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限りなき知の探訪

45年間、『知の探訪』を続けてきた。いま座っている『人類四千年の特等席』からの見晴らしをつづる。

通鑑聚銘:(第32回目)『権謀術数を縦横に使い、賊を壊滅す』

2010-03-22 08:43:09 | 日記
先日『権道という超法規的手段』が中国では、常套手段として使われている、ということを述べたが、その実例を通鑑に見ることにしよう。

主人公となる人物は虞羽(羽は本当は言偏+羽)という。中国の北方政策に関して、時の権力者の隲の意見に反対したため仕返しをうけた。

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資治通鑑(中華書局):巻49・漢紀41(P.1583)

隲は、自分の意見に反対されたため、虞羽を憎み、なんとかして合法的にこいつをやっつける方法はないかと考えた。ちょうどその時、朝歌という郡で寧季(寧、本当は下は用)というヤクザものが連年暴れまわり、手のつけようがなかった。隲は、虞羽をその郡の長に任命し、失脚させてやろうという企みをめぐらせた。虞羽の友人達は、『なんと酷い仕打ちをするのだ』と嘆きかなしんだが、虞羽本人は、からからと笑い、『難しい仕事を成し遂げるのが、家臣としての職務ではないのか?槃根錯節(節くれだった根っこ)に出会わないことには、斧の切れ味が分からないではないか!こういう機会こそ名を揚げる絶好のチャンスだわい』と喜んだ。

隲由是惡羽,欲以吏法中傷之。會朝歌賊寧季等數千人攻殺,屯聚連年,州郡不能禁,乃以羽爲朝歌長。故舊皆弔之,羽笑曰:「事不避難,臣之職也。不遇槃根錯節,無以別利器,此乃吾立功之秋也。」

隲、この故に羽をにくみ、吏法を以ってこれを中傷せんとす。朝歌の賊、寧季ら、数千人のを攻め殺し、屯聚すること連年、州郡、禁ずるあたわずに会い、すなわち羽をもって朝歌の長となす。故旧(こきゅう)皆、これを弔う。羽、笑って曰く:「事、難を避けざるは、臣の職なり。槃根錯節(ばんこん・さくせつ)にあわずんば、もって利器をわかつなし。これすなわち、吾が功を立つるのときなり。」
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と、まあ、ここまでであれば誰でも空元気で威張ることもできるのであるが、虞羽の凄みはこれからその本領が発揮される。

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資治通鑑(中華書局):巻49・漢紀41(P.1584)

虞羽が任地(朝歌)に着くと、勇者を公募した。そして、家来達に使える人があれば推薦せよ、と命じた。かつて強盗を働いたものは上とし、泥棒や傷害を犯したものは中、家業をせずふらついているいるチンピラは下として、合計で百人近くを集めた。そいつらを皆あつめて、大宴会をおこない、皆の罪を許した上で、賊の陣地にスパイとして送り込んだ。そして、頃あいを見計らって、スパイを使って誘き寄せ、一挙に賊を数百人を殺した。また、貧乏人で裁縫の得意なものをまた賊中に送って、賊のずぼんの裙(すそ)に特殊な糸を縫い込まわせ、目印とした。それを知らずに町中にでた賊は皆、張り込み中の役人に捕まってしまった。賊は、これはきっと神に違いないとびっくりして、散らばってしまい、朝歌からいなくなった。

及到官,設三科以募求壯士,自掾史以下各舉所知,其攻劫者爲上,傷人偸盜者次之,不事家業者爲下,收得百餘人,羽爲饗會,悉貰其罪,使入賊中誘令劫掠,乃伏兵以待之,遂殺賊數百人。又潛遣貧人能縫者傭作賊衣,以采綫縫其裙,有出市里者,吏輒禽之。賊由是駭散,咸稱神明,縣境皆平。

官に到るにおよび,三科を設け、もって壮士を募り求む。掾史より以下、おのおの知る所を挙げしむ。その攻劫者は上となし,傷人・偸盗者はこれに次ぐ。家業に事せざるは下となし、あわせて百余人を得る。羽、饗会をなし、悉く其罪を貰う。賊中に入れ、誘いて劫掠をなさしむ。すなわち兵を伏せ、もってこれを待ち、遂に、賊数百人を殺す。また、ひそかに貧人にて、よく縫う者を遣り、賊の衣を傭作するに、采線を以ってその裙を縫わしむ。市里に出るものあらば、吏、すなわちこれを擒にす。賊、この故に駭き、散ず。あるいは神明と称す。県境、皆な平ぐ。
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明に馮夢龍という人がいて、このような類の話(権謀術数・権道)を集めた書を編纂した。その書、『智嚢』を読むと中国では、権道を知らないでは、まともに生きて行くことが出来ないことが良く分かる。今回取り上げた虞羽のやり口は、毒を以って毒を制する権謀であるが結果的に地域社会に平安をもたらした。その点からすると彼の行動も評価できる、と言えばそれまでである。しかし、とてもながら日本人がおいそれと真似できる類の考えではない、と私には思える。
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