初めての恋が少年の胸を焦がし始めていた。だが、あと数ヶ月もすれば、卒業という言葉が二人を分けてしまう。少年は、焦っていた。何かアクションを起こさなければいけないと。
とりあえず、少年は少女に年賀状を出すことにした。それは、少年の書く初めての異性への手紙だった。
1月3日頃、少女から年賀状の返信が届いた。そこには、「今年もヨロシク」と、確かに書かれていた。少年は、躍り上がって喜ぶとともに、ある決意をした。
「気ままな絵日記」という吉田拓郎の著書の中にこんな記述がある。『僕は女のコを好きになったら、まずそれを表明する。もし好きになってくれなくても突進を続ける。そのうちに、相手が根負けして自分を見直してくれるか、こちらで完全にふられたことに気づかされるかの二つの道しかない』と。
少年は、それを実践することにしたのだ。
それから数週間。少年の度重なるアプローチにもかかわらず、少女からは何のリアクションもないまま、卒業式は終わった。
だが、卒業式から何日か経った頃、少年のもとに少女からの手紙が届いた!
少年は「あのコもとうとう僕の情熱に根負けしたのかな」と期待に胸をときめかせつつ、封を開けた。
・・・そこには、たった一言、「アナタに年賀状なんか出さなければよかったワ」と書かれていた。ここで、少年はようやく自分がふられたことに気が付いたのだった。
もう、30年以上昔のことである。ああ、あれは春だったんだネ。