散歩絵 : spazierbilder

記憶箱の中身

Wanderung

2015-06-24 17:32:15 | 写真





始めてのハイキングコースを歩くことになった。
住処から車で30分程の場所だ。だいたい14キロ程の道のりになる。
歩き始めは大きな古い墓地の脇を通りぬける様になって居て、鬱蒼とした木々の隙間を歩いてゆくと、少し離れた一角にユダヤ人墓地があった。趣がある、とも言えるのだが日が暮れたらこの辺を歩き回るのは遠慮しよう。
この墓地では樹木葬なども引き受けて居るらしい。
墓地を通り過ぎて森の入り口とも見える場所に差し掛かった時、足元に丸い石が落ちていた。石は薄い茶色でかすかに赤い縞が入っており、木星の写真を思い出させた。埃っぽい道の上に木星が落ちていた。通り過ぎてもしばらくの間気になって戻って拾おうかと迷ったが、やがて石の引力はプツンと切れた。
道はだんだん表情を変えて行く。
時折、きつめの登り下りがあったり、嵐で倒れた木が道を塞いでいるのをよじ登ったりくぐったりと忙しい。
湿地帯の端を通り過ぎるのだが、道のあちこちに沢山の太い枝が敷かれている。幸いこの日は地面が比較的乾いていて、泥だらけになることもなく通り抜けた。泥沼に足を取られて大変な目に遭うのだと後で聞いた。
湿地帯には野生アイリスの黄色い花色が濃くなった緑の葉の間にポツリポツリと残っているが、ふと目を逸らすと黄色は緑の中に溶けて行く。
嵐で倒れた直径1メートル以上もある泥を抱えたままの木の根元にゴルフボール大の穴が沢山あいていて、コウモリの巣ではないかと思ったのだが確認ができずに通り過ぎた。
道は時折畑に出たり、森に入ったり木の幹に書かれたハイキングコースの目印を追ってひたすら歩く。今回は白い四角を追う。
ふと、靴の中の小石がひどく気になりはじめた。実は最前から気になってはいたのだが紐を解いて靴を脱ぐのが面倒で無視を決め込んでいた。しかしどう言うわけだか小石は増えている。トレッキング用の靴だからしっかり履いているつもりで、なんでこんなに石が入り込むのか不思議だ。靴の中で砂利が生まれているとしか思えない。
とうとう靴を脱いで振り回し、気を取り直してから歩き始めた。
西洋にわとこの花の香りが雲の様になって、あちらこちらに浮かんでいる。
それから間も無く緑のトンネルの様な道に出会った。
道は左右がかなり高くなっていて、そこに古木が立ち並んでいる。そのせいでまるでトンネルの中を歩いている様子になる。緑に銀色の木漏れ日のあしらいが美しい。
長い年月が刻まれた古木の肌を指先で叩くと、木陰で休息して居た白い小さな蝶がゆらりと飛び上がった。