ガーベラ・ダイアリー

日々の発見&読書記録を気ままにつづっていきます!
本の内容は基本的にネタバレです。気をつけてお読みください。

E.L.カニグズバーグ著 「エリコの丘から」 岩波少年文庫

2007-09-06 | こんな本読みました

著者はアメリカの作家。ニューヨーク生まれ。どうりで。。。同著者の『クローディアの秘密』はたしかメトロポリタン美術館が舞台のお話だった。

本作品も、母親の仕事の関係でトレーラーハウスを車の後ろにくっつけて、テキサスからニューヨーク州にやってくる少女(ジーンマリー・11歳)が登場する。3週間たっても転入先のクラスメイトから名前を覚えてもらえない。将来は有名人になるという夢を抱いている。クラスメイト達をテキサスの時と同様、グループをつくって群れていると感じている。かれらの母親も同様。<クローン人間>だと評する。

ジーンマリーと同級生の男の子(マルコム)とは、死んだアオカケスがきっかけで口をきくようになる。マルコムは韓国人で父親と二人暮らし。ジーンマリーは母親と二人暮らし。ともに鍵っ子である。動物の埋葬を通して二人は親しくなっていく。

その親しくなる過程が実におもしろい。二人が言いたいことを言い合う。容赦しない。時には思いっきりけんかをする。けんかの内容も大人顔負け。その関係性の描かれ方が新鮮だった。相手の欠点に目をそむけずお互いの違いを認識しあう。そして最終的には二人で知恵をあわせて問題解決に向かうのである。

<アオカケスをいっしょに埋めた日から、マルコムにはこのことを話すだろうな、と思っていた。この子なら信用できそうだって思ったから。友だち関係もお葬式も、同じ場所に立てば始まりはするけれど、深く掘りさげなきゃつづいてはいかない。信じる気持ちが必要なのは、友だちもお葬式も同じ。信じる気持ちっていうのは、絆っていうか信頼感っていうか、まあそういうものかな。マルコムだったら、秘密を教えても、からかったりしないだろうと思う。ぜったいに、だれにも話さないだろう。話さないでねなんて、たのまなくても。>

そしてこの二人が、突然地中に吸い込まれるのである。そこでタルーラという元女優に出会い、ある仕事を頼まれるのである。<透明人間>という姿の状態でー。透明人間になることで、人の目を気にしなくていい。他人と無関係に自分のほんとうにしたいことができる。

彼らは透明人間となってなにをするのか?ここはおもしろいところなので伏せておく。

そして、それらを通じてわかったことがあった。
<その一、いんちきと本物の見わけはつけられた>
<そう、そのニ。なんにもしないことが、何かをすることにもなるんだとわかった>
このことがわかったこの二人は、タルーラからあることを任命されるのだ。

その任務を遂行するためにふたりは奔走する。けんかもする。
そして、この元女優のタルーラがいい女性なのである。

<タルーラは、わたしが話したことのある大人のうちで、一度に二つのものになれるただひとりの人だ。タルーラという女優にもなれるし、同時に六年生の女の子にもなれる。ほかの大人は、そんなことできない。>

<でも、タルーラはちがう。ドアを開けてくれる。いつもいつもやさしくしてくれるわけじゃなくて、わたしとマルコムをちゃんと一人前にあつかい、腹が立つようなことだって平気で言う。わたしとマルコムにとって大切なことだからといって、自分にとってもたいせつなんだというようなふりは、ぜったいにしないんだ。>

<女優になりたいんだってことを、わたしはやっと話した。タルーラは驚かなかった。ごくあっさりと「すごくなりたいと思わなきゃだめよ。」と言った。
「すっごくなりたいよ。」
「なりたいだけじゃ、だめ。ぶつかっていかないと。オーディションにも出てみないとね。」>
子どもをひとつの人格あるものとして向き合い、厳しいことも言ってくれる。

任務を遂行した最後に、スターになるために必要な三つ目のものがわかる。
ちなみに必要なものの二つが<才能とタイミング>だとか。
さて三つ目は?
ぜひこの本を読んで三つ目をみつけてみてほしい。

きっとこの本読まないだろうな…という人にはこっそり。。。

<いくら運をつかんでも、エマジーンのような人はスターになれない。才能がないからではなくて、才能はあったけど、それを気前よく使わなかったから。スターっていうのは、持っているものは思い切って使ってしまわないと気がすまないんだ。エマジーンは、たかが一万八千曲の歌をひたすら地道にうたってきた。スターというのは、なくなったらどうしようかなんて心配したりしない。すすんで自分をさらけだそうとする。>
*エマジーンというのは、歌った歌の数をノートに毎日記録して、けちけちとその才能を小出しにしていたような人です(ガーベラによる註)

チャンスが来たなと思ったらだしおしみしない!それが著者のメッセージでもあります。 
ちなみに本書の訳は<金原瑞人/小島希里>氏によるものです。

 


最新の画像もっと見る

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
これも懐かしい (海ちゃん)
2007-09-07 01:26:18
こんにちは。懐かしい名前が続くので、続けてコメントです。カニグズバーグ氏の作品は河合隼雄先生も絶賛してらっしゃいましたよね。

私は「魔女ジェニファとわたし」しか読んだ事はないんですが、どういうわけか親が買ってくれたので家にあったんです。最初は取っ付きが悪くて長いこと放ってあって、実際に読みあげたのは5年生ぐらいだったかな。
人との出会いもそうですが、本も「その時」にならないと出会えないんじゃないかと思います。
字面だけを追っても理解出来なかったので、何度も何度も読みましたっけ。子供の時に読んで面白かった本が、大人になってから読むと別の意味を持って来るっていうこと、ありますよね。そういうのが本当にホンモノの本じゃないかなあ。
ホンモノ (ガーベラ)
2007-09-07 19:55:42
海ちゃんの懐かしさのツボに入ってしまっているようですね。最近の拙記事(笑)。コメントありがとうございます♪

そうそう!。実は河合隼雄著『ファンタジーを読む』(講談社+α文庫)に触発されてこの本を読んだのでした(笑)。他にも紹介されている本があるので、そちらも読みたいと思っています!ちょっとしたマイ・ファンタジーブーム?(笑)

ううむ。理解することを目的に再読されたのですね!『魔女ジェニファとわたし』。読んでみたくなりました。
<ホンモノ>と出会えること。再会すること……これにまさる喜びはありませんね!

コメントを投稿