最近、技術マネジメントあるいは技術経営、MOT(エムオーティ -- Management Of Technology)という言葉を耳にする機会が多い。MOTと普通の経営とどこが異なるのか、また MOTを活かせるためには、どういう組織でなければいけないか、について考察してみよう。
まず、MOTの定義を述べる。MOTとは製造会社において、いかにして、技術をベースにした製品を開発し、販売し、利益を多く上げるか、市場での競争に打ち勝つかを戦略的に考える学問体系である。 MOTは単なる経営戦略ではなく、技術を中核に考えるという発想がある。そして、技術開発に携わっている技術者に経営ノウハウを教えるというのが目的とするところである。
ここで、疑問としてでてくるのは、技術者にも一般の経営学を教えればよいではないか、なぜわざわざMOTなどと言うものを教える必要があるのか、ということであろう。
このMOTに関する質問に答える前に、一般の経営学とはなにかについて簡単におさらいをしておこう。
経営学とは、組織体(ここでは民間企業を考えることにする)を効率よく運営する手法を体系づける学問体系のことである。従って、経営学が取り扱う範囲は、製品などの個々の単体についての議論よりも、むしろ組織全体の効率化についての話に重点が置かれている。つまり、『人、物、金、情報』という経営資源をどのようにマネジメントすれば、最高の結果を得ることができるかというテーマについて考えることである。
ただ、ここでいう結果というのは、売り上げ高であることもあれば、利益、あるいはマーケットシェアということであるかもしれない。さらには、そういった数値では測定できないものかもしれない。例えば:知名度、のれん、社会的ステータスなど。
また、資源の一つである『人』を考えてみても分かるように、一般的な人という抽象的なものは、存在せず、個々の特性を持った人が存在しているだけである。従って、人をマネージメントするというのは、各人そしてその集合体であるグループ、あるいは部門に明確な目標を達成するという動機づけと、困難に立ち向かう勇気や活気付けを適宜行なうのも経営学の一分野である人事管理の重要な事項である。
さて、製造業にとっては、なぜ通常の経営学だけでは足りなくてMOTを必要とするのか、という点を説明しよう。
製造業の場合、その会社の命運は主力製品をに組み込まれている技術に依存している。つまり、技術のレベル、品質、競合他社との比較的優位、コスト、市場での評価などを指標として、トータルな観点から評価される。このトータルという点がミソで、純粋に技術的側面すなわち、技術レベルや品質という一面だけでは評価できないのである。技術以外の、コスト、デザイン、市場での評価など、単に技術のよしあしとは別の観点での評価が製品の売れ行きを左右する。つまり製品の売れ行きというのは、幅広い要因に左右される。
しかし、経営学では、製品という抽象的なものが存在して、それは所与(与えられてもの)として、つまり不変なものとして想定されている。そして、その原価や販売方法を変えることで、その抽象的な製品をいかに売れるようにするか、と言うのが経営学で教えるセオリーの本質である。
しかし、これはおかしな話で、製品というのは、非常に個性的であって抽象的なものなどは、実際には存在し得ない。たとえば、車を考えてみよう。購入者は、よほどの例外を除き、どこの会社の車でもよい、どの車種でもよい、というふうには考えないはずである。数多くのパンフレットを読んでいろいろな車を丹念に比較検討し、また実際に乗り心地などを調べた上で、色や、カーステレオなどのオプションまで入念にチェックした上で、最終的に金額的に支払い可能な限度内で、購入すべき車を決めるであろう。
こういった消費者に対して、本当に売れる製品とは何か、という視点で、最初の商品開発から製造、そして販売、アフターケア、メンテナンスまでトータル的に考えるのがMOTのありかたである。
I call my invention "The Wheel",but so far I've been unable to attract any venture capital.
(出典:Venture cartoon 7 - search ID dbrn298)
さて、ここまででMOTの何たるかがお分かり頂いたとして、次にそのMOTを活かせる組織、とりわけ新興ベンチャーにおけるあり方について考えてみよう。
MOTというのは、机上の学問では、なく実践智である。従っていくら体系的にすばらしいものでも、実際に適用して価値を生み出さなければ何にもならない。特に技術系のベンチャーにとっては、価値を生み出すとは、自分達の持っている技術から製品を作って販売し、利益をもたらすこと、つまり『技術を金に換える』こつをつかむことに他ならない。ところが、技術系のベンチャーの一般的な傾向として、自分達の取り組んでいる技術のすばらしさに自己満足を感じて、それ以外の技術は方法を見下したり、あるいは、嫌悪したりすることが多い。さらに、技術開発や製品仕様を技術者の観点だけで決めて、消費者の目線に立たない場合も多い。つまり、技術的にすばらしいものを作ることだけに執念をもやし、会社の経営を疎んずる傾向が見られる。
このような組織にMOTを持ち込んだらどうなるのであろうか?MOTの理念は、確かに技術を中核としているが、技術が経営的観点、つまりキャッシュフローの観点から会社の成長に適合しているかどうかを重視している。従って、いくら技術的に最先端でもそれが、社会のニーズに合致する製品にできない場合は、別の方法でキャッシュフローを生む製品を考えないといけない。この時、内部で、技術重視派と経営重視派の対立があるかもしれない。MOTの理念が全社的に共有されている組織では、経営重視派が技術重視派を説得し、彼らの面子をつぶさない形で、収拾を図ることができる。つまり、今取り組むべき技術的課題と将来に向けて取り組むべき技術的課題を整理し、それぞれにかかる経費、人の配置などを再確認する。
当然のことながら、技術重視派に属する技術者のなかには、せっかくの開発テーマを否定されて、モチベーションの低下を来たす人もいる。それらの人々に新しいテーマ、目標を設定し、鼓舞するのが MOTの真髄を理解している技術重視派のリーダーの役目である。その時の説明、説得の仕方は単に社内の地位を利用して強権を発動するのではなく、なぜ取り組んでいた技術がMOTの経営的観点から見て不都合なのかを論理的にまずは説明できなければならない。しかし、そこまでその技術に取り組んでいた技術者は、それもその技術に入れ込んでいれば入れ込んでいるだけ、諦めがつかないものである。論理的説明だけではとうてい新たな課題への取り組み意欲が湧かない。そういったとき最終的に納得させることができるのはリーダーの人間力ということになる。
まず、MOTの定義を述べる。MOTとは製造会社において、いかにして、技術をベースにした製品を開発し、販売し、利益を多く上げるか、市場での競争に打ち勝つかを戦略的に考える学問体系である。 MOTは単なる経営戦略ではなく、技術を中核に考えるという発想がある。そして、技術開発に携わっている技術者に経営ノウハウを教えるというのが目的とするところである。
ここで、疑問としてでてくるのは、技術者にも一般の経営学を教えればよいではないか、なぜわざわざMOTなどと言うものを教える必要があるのか、ということであろう。
このMOTに関する質問に答える前に、一般の経営学とはなにかについて簡単におさらいをしておこう。
経営学とは、組織体(ここでは民間企業を考えることにする)を効率よく運営する手法を体系づける学問体系のことである。従って、経営学が取り扱う範囲は、製品などの個々の単体についての議論よりも、むしろ組織全体の効率化についての話に重点が置かれている。つまり、『人、物、金、情報』という経営資源をどのようにマネジメントすれば、最高の結果を得ることができるかというテーマについて考えることである。
ただ、ここでいう結果というのは、売り上げ高であることもあれば、利益、あるいはマーケットシェアということであるかもしれない。さらには、そういった数値では測定できないものかもしれない。例えば:知名度、のれん、社会的ステータスなど。
また、資源の一つである『人』を考えてみても分かるように、一般的な人という抽象的なものは、存在せず、個々の特性を持った人が存在しているだけである。従って、人をマネージメントするというのは、各人そしてその集合体であるグループ、あるいは部門に明確な目標を達成するという動機づけと、困難に立ち向かう勇気や活気付けを適宜行なうのも経営学の一分野である人事管理の重要な事項である。
さて、製造業にとっては、なぜ通常の経営学だけでは足りなくてMOTを必要とするのか、という点を説明しよう。
製造業の場合、その会社の命運は主力製品をに組み込まれている技術に依存している。つまり、技術のレベル、品質、競合他社との比較的優位、コスト、市場での評価などを指標として、トータルな観点から評価される。このトータルという点がミソで、純粋に技術的側面すなわち、技術レベルや品質という一面だけでは評価できないのである。技術以外の、コスト、デザイン、市場での評価など、単に技術のよしあしとは別の観点での評価が製品の売れ行きを左右する。つまり製品の売れ行きというのは、幅広い要因に左右される。
しかし、経営学では、製品という抽象的なものが存在して、それは所与(与えられてもの)として、つまり不変なものとして想定されている。そして、その原価や販売方法を変えることで、その抽象的な製品をいかに売れるようにするか、と言うのが経営学で教えるセオリーの本質である。
しかし、これはおかしな話で、製品というのは、非常に個性的であって抽象的なものなどは、実際には存在し得ない。たとえば、車を考えてみよう。購入者は、よほどの例外を除き、どこの会社の車でもよい、どの車種でもよい、というふうには考えないはずである。数多くのパンフレットを読んでいろいろな車を丹念に比較検討し、また実際に乗り心地などを調べた上で、色や、カーステレオなどのオプションまで入念にチェックした上で、最終的に金額的に支払い可能な限度内で、購入すべき車を決めるであろう。
こういった消費者に対して、本当に売れる製品とは何か、という視点で、最初の商品開発から製造、そして販売、アフターケア、メンテナンスまでトータル的に考えるのがMOTのありかたである。
I call my invention "The Wheel",but so far I've been unable to attract any venture capital.
(出典:Venture cartoon 7 - search ID dbrn298)
さて、ここまででMOTの何たるかがお分かり頂いたとして、次にそのMOTを活かせる組織、とりわけ新興ベンチャーにおけるあり方について考えてみよう。
MOTというのは、机上の学問では、なく実践智である。従っていくら体系的にすばらしいものでも、実際に適用して価値を生み出さなければ何にもならない。特に技術系のベンチャーにとっては、価値を生み出すとは、自分達の持っている技術から製品を作って販売し、利益をもたらすこと、つまり『技術を金に換える』こつをつかむことに他ならない。ところが、技術系のベンチャーの一般的な傾向として、自分達の取り組んでいる技術のすばらしさに自己満足を感じて、それ以外の技術は方法を見下したり、あるいは、嫌悪したりすることが多い。さらに、技術開発や製品仕様を技術者の観点だけで決めて、消費者の目線に立たない場合も多い。つまり、技術的にすばらしいものを作ることだけに執念をもやし、会社の経営を疎んずる傾向が見られる。
このような組織にMOTを持ち込んだらどうなるのであろうか?MOTの理念は、確かに技術を中核としているが、技術が経営的観点、つまりキャッシュフローの観点から会社の成長に適合しているかどうかを重視している。従って、いくら技術的に最先端でもそれが、社会のニーズに合致する製品にできない場合は、別の方法でキャッシュフローを生む製品を考えないといけない。この時、内部で、技術重視派と経営重視派の対立があるかもしれない。MOTの理念が全社的に共有されている組織では、経営重視派が技術重視派を説得し、彼らの面子をつぶさない形で、収拾を図ることができる。つまり、今取り組むべき技術的課題と将来に向けて取り組むべき技術的課題を整理し、それぞれにかかる経費、人の配置などを再確認する。
当然のことながら、技術重視派に属する技術者のなかには、せっかくの開発テーマを否定されて、モチベーションの低下を来たす人もいる。それらの人々に新しいテーマ、目標を設定し、鼓舞するのが MOTの真髄を理解している技術重視派のリーダーの役目である。その時の説明、説得の仕方は単に社内の地位を利用して強権を発動するのではなく、なぜ取り組んでいた技術がMOTの経営的観点から見て不都合なのかを論理的にまずは説明できなければならない。しかし、そこまでその技術に取り組んでいた技術者は、それもその技術に入れ込んでいれば入れ込んでいるだけ、諦めがつかないものである。論理的説明だけではとうてい新たな課題への取り組み意欲が湧かない。そういったとき最終的に納得させることができるのはリーダーの人間力ということになる。