本書はタイトルどおり、哲学家鶴見俊輔氏と13名のかたたちとの対談集である。諸雑誌で掲載されたものを、この1冊にまとめたものである。
以下が目次
大江健三郎 「揺すぶり読み」の力
金芝河 再会
富岡多恵子 老いの奥行き
赤瀬川原平 老人力と赤ん坊力
多田道太郎 カードシステム事始
片岡義男 繰り返し読むということ
奈良美智 ひとりで歩ける人
横尾忠則 笑う骸骨
福島瑞穂 たよりになるのは、エゴイスト
西島建男 私の中のアメリカ
加藤典洋 赤坂憲雄(司会) 歴史の遠近法
室謙二 二〇〇一年九月十一日
橋本治 いま、私たちの立っている場所
まず、鶴見俊輔氏という人がなかなかおもしろかった。こんなことを言っては失礼なのだろうが(汗)。経歴を見ただけでもいろいろ複雑な人生をおくってらっしゃる。母親との壮絶な闘いについては既知であったが。
対談の内容も、人によってテーマがさまざま。裏をかえせばそれだけ諸事情にくわしいということなのだろう。実際、対談の中でさまざまな歴史上の人物、思想家、宗教家、政治家等の名前がポンポン出てくる。
大江氏との対談では今後読んでみたい本などがみつけられた。武満徹氏や夏目漱石のエピソードなどもおもしろかった。
富岡氏との対談では、鬱病について話されている所が興味深かった(究極の共通の話題とのこと)。
赤瀬川氏との対談では、「老人力」についてがおもしろかった。老人のまなざしを受け止める人がいるかどうかが問題とのこと。
<「相手が問題なんです。ですから、老人力を活用できる基礎が文化の中になければ、老人力は活用されないんです。」(鶴見氏)
「そうですね。あってもしょうがないもんですからね。相手あっての言葉。言葉というのは必ず相手がありますからね。なければ一人の中で煮詰まっちゃうだけで、独り言にしても自分に対していってる。」(赤瀬川氏)
「最後はね、指が動かなくてもいいんですよ。まなざしなんです。まなざしそのものでいえるわけで、老人のまなざしを受けとめる人がいるかどうか、そういう問題なんです。」(鶴見氏)>
<人と人との間に生じる怒りって、だいたい錯覚からきてるんですよ。つまり他の人に対して、自分が像を作って期待して押しつけようとして、それがはずれるから怒りが出るんで、「ああ思いちがいをしたな」という感じが瞬時に働けば抑えられるし、そういう人間関係をなるべく避けるようにできる。>(鶴見氏のことば)
片岡氏との対談では、片岡氏が『源氏物語』を英語で読むとわかりやすかったということを言っている。英語を通して日本語に帰っていくという仕方。こういうやり方がわかりやすいというのをかつて、ほかの著者(加島祥造氏。英訳・原文から老子の日本語の口語訳をした方。)が言っているのを読んだことがある(←まちがっていたらごめんなさい)。
しかし、それに対して鶴見氏は、逆の場合もあるとして、カナダのSF作家たちのグループが「今日は日本語で話そう」という約束をする。英語で話すのだが、日本語の文法を意識した英語を話すのだとか。単数複数を使わないとか「I」「He」「She」などの主格をつかわないとか。そうするとまったく別の世界が生まれてくるのだとか。これは梅棹忠夫氏によれば「それぞれの言語の言葉癖」だとのこと(そこに松尾芭蕉の「古池や…」が引き合いに出される)。
奈良氏との対談では、鶴見氏が奈良氏の絵を評して<「子供は大人の世界に囲まれて歪みの形をもっている」というのが、絵を貫いていると思ったね。子供が何かを考えている時、何を考えているのか言葉でいってごらんといったって、いうことはできない。考えが、あるところで歪んだ形になって、一瞬静止しているわけだ。子供は、不満があっても、大人の言葉の文法を使って、別の秩序を自分で作ることなんてできない。>という表現が的を射ているなあと思った。
<思想というと、日本では、何かたいへんな手本を作ることだというふうに捉えられている。だからみんなカントやヘーゲルを論じるんだけれども、ある感覚をずっと保つという一貫性も、その人の思想的な達成なんだ。これは大変なことなんだよね。奈良さんの作品では、この「小さなナイフをもった少女」という感覚が、新鮮な仕方で繰り返されている。それはひとつの達成なんだと思ったね。>(鶴見氏のことば)
ちなみに奈良氏の絵は、どこかで見たことがあるかと思います。吉本ばなな氏もお好きなようで、たしか彼女の著作の表紙になっているはずです。ああ、タイトル失念(汗)。
加藤氏との対談では、歴史という軸の中で話がいろいろととぶのだがそれがおもしろかった。わからないところも多々あるが(汗)。桑原武夫、柳田国男、山折哲雄、村上春樹諸氏のなどなどの名前が挙がってくる。意外なことに(?)、宮崎駿の名前もでてきた。『もののけ姫』と『ナウシカ』について語っているのもおもしろかった。手塚治氏の作品との対比とか。
橋本氏との対談では、橋本氏著の『思考論理学』について興味を持った。