限りなき知の探訪

45年間、『知の探訪』を続けてきた。いま座っている『人類四千年の特等席』からの見晴らしをつづる。

沂風詠録:(第48回目)『古代ギリシャのヒッパルコスが求めた1年の長さ』

2010-03-30 00:02:24 | 日記
日本では、科学や歴史は学校の正科で教えることはあっても、『科学史』は教えてくれない。つまり『科学史・技術史』はキワモノ扱い、あるいは知らなくても済ませられるものだ、とでも言うのであろう。しかし、現在の世の中を考えても分かるように、科学技術は政治や経済とは別個に発展するのではなく、元来グローバルな規模で生活全般と密接なつながりを持ちつつ発展するものである。紀元前数千年においては、最新鋭の技術であった農業や青銅器がメソポタミアあたりから全世界に伝播した。また紙や羅針盤は逆に中国から西へ伝播して世界の共有財産となった。

たいていの人は、こういった個別の科学技術の話は知っていても、『科学・技術史』の全体像を理解するために、どの本を読めばよいのか途方にくれているのが現状であろう。私も同じ気持ちであったが、幸運にも数年前にフリードリッヒ・ダンネマン(Friedrich Dannemann)の大作である『大自然科学史・全13巻』(三省堂)(Die naturwissenschaften in ihrer entwicklung und in ihrem zusammenhange)に出合った。私は、以前からギリシャ・ローマの科学技術がイスラムに移り、12世紀あたりからヨーロッパに逆輸入されていた、と断片的には知っていたが、この本(13巻)を読むことで、初めて科学技術の発達に関する国際的な大きなうねりの全貌を把握することができ、大変うれしく思った。



さて、そのダンネマンもギリシャ・ローマの科学技術の歴史に関して参照した本に、『Realencyclopaedie der Classischen Altertumswissenschaft』(通称、Pauly-Wissowa)という83巻もの膨大な百科事典がある。ギリシャ・ローマに関することはこの本に文字通り網羅されていて、他の参考書が不要であるほどだ。この本から単に書き抜きをするだけでも立派な論文が何本も書けそうだ。しかし、逆にいうと、情報が余りにも多すぎて(私のような素人には)手にあまる。それで、その膨大な内容を5巻に縮約したのが『Der Kleine Pauly』と呼ばれる本で、わずか1万5千円で入手できる。

さて、この本の、第4巻のP.271に、『Oktaeteris』という項目がある。Oktaeteris は英語では octaeterid と綴り、OED(Oxford English Dictionary)では次のように説明されている。

In the ancient Greek calendar, a period of eight years, in the course of which three months of 30 days each were intercalated so as to bring the year of 12 lunar months into accord with the solar year.

大意は『古代ギリシャのカレンダーでは、8年を1周期とした。その間に 30日の閏月を3回挿入する。そうすることで、太陰暦を太陽暦に合わせることができる。』

『Der Kleine Pauly』の『Oktaeteris』の項を更に読んでみると、次のような驚くべき記述に出合った。



紀元前二世紀のギリシャのヒッパルコス(Hipparchos)が一年の時間を非常に正確に求めていた。彼の計算によると、 1年は365日5時間55分12秒であった。現在の科学で求めた値との差は、わずか 6分26秒 である。

私はこの記述を読むに至った時、完全に言葉を失ってしまった。

(。。。沈黙。。。)
コメント
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