カリフォルニア徒然草 または武蔵国人覚書

ダンナの海外赴任のため、想定外のアメリカ暮らしを経験。
日常のふとした出来事を、心覚として綴っています。

幻のお宝、バーンズ・コレクション

2008-09-28 20:38:24 | 旅行:東海岸主要都市周遊
8月27日(水)ホテル内のカフェにて朝食サービス(無料)を利用。
セルフサービスのバフェ形式で、オムレツなどの温菜類はありませんでしたが、
トーストやワッフルを自分で焼いて熱々をいただくと、充分満足できましたよ。
このワッフル、実は裏を返すと
リバティベルの図柄になってるんです!
(食べてる途中に気付いたので写真が無い

オリジナルの焼き型ですね。
すごい~

さて、今日はフィラデルフィア郊外を訪ねます。
そもそもフィラデルフィアに来た目的は、歴史公園よりも今日の行き先の方がメイン。
8時過ぎにホテルをチェックアウトし、フリーウェイで一気に中心街を離れます。
PA-1に下りて、
しばらくは街中を走ります。
路面電車と並行して走ってて気付いた。辺りは一目でそうと判る低所得者層の居住区。
道を歩く人や、小学校の壁のイラストはみなアフリカ系の顔立ち。
路肩の駐車車輌や道を走る車はやや古びて、日本車なんてまず無い。
そんなことを思いながら走っていると、路面電車の線路が途切れた。終点です。
すると、通りをはさんだ向こう側は、全く違う風景が広がっている。
綺麗に刈りそろえられた並木道、瀟洒な一軒家が立ち並び、停まっているのは高級車。
アメリカって、こういう所がホントにはっきりしてるんですよね。
所得によって居住区が明らかに異なっている。郊外ほど金持ちが住んでいる。。。
(“公共交通機関を利用する=(低所得で)自家用車が買えない”ってことなんです)
ロスで暮らしていてこの構図はだいぶ判ってきたつもりですが、やはり驚かされます。

事前に用意しておいたマップに従って目的地を目指す。
閑静な住宅街が続き、看板もなく、本当にこの道でいいのか不安になりかけた頃、
突然ひときわ広大な敷地のお屋敷が姿を現した。
ここが我々の目的地、バーンズ財団The Barnes Foundationです。
貴族の館にでも入っていくかのような入り口。

1872年生まれのA.C.バーンズは、新薬の特許で巨万の富を得たアメリカの大富豪で、
絵画に造詣が深かった彼は、その莫大な財力を元に当時の近代美術、
特に初期のフランス現代美術と後期印象派の作品を収集しました。
ルノアール、セザンヌ、マチス、ピカソ、ルソー、モディリアニ、モネ、マネ、ドガ、
ゴッホ、ルソー、そしてスーラなどなど・・・その数は2500点を超えると言います。
これらのコレクションを管理するために設立されたのがバーンズ財団です。
シュールレアリスムの大家デ・キリコの手による
アルバート.C.バーンズ氏の肖像画。

バーンズは“金に飽かせた”コレクターではなく、
自身でも美術評論を書くほどに博識でした。
彼の絵画収集は、単なる鑑賞のためではなく、
教育が主目的だったのだそうです。




© The Barnes Foundation

20世紀の個人のコレクションとしては屈指と言われるバーンズ・コレクションは、
同時に“幻のコレクション”と言われています。

というのも、バーンズ氏がこれらのコレクションを公開したところ、
当時の保守的な美術評論家たちは、これを評価するどころか、酷評したのです。
「廃品同然」とまで言われ、激怒したバーンズは以後一切公開をやめてしまいました。
更には「一点たりとも貸出、複製、売却することを禁ずる。
また館内に陳列された作品の位置を変えることも禁ずる。」と遺言したのでした。
氏の死後16年間、州裁判所がこの遺言を一部破棄する命令を下すまではこれが厳守され、
財団の生徒以外はギャラリーに足を踏み入れることもできなかったのです。
現在でも開館日や入場人数に厳しい制限があります。

そんなバーンズ・コレクションが唯一海外で公開されたのは、なんと日本なのです!
1994年、バーンズ美術館の改装時に、国立西洋美術館で80点の絵画が展示されました。
門外不出のコレクションの、最初で最後の(?)展覧会ということで、
110万人が来場、入場できない人が出るほどだったとか。
印象派にはあまり興味のない私でも聞いたことがあったし、ダンナは観に行ったそうです。

現在では書籍やDVDも出版され、コレクションを目にする機会は増えましたが、
やはり生で見たい!というダンナの強い希望で(私も見てみたかったし)、
今回、財団を来訪することとなったのでした。

ゲートでまず一人一人名前を聞かれ、予約者リストに名前があるのを確認されます。
守衛さんが無線で予約者の到着を内部に連絡し、初めて門をくぐることができる。
広々とした前を抜けると、木立の向こうに建物が見えてきました。
二階建ての建物は思ったより凝った造りではなく、美術館らしい建物。

奥にある駐車場前で再度氏名の確認、その後ようやく駐車場に車を停める。
予約時間までしばし待った後、定刻になってはじめて建物の中へ案内されます。
まずは地下に行って手荷物をロッカーに預ける。手ぶら状態での鑑賞します。
館内は撮影禁止。以後の館内の写真は、おみやげの絵葉書からの転写です。

最初の部屋(というかホール)に入ると、目の前の壁一面にマティスの『ダンス』
壁に飾られているのではなく、直接描かれています。
独特の色彩と躍動感のある人物たちが、目に飛び込んでくるようです。




© The Barnes Foundation

右の壁にスーラの大作『ポーズする女たちModels』
背景に同じくスーラの『グランドジャット島の日曜日の午後』が描かれている。

その下にはセザンヌ
『カード遊びをする人たちCard Players』

左右にもセザンヌの作品



© The Barnes Foundation

マティスと向かい合う壁には一面、ルノアールの作品が展示されていました。
ここバーンズ・コレクションは、世界屈指のルノアールの作品を有する美術館でして、
こちらの壁に展示されている絵は全てルノアールでした。
あまりの多さに正直有り難味が薄れるほど。。。?

この美術館の特徴は、その展示方法にあります。
壁面中央に大きな絵を配し、その両脇に大きさや作者の同じ作品を左右対称に並べる。
色調やテーマも極力、そろえられています。
これが、バーンズ氏が“変わり者”“偏屈”といわれた所以でもあります。
10以上ある展示室の全て、四方向の壁がそれぞれびっしりと絵で埋め尽くされている。





© The Barnes Foundation

コレクションの量はもとより、その幅の広さに驚かされます。
特定の画家の特定の時期の作品に偏ることなく、初期の作品から晩年まで網羅している。
印象派の作品以外にも、ルネサンス期の宗教画、アメリカや中国の絵画も押さえている。
更に、家具類、エジプトやギリシャ、アフリカの美術品等々、コレクションは多岐に渡る。
これらを個人が収集したのかと思うと、気が遠くなりそう。。。

しかし一方で、あまりに展示方法にこだわったため、無理が生じているようにも感じました。
宗教画が並べられている同じ壁に、娼婦達をモデルにした作品があったり、
モディリアニやマネの作品の脇に、アフリカの彫刻が置かれていたり、
隣り合った部屋に展示されている作品の時代の流れが分断されていたり、
ウチらは美術の専門家じゃありませんが、それだけに雑多な印象、見ていてやや混乱する。
正直「この展示方法では評論家に酷評されるかもね~」というのが感想でした。

そうは言っても、これだけの質と量の作品たちを一度に鑑賞できるのは贅沢極まりない。
入館後は見学の時間制限がないので、午前中一杯かけて各部屋をじっくり見れたし、
私もダンナも、それぞれに好きな画家の観たことのない作品を見つけてご満悦でした。
事前予約とかそのための旅程調整とか周辺地図の用意とか、いろいろ面倒だったけれど、
頑張って来てよかった!!と思いました。
バーンズ財団
The Barnes Foundation


300 N.Latch's Lane,
Merion, PA19066

※ホームページ→こちら

さあ、これでフィラデルフィアに思い残す事はもう無い。
いよいよ最終目的に、ニューヨークに向かいます!