ガーベラ・ダイアリー

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工藤直子・斎藤惇夫・藤田のぼる・工藤左千夫・中澤千麿夫 「だから子どもの本が好き」 成文社

2008-02-19 | こんな本読みました

本書は、「絵本・児童文学研究センター」主催のセミナー(第11回)の記録である。5名の方が一人30分間の持ち時間で講演したものをまとめてある。

以下がその内容

ツッコミの時代……藤田のぼる
期待ー「読む」ことの不思議ー ……中澤千麿夫
原風景……工藤直子
心って……工藤左千夫
音楽……斎藤惇夫

藤田氏の講演のなかで、児童文学の時代の反映のしかたに独特の様相があるという話が印象的だった。

<ヨーロッパで近代家族というものが成立していく中で、子どもという存在の意味が、単に大人予備軍、未熟でやっかいな者から、ひとつの人格をもった愛すべき存在としてクローズアップされていった。家族の中で子どもはかけがえのない者として意識されていった。>

これは、今から百年くらい前(19世紀から20世紀にかわっていくころ)、「赤毛のアン」「小公子」「秘密の花園」「トム・ソーヤの冒険」「ハイジ」といった名作が世に出ているのだが、不思議なことにそのほとんどが、主人公は「孤児(みなしご)」もしくはそれに近い設定だという。その理由を上記のように考察されている。

そして、それは<普通にその家族として存在している子どもよりも、「外からやってきた子ども」という設定のほうが、家族の結びつきとか、子どものかけがえのなさといったテーマが浮き上がると述べられている。また、それは当時の作家が意識して行ったわけでは多分なく、後になって並べてみると時代の思潮、空気、人々の考えというのが作品に反映されていると思う>という。

この文章を読んで、絵画にもそのような「時代の流れ」というのがあることを想起した(ここでは、詳しく述べられませんが。汗)。内面を表現するものゆえに、人間の生きかたというのは外せないものなのだろう。

そして、藤田氏によると1980年代に本格的に日本の児童文学が大きく転換したという。これは日本の社会全体の変化・変質の時期と重なる。そしてこうした時代の変化に敏感に対応していった作品は決して多くないがある(具体的な本をいくつか挙げ考察されている)。

また、工藤直子さんの話もおもしろかった。

<私にとっての原風景って、楽しかったり暖かかったりするばかりではありません。むしろ、切なかったり、寂しくて、しゃくりあげるような感じが多いです。ただ、その寂寥感の原型みたいなものを、まるごと引き受けて、なんども味わっているうちに、ダメな自分も丸ごと引き受けられる気持ちになれたというか…。>

工藤氏の以前読了した『まるごと好きです』(ちくま文庫)にも同様のことが書いてあった記憶がある。人や動物や自然にたいして開かれている感じがするのは、こころがやわらかいからなのだろうと思った。そういう感性をいつまでも持ち続けることができるというのは一つの才能なのだろう。

工藤左千夫氏の講演で心に残ったのは、『ロージーのおさんぽ』(パット・ハッチンス著)をめぐって、カナダから来日していた北海道大学の客員教授と議論を三時間したというくだりである。欧米と日本の(自立的)世界観・民族性の違いをそのまま受け入れることが異種文化や異民族との出会いの一歩である。絵本をめぐって三時間とはすごいものだ(ちなみに、この絵本個人的にはとてもおもしろく読みました。いや見ましたというのが正解かもしれないけれども)。

また、西洋の物語(成長理論)には、象徴的な「母殺し」「父殺し」という通過儀礼がバックボーンにあり、それは人間が自立していくための葛藤だという。しかし、日本にはこのようなものはまずないという指摘がある。日本の民話の、禁止譚のなかにやむなく去っていく(亡んでいく)、もののあわれが見てとれるという。

最後の斎藤惇夫氏の講演では音楽と絵本についての関係を述べられていて、なかなか興味深かった。対位法を絵本の中に持ち込んだのがコールデコットでありそれを指摘したのがモーリス・センダックである(『かいじゅうたちのいるところ』の著者)。

また、斎藤氏の著書『グリックの冒険』は、ただただ音楽をそのまま言葉にしてみたいと思い、モーツアルトのフルート四重奏曲をずっと聴いていたという。音の美しさ、なめらかさ、それから走る悲しみを文章で表現できないかと思って書いたそうである。おもしろい試みだと感じた。

二作目の『冒険者たち』の時は、もっとその欲望が深まったというのだからおどろきだ。曲はバッハの『ゴールドベルグ・バリエーションズ』だそうである。そう思って著書を読むと読書の違ったおもしろさを発見できるかもしれないと思った。

 


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