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Dr.keiの研究室2-Contemplation of the B.L.U.E-

乳幼児の殺害と母子心中、そして養子縁組あっせんの法制化について

最近、乳幼児の殺害事件や母子の心中(未遂含む)事件が連日のように報道されている。

今年に入ってから、こういう事件が立て続けに起こっている印象を受ける。

(それだけ、メディアが積極的に報じている、とも…)

16日。


 自宅アパートで生後4カ月の長女を殺害したとして、愛知県警は16日、同県蟹江町錦2丁目の無職鬼頭理英子容疑者(32)を殺人容疑で逮捕し、発表した。容疑を認めているという。

 蟹江署によると、鬼頭容疑者は16日午前7時半ごろ、自宅で長女の美空ちゃんの顔に抱き枕を押し当てるなどして殺害した疑いがある。鬼頭容疑者は同日午前9時ごろ、「娘が息をしていない」と119番通報。美空ちゃんは搬送先の病院で死亡が確認された。

 鬼頭容疑者宅は親子3人家族で、通報時、父親(37)は仕事で外出中だった。美空ちゃんに目立った外傷はなく、同署は解剖して死因を調べる方針。

引用元


32歳の女性が生後4か月の赤ちゃんを殺すという痛ましい事件。

彼女(と思われる)のfacebookには、かわいらしい赤ちゃんと象さんのぬいぐるみの画像が貼られていた。

断片的だが、「母親」であることを示す画像だった。

さらに、17日。


 17日午後3時10分ごろ、JR天王寺駅(大阪市天王寺区)で和歌山・関西空港発天王寺行き快速列車(8両編成)に、大阪府大東市の無職女性(34)と生後2カ月の長女が接触した。大阪府警と市消防局によると、女性は電車にひかれ搬送先の病院で死亡が確認された。長女は車体の下から救助された。擦り傷を負っているが命に別条はないという。

 天王寺署とJR西日本によると、運転士がホームから線路内に立ち入る女性を確認し急ブレーキをかけたが間に合わなかったという。乳児を抱いた女性が線路に降りたとの目撃情報があるという。事故の影響で大阪環状線と大和路線のJR難波―王寺間で約45分間運転を見合わせ、約3万5千人に影響が出た。

 現場に居合わせた大阪市住吉区の男子大学生(19)は「赤ちゃんを抱えた女性とすれ違った後、電車が入ってきてパーンと音がした。振り返ると女性の姿はなく、女性が持っていたカバンが地面に置かれていた。赤ちゃんは車両とホームの間から救出され、泣いていた」と話した。

引用元


先の事件の次の日には、34歳の母親が「心中」(?)と思われる事件が起こった。

(心中だったかはこの記事からは読み取れないが…)

この二つの事件以外にも、親が赤ちゃんを殺す事件(嬰児殺し)が続いている。

貧困や虐待に関する話題も多いが、こういう赤ちゃんの遺棄や殺害の話題も一向に減らない。

感覚的には、この冬~春にかけての時期に、こういう事件が増加する傾向にあるように思うが定かではない。

***

こうした事件を防ぐために、考えだされたのが「赤ちゃんポスト」だった。

それと、日本ではまだ議論もされていないが、「匿名出産」や「内密出産」もある。

赤ちゃんが生まれてからの1年というのは、最も注意しなければならない時期。

(一部の論者に、生後1年は「楽だ」と現実離れした発言をする人間もいるが、それは悲惨な現実を知らない人間ゆえだろう。でも、それを責めることはできない。一般的に手がかかるのは、二歳を過ぎたあたりからだから。でも、児童遺棄や嬰児殺しについて少し勉強すれば、生後1年の間が最も警戒しなければいけない時期だと分かるだろう。ただ、その「理由」は定かではない)

日本は、「差し迫った危機下にある母子」を救うシステムが極めて脆弱である。母子生活支援施設はあるが、その日にすぐに入居することは難しい。シェルターもあるところにはあるが、全国に整備されているわけでもない。しかも、母子支援施設の多くが「DV被害者向け」になっていて、そういう明確な理由がなければ、なかなか入れないのが実情になっている。

赤ちゃんポストも熊本に一つあるだけで、他にはない。

一部で、「養子縁組あっせん」が民間団体の努力によって行われているが、こういう事件を防ぐ決定的な方策になるのかは分からない(慎重な議論が必要)。多くの実の母親の場合、養育が困難であっても、「母親」であることを自ら放棄しようとはしない。辛いけど、責任は被うとする。けれど、それができずに、追いつめられて、殺害や心中に至ってしまう。もっとも差し迫って追いつめられた時に、どこにも頼る場所も人間もいないので、どうすることもできない。

「じゃ、養子縁組に出せばいいじゃん」と思われるかもしれないが、そう簡単なことではない。どこかに、「我が子」というイメージがあり、「私がどうにかする」という意識が親にはある。その責任の取り方として、産んだ子を殺す、子と共に死ぬ、という選択をするのである。

そんな中、与党が「養子縁組あっせん」にかかわる法律を成立させようとしている。


 自民、公明両党は、実親が育てられない子どもを別の家庭に仲介する民間の養子縁組あっせん団体への規制を強化する法案の検討を始めた。早ければ今国会にも議員立法で提出する。両党の有志がまとめた法案骨子案は、団体の事業を現行の届け出制から都道府県による許可制にすることが柱。団体は全国に19あり、虐待や貧困などで実親が育てられないケースが増える一方、一部で多額の金銭取引が横行するなど不透明な実態が問題視されている。

引用元(毎日新聞)

 望まない妊娠や虐待などで生みの親が育てられない子どもの養子縁組を仲介する民間のあっせん事業者に対し、与党は現在の届け出制を見直し、許可制にする検討に入った。悪質な事業者を排除する狙いで、早ければ今の国会に新しい法案を提出する。

引用元(朝日新聞)


悪意のある養子縁組あっせん業者を排除するのが狙いだと思われるが、これまで「届け出制」だった民間団体の養子縁組あっせん事業を「許可制」にする、というものだ。

これ自体は、一定の評価はできる。ドイツでも、こういう養子縁組あっせんは、「国家の承認を得た団体」に限定されている。そのねらいは、児童売買や劣悪な業者を排除するためである。つまり、そういう「縛り」がなければ、「赤ちゃん」を狙う人間がいっぱいいる、ということだ。

ただ、これは、追いつめれた母子を救うための法というよりは、赤ちゃんの売買やあくどいあっせんを防止するための法であり、上に挙げた二つの事件の防止や予防には直結しない。

追いつめられた母子(あるいは父子、あるいは家族)の支援体制への見直しには、まだまだ程遠い。児童相談所の人員を増やすことや、行政、民間の支援システムづくりや、母子支援施設の拡充など、やらなければいけないことはまだまだある。けれど、そういうことに対して、どの政党も問わず、ほとんど関心を向けていない。

エンゼルプランに始まる子育て支援も、保育園を増やすこと(建築業向け)や働くママの支援(人手不足解消)の話ばかりで、本当に困った母子のための政策にはなっていない。そうした母子を支援する専門家の育成もままならないし、そもそも、そういう母子を理解したり支援したりする学問的な領域さえない。

ドイツでは、社会福祉教育(ソーシャルペタゴジー)が積極的に、母子の支援のために動いており、緊急下の家庭の支援に積極的に関与している。日本でも、ソーシャルワーカーは多数いるが、差し迫った状況での対応や支援については、ほとんど力(選択肢)をもっていない。児童相談所も、様々な業務に追われ、一つ一つのケースに専心することができない。一時保護施設には、子どもが溢れ、乳児院や児童養護施設も、その対応にまでは手を伸ばせない。

最も求められるのは、処遇の如何を問わず、赤ちゃん、あるいは母子を一時的に匿名で保護できる場所、施設、団体だろう。「殺すくらいなら、死ぬくらいなら、心中するくらいなら、まずは、ここに来てくれ」、ときちんと言える場所を提示することだ。そして、迅速に、匿名で、受け入れることのできる場を設けることだ。(僕がここで想定しているのは、リューベックにある「アガペーの家」である)

また、一時里親を増やすことも早急にすべきだろう。現状だと、児童相談所を経由して、乳児院に行く道が主となっている。それを、一時的に保育に長けた一時里親に託し、親の支援を行う、という方向に変えられるかどうか。

こうした議論なしに、痛ましい母子の事件を防ぐことはできない。

養子縁組あっせんについて議論をするのと同時に、緊急下の母子(父子)の支援についての議論も行ってほしい、と切に願う。

***

4月15日に出版予定の本は、まさにこれがテーマとなります。

こういう事件を繰り返さないために、またこういう事件を未然に防ぐために、僕らが何をどうしていけばよいのか、どう考えればよいのかについて、日独の視点から議論します。

この本が、差し迫った状況下の母子の支援の拡充のためになってくれることを願うばかりです。。。

コメント一覧(10/1 コメント投稿終了予定)

kei
貴重なご意見、ありがとうございます。

まだまだ制度的には不備がいっぱいあるということですよね。劇的な変化は望めないので、ゆっくり一つ一つ変えていくしかないんでしょうね。

コメントありがとうございました。
Unknown
こんにちは、養子縁組支援のフィールドで勤務するものです。斡旋法については、主に民間のみに罰則あるようなものに現在なってますが、本来ですと行政も養子縁組斡旋を行うわけなので行政はに向けての罰則も記載されなければならないと思います。


また、行政は養子縁組のアセスメントに関して全くなにもない状態ですし、縁組自体も全く進んでないのが現状ですし、アフターフォローなど皆無です。現行日本の殆どの養子縁組運用に関しては民間が担っていると言っても過言ではないことをお知りおきください。
kei
石森さん

コメントありがとうございます!

4月に出る予定なので、出たら、どうぞよろしくお願いいたします。現在、初校が終わって、再校の作業に入ろうとしています。

アガペーの家については、このブログでも紹介したことがあります。
http://blog.goo.ne.jp/sehensucht/e/28051373dc5e16d32e1a556e3517944c

また、拙書『赤ちゃんポストと緊急下の女性』にも出てきていますので、よろしければご覧ください。

今後もよろしくお願いいたします!!
石森叡子
子殺しは昔からあった。
本が出版されるのを心待ちしています。内容は私がしたいこと、してほしいことです。アガぺーの家とはどういうものなのか、本が出る前に少しだけでも教えてくださいませんか?
今後のご活躍、期待しています。
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