米国のデフォルトは寸前で回避することができた。また3大格付機関の内、少なくとも2つはネガティブウオッチという条件付ではあるものの、米国のトリプルAをコンファームした。しかし米ドルは安定せず、株が大きく売られている。市場参加者の関心は、今後の財政健全化により、経済成長が鈍化することに関心が移っている。
米国の債務上限引き上げが可決される少し前に、ロイターの編集者Chrystia Freeland女史が「欧米の政治的対立、ギリシアやスペインの若者のデモ、さらにはノルウェイの大量殺人事件の背景には欧米の高齢化の問題があるのだ」というコメントを発表していた(原題The West is getting old)。女史は「第二次大戦後に築かれた社会福祉システムは世代間のポンジ(ねずみ講)スキームで、人口ピラミッドが逆転すると、幾つかの国では経済を転覆させる」と述べる。また女史はNicholas Eberstade氏の分析から「過去20年間でOECDの公的債務の急増の半分は高齢化に伴うものだ」という結論を引用している。
もっとも今日の財政問題を巡る政治的対立の原因を高齢化に求める同女史のコメントについては、批判意見も多く寄せられていた。公的債務の拡大や財政悪化の要因を高齢化にのみ押し付けることは問題があるかもしれないが、高齢化が大きな要因の一つであることは事実だろうと私は考えている。高齢化→財政負担の拡大→増税(軍事費などを削ってもやはり必要だろう)→低成長化というのは、避けられない流れなのかもしれない。
ところで日本の平成23年度一般予算(92.4兆円)に占める社会保障関係費は29兆円弱で3割を超え、国債の利払い費用を除いた一般歳出(54兆円)に占める割合は5割を超えている。
また社会給付費全体を見るには、国庫負担(税金)による社会保障関係費に、社会保険料59兆年や地方負担10兆円弱を加える必要があり、全体としては105兆円となる(平成22年度実績)。この5割53兆円が年金給付に使われ、3割が医療給付に使われている。
先進国の中で高齢化が一番進んでいる日本だが、国民所得に占める「高齢給付(恐らく年金給付)」の比率は必ずしも諸外国比較では高くない。OECD区分に基く比較では、日本の「高齢給付」の国民所得に対する比率は12.43%で、フランス15.28%より低く、ドイツ11.65%より若干高い。なおアメリカは6.53%とかなり低い。
「高齢」に「医療」等を加えた社会給付費全体で見ると、対国民所得比日本は26.1%、アメリカ20.34%、ドイツ35.34%、フランス39.38%、スェーデン37.5%となっている。
20年前には約50兆円だった社会保障関係費は昨年は倍以上の105兆円になった。高齢化と財政や税負担の問題を考えるには、社会保障費も合わせて考えないといけないと思いちょっとデータを眺めてみたが、改めて社会保障コストの大きさを認識した次第だ。
増大を続けるコストに対して、増税という痛みを伴うが正しい原因療法を取らず、国債増発という対症療法、というか後世にツケをまわすねずみ講スキームを続ける日本。
Freeland女史は日本のことには言及していなかったが、内心「日本の若者はどうして怒りを爆発させないのか?」「どうして日本の政治家はもっとまじめに財政再建を議論しないのか」と呆れていたのだろうか?
無論これは推測にすぎないが。