです。全体の中で如月小春が登場する部分は体感的には1割くらいで、まぁ当時の如月小春を語ってはいるのでしょうけれども、全体としては70年代の演劇の周囲にいた学生の様子や当時の世相を描いた小説と読むべきでしょう。
 その後につけられている「大道寺先生のこと」という29ページの文章で、作者がこの小説は自分の経験ではなく、その大道寺孝から聞いたことを元に自分で当時の状況を調べて小説化したもので「会話の部分はすべて私の創作です」(225ページ)と断っています。しかし、そういいながら、この「大道寺先生のこと」と「エピローグ」で、表題作以上に、これが実話だというニュアンスを出しています。
 読んでいる間は、語り手の大道寺孝自身の経験を回想したものと思い、それほど深く関わったわけではなくても、よく覚えているなぁと感心したのですが、そこは本人ではない作者が勝手に膨らませたり、文献で調査したこととと知ると(「大道寺先生のこと」の記載からはそういうことになります)、感心した部分が萎れて、70年代に学生生活をしながら、学生運動(や宗教団体)に怯えて関わりを避け(逃げ回り)ながら鼻で笑う不遜で不愉快な人物が有名人の名前を看板にして語った羊頭狗肉の昔語りを読まされたという徒労感が満ちてきます。


伴剛峰 言視舎 2022年2月28日発行
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