今から150年前に来日したイギリスの植物学者、ロバート・フォーチュンが
驚いたこと、それは日本人がみな花好きであるということ。
花や緑を愛する心や、上手に育てるための技術は、大名から町人、農民まで、
身分を越えて大切にされていました。
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江戸東京博物館で開催中の「江戸の園芸」展、えど友で見どころ解説を
聞いてから見ることが出来ました。
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慶長八年(1603)、徳川家康が征夷大将軍に任ぜられて、江戸時代は
幕を開ける。
そして266年という長きにわたって平和が続いたことにより、さまざまな
文化芸術が大きく発展した。
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園芸、花作りも例外ではなく、日本人の細やかな感性と美意識によって
多くの園芸植物や品種が生み出された。
花と緑の行楽文化
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隅田川花見 (錦絵) 歌川国芳
江戸時代の人々は、信仰と娯楽をかねて江戸の名所を巡る文化を育んでいきましたが、
江戸で人気を博した名所の大半は、松や桜、梅といった伝統的な樹木が植えられた
寺社の境内でした。
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浅草奥山四季花園入口光景
花卉園芸が普及し、より多様な植物えの関心が高まると、町人が開設した庭園である
梅屋敷、花屋敷、百花園などといった新しい名所が登場してきます。
植木鉢の普及と高まる園芸熱
庶民が栽培を楽しんだり、生活を飾るために植物を購入し始めたのは
江戸時代のことです。
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武江染井翻紅軒霧島之図 (ぶこうそめいほんこうけんきりしまのず)
五代目伊兵衛が、浮世絵師に自宅の庭を描かせた図。
巣鴨染井の伊藤伊兵衛
庭の造園、維持管理のために、植物の生産と植え留め場、そして
植木職人の居住などが近郊数箇所にあった。
その中で一番大きな生産地となったのが、巣鴨染井村であった。
中でも霧島屋伊兵衛が頭角を現した。
(伊藤姓を名乗り、染井の種樹屋として代々伊兵衛を継ぐ)
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春宵梅の宴 三代豊国画
江戸時代城郭庭園には梅が多く栽培された、果実は梅干に加工貯蔵し、籠城時には
生木でも燃料になる、花は厳冬期に咲き、清廉高潔、凛とした美しさは武士を象徴する。
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見立て松竹梅の内 うえ木屋の梅
園芸植物が商品となると、栽培にも創意工夫を凝らすようになり、
より洗礼された品種の生産が促進されてゆきました。
こうした変化の一翼を担ったのが植木鉢の普及です。
植木鉢は植物の運搬を容易にし、販売と栽培の両面からそれまでの
園芸のあり方に大きな変化をもたらしていきました。
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団扇絵上臈の松の雨 歌川芳虎画
ジョウロで植木に水をやる女性が楽しそう、庶民も花を育て、愛でた。
江戸中期以降には、瀬戸、有田など陶器の産地で植木鉢が量産され、
鉢植え物が大流行するようになりました。
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四季花くらべの内 秋 三代歌川豊国画
上) 初代坂東しうか 中) 八代目市川団十郎 下) 三代岩井粂三郎
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ゑん日の景 歌川国貞 (三代豊国)
夜の縁日、虫売り、金魚売り、植木売りを楽しむ庶民の姿が抑えた色調の中に
格調高く表されている。
武士の愛した不思議な植物たち
江戸時代の鉢植え植物の中でも、とても美しく、かつ珍しい植物は”奇品”と呼ばれて
珍重されました。
様々な種類や品種が作出されやがて世界的に類例のない「珍草奇木」として、
オモトや変化朝顔などが発達した。
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万年青7種・金魚葉椿・班入り薔薇 (おもとななしゅ・きんぎょばつばき・ふいりばら)
関根雲停画 (下段右端) (下段中)
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水野忠暁撰 関根雲停画 架蔵7紙の内1紙
武士たちが限りない愛情を栽培に注いだ奇品は、花の美しさを基準とする
現在の感覚からみれば到底美しいと形容できるものではありませんでした。
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玉青堂愛翫竺蘭真写 (ぎょくせいどうあいがんじくらんしんしゃ)
武士たちは手間と時間を惜しまず、葉の形や斑の入り方・色などに
こだわり、ほかに類を見ない珍奇な植物を育てることに熱中しました。
江戸園芸三花 -朝顔・花菖蒲・菊ー
江戸の花卉園芸の中でも特異な発展をみせた朝顔・花菖蒲・菊の
三花、これらはいずれも武士が深く関わって園芸品種の基礎を作り
やがて植木やがこれを受け継ぎ、発展させていきました。
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三都一朝
三都から出品された変化アサガオの珍花図譜、彩色図86種を収める。
江戸下谷の植木屋・成田屋留次郎は変化アサガオの品種改良や
普及に情熱を注ぎ、朝顔大流行のもとを作り出した。
今に残る入谷の朝顔市の元祖でもある。
およそ朝顔と思えないほど変化を遂げた朝顔です。
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花菖蒲画賛 松平定朝(菖翁) 筆
園芸植物として最も著しい発展を遂げたのが、ハナショウブです。
一人一代でこれを世界の園芸種に育て上げたのが松平定朝。
天保(1830~44)の初めに優れた花は百種を越えた。
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花菖蒲培養録 松平定朝 著
左は「宇宙」(おおぞら} 右は「げい裳羽衣」(げいしょううい)とともに
定朝一代の傑作、品種が現存する。 (天女の羽衣という意味)
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百種接分菊 (つぎわけぎく) 歌川芳国
1本の菊にすべて異なる100種類もの菊を接ぎ木したもの。 弘化2年秋、
今衛門の作品。 色とりどりの菊を数えるとちょうど百本あり、すべての花に
花名を記した短冊がついています。
1本の菊で百花繚乱 江戸の園芸技術の高さをよく示しています。
園芸文化の明治維新
江戸から明治へと移り行く時代の流れの中で、江戸の園芸文化は大きな
曲がり角を迎えます。
西洋から輸入された洋薔薇の美しさは文明開化の日本において急速に
受け入れられていきます。
これと対照的に斑入り常緑植物にあれほど惚れ込んでいた奇品栽培家の
姿は次第に影を潜めてゆきました。
(小笠原 左衛門尉亮軒著「江戸の花競べ」も参考にしました)
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花や緑に親しむ人々が描かれた浮世絵や屏風、現代と変わらない
技術が満載の園芸書、丹精込めて育てた自慢のひと鉢が描かれた
刷物などを通して、平和な時代に花開いた江戸時代の園芸文化は
思った以上に興味深いものでした。
江戸博を出るとすっかり暮れていました、いつもこの道を通る時は
江戸時代に思いを馳せた後で、平成の世に戻る道でもあります。
江戸東京博物館 開館20周年特別展
「花開く江戸の園芸」は9月1日まで。