ローマにプリニウスという博物学者がいた。本職は軍人だそうだが、大変な読書家で、かつ筆まめなひとだ。風呂に入っている間も、人に本を読んでもらったり、口述筆記をさせたりして、大量の本を書いた。しかし、現存している『博物誌』のはその一部だそうだが、それでも、日本語で1500ページ近くもある。(『プリニウスの博物誌』、雄山閣、中野定雄、他、訳 )
この本は、科学がいわば死滅した中世ヨーロッパにおいて、生き延びた数少ない書のひとつだ。いわば科学の聖典ともいえよう。しかし、内容は何も現在の区分でいう、科学・技術に留まらず、地理、天文、歴史、人物秘話など多岐にわたる。本当の意味での博物学である。日本の博物学者の筆頭に挙げられる南方熊楠氏もこのプリニウスの博物誌を頻繁に引用している。
さて、この本には、不眠症や悩み多き人に朗報をもたらす薬のことが書いてある。エジプト産の薬で、その名を nepenthes(ネペンテス)という。 nepenthes とはギリシャ語源の言葉。ne + penthes で、ne とは否定辞(英語でいうと un- )であり、penthes とは『悩み』。つまり『忘憂草』あるいは『憂えなぐさ』とでも訳せよう。
文献での初出は、どうやらホメロスのオデッセーらしい。ゼウスの娘のヘレナが一掴みの薬草を取り出してワインに入れた。この妙薬を飲めば、たとえ親兄弟が目の前で殺されたとしても悲しみを全く感じなくてすむのだという。
プリニウスは『博物誌』の中で、エジプトの薬草で、心をうきうきさせて、悲哀を緩和してくれる薬草である、と述べている。中野定雄氏の『プリニウスの博物誌』によると、このnepenthes(ネペンテス)の正体は、ウヅボカズラであるとのことだが、この花、虫をおびき寄せて袋の底に落とし、消化液で溶かして食べてしまう食虫性の植物であるとか。ひょっとすると、憂いを忘れるのではなく、脳細胞が溶かされているのかも?
この本は、科学がいわば死滅した中世ヨーロッパにおいて、生き延びた数少ない書のひとつだ。いわば科学の聖典ともいえよう。しかし、内容は何も現在の区分でいう、科学・技術に留まらず、地理、天文、歴史、人物秘話など多岐にわたる。本当の意味での博物学である。日本の博物学者の筆頭に挙げられる南方熊楠氏もこのプリニウスの博物誌を頻繁に引用している。
さて、この本には、不眠症や悩み多き人に朗報をもたらす薬のことが書いてある。エジプト産の薬で、その名を nepenthes(ネペンテス)という。 nepenthes とはギリシャ語源の言葉。ne + penthes で、ne とは否定辞(英語でいうと un- )であり、penthes とは『悩み』。つまり『忘憂草』あるいは『憂えなぐさ』とでも訳せよう。
文献での初出は、どうやらホメロスのオデッセーらしい。ゼウスの娘のヘレナが一掴みの薬草を取り出してワインに入れた。この妙薬を飲めば、たとえ親兄弟が目の前で殺されたとしても悲しみを全く感じなくてすむのだという。
プリニウスは『博物誌』の中で、エジプトの薬草で、心をうきうきさせて、悲哀を緩和してくれる薬草である、と述べている。中野定雄氏の『プリニウスの博物誌』によると、このnepenthes(ネペンテス)の正体は、ウヅボカズラであるとのことだが、この花、虫をおびき寄せて袋の底に落とし、消化液で溶かして食べてしまう食虫性の植物であるとか。ひょっとすると、憂いを忘れるのではなく、脳細胞が溶かされているのかも?