1週間程比較的穏やかな相場が続いた思っていたら、昨日はアジア・欧州で広がった相場の急落が米国にも伝播し、ダウは419ドル(3.7%)下落した。相場が急落した原因は、欧州のある銀行が欧州中銀の緊急融資を受けたという噂が、金融危機の再来を想起させ、銀行株が急落したことに加え、フィラデルフィア連銀の製造業業況指数が09年3月以来の低水準に下落したことが主なものだ。
相場の下落は米国の個人投資家、特に退職者や退職間近な人に改めて「退職後はポートフォリオの株式比率をどの程度にするべきか?」という問題を突きつけているようだ。ロイター英語版にHow much stock should older investors hold?という記事がでていた。
退職者にとって「どれ位株を持てば良いのか?」という問いに、単一の正解がある訳ではない。それは手持ち資金、年金等の定期収入の額や長生き期待度あるいはリスク許容度により変わるからだ。また投信会社やファイナンシャルプランナーの見解も分かれる。
パットナム・インスティテュートのある専門家は、退職者は株式への資産配分比率を25%以上にするべきではないと言っている。一方T・ロウ・プライスは65歳の退職者は株式比率を55%にして、35%を債券、10%を現金にするべきだと述べている。
この記事を書いているMiller氏自身は「個人的見解では、退職後の目標をかなえる経済的自信があるなら、株式比率は低ければ低い程良い」と述べている。退職後の目標retirement goalsとは何か?というと、「退職後にライフスタイルを維持しながら、予想しうる色々な出来事に備えること」となるだろう。つまり退職後どれ位の資金が必要かというプランを立てて、手元資金をどれ位の利回りで運用するべきかを計算して、必要な利回りが低い場合は株式リスクは極小にしようというのがMiller氏の考え方だ。
もっともライフプランを立てても、予想が付かないことが沢山ある。まず第一にどれ位長生きするかが分からない。次にデフレに慣れきった日本にいると実感しないがインフレリスクがある。株式投資の一つの意味はインフレヘッジであるが、乱高下する市場にハラハラしながら、株式を持ち続けるべきかどうかはその人のリスク耐性に関わっている。
Miller氏の記事には、平均家計に較べてリスク資産に投資する割合が高い人の比率が年齢階層別にグラフで示されていた。それによると、65歳でリスク資産に投資する割合が平均より高い人は15%程度で、80歳以上になると5%前後だった。
高齢化が進むということは個人投資家のリスク許容度が下がるということで、株式の需給には長期的なマイナス要因だろう。
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話は変わるが週間ダイヤモンドに「家族同席なしに高齢者に投信を販売した中央三井の有力支店が開店休業」という記事がでていた。記事によると同信託には「高齢者ルール」という内規があり、80歳以上の高齢者には家族の同席なしには答申を販売しないことになっているが、その支店では虚偽の報告をしていたという話だ。また同信託では半年程度で投信の乗換を薦める回転販売が跋扈しているという関係者の話が紹介されている。記事は同信託に投信販売のドライブがかかった原因を合併に伴う主導権争いに求めているが、もし本当にそうだとすると顧客を無視した寒々として光景である。
もっとも私の家内のところには、国債を預けている某大手証券会社から盛んに国債からリスク商品への乗換の勧誘があるそうだから、リスク商品販売にドライブがかかっているのは某信託だけではないだろう。
だがリスク商品を販売する方も購入を検討する方も、一度「退職後にリスク商品を持つ意味」という原点に立ち返って考えるべきだろう。リタイアメント・ゴールを達成する目処なり自信があれば、リスク商品は極力抑えるべきだというMiller氏の言葉は、市場が荒れているだけに重く響く。