伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年に続き2023年も目標達成!

それってパクリじゃないですか?3 新米知的財産部員のお仕事

2024-09-22 20:39:23 | 小説
 中堅飲料メーカー月夜野ドリンクの知的財産部に所属する藤崎亜季が、法務部出身の熊井部長、弁理士資格を持つ切れる上司北脇雅美の下で、小規模の食品メーカー今宮食品から死蔵していた苦み特許の購入を打診されたこと、月夜野ドリンクの看板商品の「緑のお茶屋さん」の模倣商品が他国で発売され人気を博していることへの対策に取り組む様子を描いた知財部お仕事小説。
 今宮食品の特許については、特許権侵害をしている(可能性が高い)ことを知財部が予め把握しながら、特許に新規性・進歩性がないという主張が可能で訴訟になったら勝訴する可能性が高い、製法の特許だから(月夜野ドリンクの製造工程を確認できない)今宮食品が月夜野ドリンクの特許権侵害を知ることは困難という判断で放置、買取拒否を決断します。それがビジネスというものだという書きぶりです。今宮食品単独ではなく、パテント・トロール(特許権ビジネスで稼ぐハゲタカファンドみたいな企業)が裏で糸を引いているという構図で、月夜野ドリンク側に理があるように印象づけていますが、月夜野ドリンク側が小規模企業の特許権を侵害し、そのことを正当化しようとしていることには変わりありません。1巻から一貫して大企業側の視点、大企業に都合のいい視点で描かれていて、大企業の側に立たない私には、知財ビジネスにいそしむ人たちってのはそういうもんだよねというシラケた感想を持たせてくれます。
 1巻から2巻まで3年半間隔が空きましたが、2巻から3巻は6か月、3巻から4巻は10か月と急ピッチに書き継がれています。日テレでのドラマ化決定という事情によるのでしょうね。


奧乃桜子 集英社オレンジ文庫 2023年9月24日発行
2023年4月期 日テレドラマ化
1巻と2巻は2023年9月1日の記事で紹介
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検証 トヨタグループ不正問題 技術者主導の悲劇と再生の条件

2024-09-21 22:26:14 | ノンフィクション
 2021年以降立て続けに発覚したトヨタ自動車販売店の車検不正、日野自動車エンジン認証不正(ディーゼルエンジンの排出ガス及び燃費についての認証不正)、豊田自動織機エンジン認証不正(ディーゼルエンジン及びガソリンエンジンの排出ガスについての認証不正)、ダイハツ工業認証不正(側面衝突試験等での不正)、愛知製鋼公差不正(エンジン部品用鋼材の公差外れ品納品)、トヨタ自動車の認証不正(エンジン出力試験等での不正)について、その経緯、第三者調査委員会や国土交通省の調査等の結果等を解説し、著者が考える「真相」について述べた本。
 「詳細な取材から突き止めた不正の真相について明らかにしていく」という言葉が何度か記載されているのですが、事実関係については、基本的に公にされている調査報告書と報道によっていて、著者が書き加えているのは匿名の自動車メーカー等の技術者の意見による推測(トヨタ側の主張はあり得ないとか、こうだろうとか)と評価です。著者の主張の根幹は、第三者委員会の調査報告書やトヨタ側の説明では認証を行った部署に責任が押しつけられ、管理職は知らなかったとしているが、認証を行う部署には不正を行う利益がないし技術者が主導でないとそのような不正は行いえないから開発部署が主導であるはずだし、開発部署が不正に手を染めたのは規制をクリアする技術が不足していたためである、管理職が知らなかったなどあり得ないし管理職が許可しなければ予算等の問題で実施できないというようなところです。著者としては、トヨタ側は開発部署の技術力不足は口が裂けても言いたくないところでそれを暴いたところに価値があると言いたいのでしょうけど、全体の印象としては、基本的にトヨタ自動車本体については高い技術力とか会社の体制を評価というか賛美しているので、門外漢の読者にとっては、トヨタ自動車の公式見解とどれほど違うのか、よくわかりません。
 第三者調査委員会の報告書について、「真因に切り込んだと評価できるものは皆無だ」(6ページ)と指摘しているのはそういうものでしょう。部外者が、調査対象企業の従業員にインタビューするだけで、仮に本気でやっても嘘をついたり隠しごとをするものを見破れるかはかなり疑問ですし、そもそも調査対象の企業に雇われて報酬をもらっている人たちが雇い主に不利なことを真剣に暴こうとするはずもないと思います。それで「みそぎ」が済んだとする企業の姿勢に、さらにはそれで真相解明が済んだと扱い「第三者調査委員会」を評価したり賞賛するマスコミの姿勢にも呆れます。
 章を分けて書いているからという面はあると思いますが、同じことが同じ表現で繰り返し書かれているものが多いなぁと感じました。ダブりをカットしてスリムにしたら3割くらいページが減らせるんじゃないかという印象を持ちました。


近岡裕 日経BP 2024年7月16日発行
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表現の自由 「政治的中立性」を問う

2024-09-20 23:49:32 | 人文・社会科学系
 政治的中立性の名の下に行われている行政による表現の自由に対する制約・圧迫について、公務員に対する政治的行為の禁止、「政治的中立性」を口実とした市民団体の活動などへの差別・排除、放送法の政治的公平の規定を利用したテレビ局への圧力を例に採り上げて論じた本。
 採り上げられている大阪市が実施した職員アンケートのように特定政治家・政党や労働組合との関係などを使用者が労働者に詳細に回答させるという思想・良心や私生活上の言動の調査であるとともに労働組合活動へのあからさまな威嚇であり、労働組合法が禁じた不当労働行為であることが明白なことを、行政が、しかも弁護士市長と弁護士である「第三者調査チーム」代表が主導して行ったこと(66~77ページ)は特筆すべき表現の自由と労働組合への弾圧というべきです。このようなことが近年になっても、というより近年行われる傾向が出てきていることこそが、本書のような本が書かれるべき背景となっているのでしょう。
 こういった権力者と行政がいう「政治的中立」とは、結局のところ権力者・国・行政の意見と同調すること、賛美することが中立で、これに反対することが中立を害することと扱われるわけで、権力者が反対者を迫害・排除するための口実でしかありません。
 憲法学者である著者は、そこをもっと明確に指摘してもよいと私は思いますが、基本的に行政側の言いわけに対しても一定程度理解を示しつつ、多くの場面では(一部、裁判所の判決等を批判している場面もありますが)裁判所の判決や最高裁での少数意見等をベースに穏健な記述を心がけているように感じられました。その意味で「保守的」な傾向の人にも安心感のある読み物かなと思います。


市川正人 岩波新書 2024年7月19日発行
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猫弁と狼少女

2024-09-18 22:12:53 | 小説
 成績はトップクラスの天才だが、採算度外視の行動をとり続ける弁護士百瀬太郎が、困ったちゃん少女の言動で、未成年誘拐未遂の現行犯で逮捕されるが、百瀬が弁解もせずに黙秘を続け勾留され続けて周りはやきもきするが…という展開のヒューマンドラマ小説。「猫弁」シリーズシーズン2の第4弾とされています。
 児童養護施設から公立小学校に通っていたときから学校創立以来の秀才とされ全国共通学力テスト1位だったという百瀬の、貧困故かネグレクト故か食事も満足に取れず靴もなく風呂にも入れていなかった同級生の記憶・心残りがバックボーンになる、弁護士としてよりも百瀬という人物・人物像の物語という印象です。
 弁護士としての部分ではないですが、百瀬が「名画を次々と並べまくり『立ち止まらないでください』などと言う美術館は無神経だと思った」(37ページ)というくだり、私としては同感です。
 前作(シーズン2第3弾)の「猫弁と幽霊屋敷」についての記事で、被疑者国選弁護人は勾留状発布後でないと選任されないもので、被疑者国選弁護人が勾留前でも選任されるが活動が制限されていて本人には会えないかのように書いているのは誤りだと指摘したのですが、本作でもまた「国選弁護人は仕事に制約があって、逮捕直後はダメなの。勾留が決定してからしか動けないという微妙な制約があるのよ」(26ページ)と書いています。実質的には大差ないのかも知れませんが、制度理解はちゃんとして欲しいなと思います。


大山淳子 講談社 2023年9月20日発行

シーズン1
「猫弁 天才百瀬とやっかいな依頼者たち」は2022年10月25日の記事で紹介しています。
「猫弁と透明人間」は2022年10月26日の記事で紹介しています。
「猫弁と指輪物語」は2022年10月27日の記事で紹介しています。
「猫弁と少女探偵」は2022年10月28日の記事で紹介しています。
「猫弁と魔女裁判」は2022年10月31日の記事で紹介しています。
シーズン2
「猫弁と星の王子」は2022年11月1日の記事で紹介しています。
「猫弁と鉄の女」は2022年11月2日の記事で紹介しています。
「猫弁と幽霊屋敷」は2022年11月3日の記事で紹介しています。

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ゴースト・ポリス

2024-09-16 23:56:18 | 小説
 東北大学法学部卒でありながら国家公務員1種にも2種にも落ちてノンキャリアで警察官になり、神奈川県警の窓際族「ごんぞう」の巣窟鳩裏交番に配属され、副署長からごんぞうたちの違法行為を探り出して報告すれば昇進させると耳打ちされた新人警官桐野哲也が、鳩裏交番の事実上のリーダー小貫幸也らの動向を探るうち、その経緯や県警の指示に従わない動機・心情を知り…という警察小説。
 組織的な陰謀などの大きな物語ではなく、また迫真の内幕暴露ものというものでもなく、地元住民に密着した「おまわりさん」への親しみ・愛着・信奉を基本とした、はぐれ警官の地味ヒーローものという感覚の作品です。
 桐野と小貫の感情のツボの違いとそれが次第にシンクロして行く様子が読みどころかなと思いました。


佐野晶 小学館文庫 2024年3月11日発行(単行本は2019年12月)
第1回警察小説大賞受賞作
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サマーレスキュー

2024-09-15 17:08:59 | 小説
 バーチャルワールドを参加者が自由に建設拡大できるコンピュータゲーム「ランドクラフト」に祖父の導きで小学4年生までハマっていたが、ゲームを離れ今では母の勧めでTOEIC受験に励む中学2年生の千香が、幼なじみの巧己から、「ランドクラフト」の伝説の「ログレスの財宝」の謎解きに取り組んでいた探求好きの幼なじみ祥一が失踪したと聞かされ、巧己とともに祥一の家のパソコンで「ランドクラフト」の世界に入り…というバーチャルゲーム小説。
 ゲーム中の登場人物(キャラ)にアーサー王の伝説(アーサー王と円卓の騎士たち)を引いているのが中高年を狙っているのかも知れませんが、中身はまるっきりゲーム小説で、ゲーム好きでないとたぶん読み進めるのがしんどい(読みづらさはないけど読み進める意欲が維持しにくい)気がします。
 初出が「別冊文藝春秋」とあるのを見て、えっ「別冊文藝春秋」ってそういう若者向けのものだっけと調べてみたら、いつのまにか(2015年から)電子小説誌になっていたんですね。むしろそっちに驚き。


二宮敦人 文藝春秋 2024年7月30日発行
「別冊文藝春秋」連載

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スウィンダラーハウス

2024-09-14 21:33:49 | 小説
 脱出口が見当たらない「研修室」に閉じ込められ、ディスプレイ越しに特殊詐欺のマニュアルや名簿を示して指示する道化の看守に追い立てられながら特殊詐欺の掛け子をし始めた、闇バイト応募者3名と闇バイトリクルーター1名、保険の飛び込み営業で入ってしまった1名、食品配達に来て眠らされて送り込まれた1名の計6名と、特殊詐欺の検挙に熱意を示す警察官の攻防を描いた小説。
 軽めのタッチと後半のひねり、黒幕の犯行の動機の切なさで読ませる作品です。
 私は、消費者側の弁護士(詐欺被害では被害者側の弁護士)でもあり、特殊詐欺の特に幹部にはまったく共感するところはなくただ極めて悪質な犯罪者としか思えませんが、何ごとも多角的な視点は大切ですので、こういう作品もあっていいかなとも思いました。他方で、現実的にはほぼあり得ない幻想で特殊詐欺犯への評価をあいまいにするようなことをしていいのかという思いもあります。
 また、全共闘世代でも就職氷河期世代でもなく今どきの若者でもない30代半ばの作者が、全共闘世代やそれより上の高齢者と若者の世代間対立を煽るような作品を書いていることにも、私は違和感というか不快感を覚えました。


根本聡一郎 祥伝社 2024年6月30日発行

 
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箱男

2024-09-13 20:15:29 | 小説
 覗き窓を開けた段ボール箱を被り街中に佇み/座り込み、外界を覗き見つつ箱の中でそれを記録する「箱男」の語りと描写を通じて、見ることと見られること、書くことと書かれることを論じ描いた小説。
 箱男として、元カメラマンのぼく、A、B、偽箱男=偽医者=C、ぼくの父と多数の存在(あと箱を被っていない覗き者としてD少年)を登場させ、他にも断片的な記述・情報・写真等を挿入することで、視点や立場の相対化を図り、主体と客体、現実と主観・妄想、見る側と見られる側、書く側と書かれる側を想起・体感するような作品となっていて、それがどこか観念的でまた不思議な印象を与えているように思いました。
 学生のときに、まさしく箱入りの装丁の単行本で読んだきりでしたが、映画を見たのを機会に文庫本で再読しました。前に読んだときの記憶はもうまったくないのですが、当時は観念的で難しい小説のように感じたものが、今回はより読みやすく思えたのは、文庫本だからか、一応再読だからか、年をとったからか…


安部公房 新潮文庫 1982年10月25日発行(単行本は1973年3月)
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法律事務所のサイバーセキュリティQ&A

2024-09-12 21:45:41 | 実用書・ビジネス書
 日弁連が定めた弁護士情報セキュリティ規程の施行に合わせて、中小法律事務所がどのような対策をすべきかを解説した本。
 メールのセキュリティの項目(第3章)について、インターネットのメールはさまざまなサーバーを(ランダムに)経由するので途中で誰に見られるかわからないとか言われて業務にメールを安易に使うなとか、全部暗号化しろとか言われるのかと戦々恐々として読みましたが、基本は誤送信や間違った(他の事件の)添付ファイルを送ってしまうという人為ミスと受信メールからのマルウェア感染ということでした。そもそもメールは誰に読まれるかわからないということまでは、まだ気にしなくてよさそうでホッとしました。ファイルをなんでもパスワード保護して送って来る人が時々いて、まぁその時はいいのですが、時間が経って開こうとしたら、当然その頃にそのパスワードなんて覚えているはずもなくて開けずに往生し、頭にきます。パスワード保護や暗号化が標準となる日ができるだけ来ないことを希望しているのですが。
 多要素認証をいろいろな場面で勧めていますが、例えば現在裁判所が弁論準備期日等のWeb会議やファイル送信に利用しているTeams(マイクロソフト)は、サインインに基本スマホへのコード送信による多要素認証を強制していて、しかも前回のサインインから24時間経つと再度多要素認証なしには入れなくなっています。セキュリティは高くなったのでしょうけれど、端的に言って面倒ですし、スマホが手許にないとWeb会議にも入れない(例えばスマホを自宅に置き忘れたら裁判期日に参加できない)ことになります。スマホに支配されてる感が強く、私はとってもいやな気持ちになります。
 パソコン内のファイルが勝手に暗号化されて使えなくなるとか持ち出されるとかいうランサムウェアの感染は、さすがにそれは困ると思いますが、その感染経路の多くがリモートワーク用に通信のセキュリティと匿名性を高めるために導入したVPN(Virtual Private Network)機器の脆弱性(セキュリティホール)だ(127~129ページ)というのは笑えます。
 セキュリティのためにあれをしろこれをしろというので、せっかくの利便性が失われ、挙げ句の果てにそれがかえってセキュリティを減じるハメになることさえあるというのはどうしたものかと思います。
 最終的には、サイバー攻撃を受けたら素人にはどうしようもないので業者に頼もう、その費用は弁護士賠償責任保険にサイバー保険が自動セットされているからそれを使おうということなので、まぁそのときはそのときということになるのでしょうけど。


八雲法律事務所編著 中央経済社 2024年7月10日発行
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常磐団地の魔人

2024-09-11 21:16:10 | 小説
 1990年代に建てられ、3階の窓から落ちた小さな子どもが無事帰還した、風に飛ばされたはずの帽子がドアノブに掛かっていたなどの都市伝説がある常磐団地の3号棟に住む、1年生と2年生を小児喘息故に特別支援学級で過ごし3年生になって通常クラスに編入した気の小さな今野蓮が、同級生と連みながら、高学年の悪ガキグループに憧れ、球技をする子どもを目の敵にする管理人と戦うなどする日々を描いた小説。
 冒頭のいじめや孤立などを怖れる蓮の様子から予想されるのとは違い、けんかはするけれど基本明るいこどもたちの昔風のテイストの読み物です。古い団地の光景と合わせて、子どもたちを描きながらむしろ中高年受けするノスタルジー小説とみるべきかも知れません。


佐藤厚志 新潮社 2024年7月30日発行
河北新報連載
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