8月10日中国が初めての空母を試験航行した。この空母は中国がウクライナから購入した「ワリヤーグ」型空母6万トンクラスだ。正式名称は決まっていないが、インターネット上では軍事オタクが、17世紀に台湾を征服した施琅Shi Langと命名せよという声もある(エコノミスト誌)。
台湾を征服した中国の英雄の名前を付けるとすると、随分近隣諸国を刺激する話である。新華社は「中国とアメリカの軍事専門家は、中国の将来の空母は米国とアジア太平洋諸国にとって、緊張の原因とはならない」と報じているので、軍や政府の大人の対応を期待するところだ。
中国は旧ソ連と違って、空母艦隊で米軍と比肩しようと考えていないので、空母はある種のステータス・シンボルだという見方もできる。つまり国連安保理事会の常任理事国の中で空母を持っていないのは、中国だけなので対面上空母を持ちたいという見方だ。
新華社の記事を読むとFactboxとして世界各国の空母の保有状況が書いてあった。例えば米国11隻、英国1隻、インド1隻、タイ1隻・・・など。それ自体は公知の事実で目新しい話ではないが、一番最後に「日本はヘリコプター搭載護衛艦と分類しているけれども、1.8万トンのひゅうがクラスのヘリ空母を2隻(「ひゅうが」と「いせ」)保有している」と書いていた。
1.8万トンというのは満載時の推定排水量だが、排水量だけからいうと、イタリアやスペインが保有する軽空母と同サイズである。これらの軽空母は短距離離陸・垂直着陸機(STOVL)を搭載している。日本の自衛隊は「ひゅうが」や「いせ」に艦載機を搭載しないといっているし、甲板が艦載機の離着陸に耐えるように設計されていないという話なので、日本の「ヘリ空母」が空母に転換されることはなさそうだ。
だが中国が日本の「ヘリ空母」にナーバスになっていること(あるいはヘリ空母を理由に空母の実装を急いでいること)は注目しておくべきだろう。
軍事的に見ると空母の運用や艦載機の離着陸には相当な経験を要するので、中国の空母が直ぐに軍事的脅威になることはない。むしろ軍事的脅威は、米国艦隊を遠距離から正確に攻撃できる対艦ミサイルだろう。
以下は歴史的余談だが、世界で始めて正規空母(鳳翔)を作ったのは日本で就役は1922年、約90年前のことである。それから日本は20数隻の航空母艦を建造(戦艦等からの転用を含めて)したが、3年半の戦争でその大半を失った。戦争とはまことに無益なものである。
中国の「空母がアジア太平洋の緊張の源泉にならない」という言葉が空念仏に終わらないことを期待するとともに、日本もまた必要な防衛策を忘れてはいけないだろう。