昨日「合併しない金融機関の強み」という記事の中で「『アート』のレベルの予知能力を持つ人間を揃えることができる金融機関は強い」ということを述べたところ「ごるでぃーろっくんろーる」さんという読者の方から「勘というものは鍛えられるのですか?」という趣旨のご質問を頂いた。これについて私の意見を述べてみたい。
まず「人間には第六感とか特殊な予知能力はあるのか?」という点だが、その存在を信じる人がいる一方「科学的に証明できない」として否定する人がいることも事実だ。このことを議論しているそれだけで終わってしまうので私の立場を説明すると「第六感と呼ぶかどうかは別として人間の中にはある種の予知能力とか特殊な創造力があるのだろう」と考えている。
ただし一般にある人が将来の出来事を当てたとしても、「偶然」なのか「能力」によるものなのかを証明することは難しい。例えば資産運用の世界では「ベンチマークを上回る~市場平均を超える~リターンを上げるファンドマネージャーが幸運ではなく、能力により超過リターンを上げているというには、数十年のトラックレコードが必要」という説がある。
だが私がここで「金融に必要な予知能力」という場合は、天変地異を予言するような超能力ではなく「競争相手や情報・経験の乏しい人を上回る程度の予知能力」を指している。何故ならこのレベルの予知能力をコンスタントと発揮することができるとある種の金融業務では持続的に利益を上げることができるからだ。
このことを「低格付の社債投資」を例に考えてみよう。理論的にいうと低格付の社債は、倒産リスクをカバーするにたる高い利回りを持っているはずだ。もし倒産リスクをカバーする利回りがないと誰も低格付の社債を購入しなくなる(無論これは理論上の話で実際の市場では、低格付社債と国債の利回り格差は需給等で変化する)。さてここで「市場平均を上回る予知能力」を持つ人を登場させよう。彼の債券ポートフォリオは格付が示唆する平均的な倒産率を下回る倒産で運用されるはずだ。そうすると彼のポートフォリオは市場平均を上回るリターンを上げることができる。これが運用の世界でいうα(超過リターン)だ。大切なことは「倒産をゼロとすることではなく、市場平均以下にする」ことだ。
前置きが長くなったが、ではどうすればこのような予知能力を身に着けることができるかというと私は幾つかの重要な要素があると考えている。
一つはいうまでもなく「業務に直結した知識」を蓄積することだ。低格付社債投資を例にすると「業界」「個別企業」「経済全般」などの知識を蓄積することだ。
二つ目、そしてこれが一番重要な点だと思うことだが「蓄積した知識を醸成する」ことだ。難しくいうと色々な知識を一度潜在意識の中に沈めるということだ。哲学者で数学者のバートランド・ラッセルにI needed a period of sub-conscious incubation.という言葉がある。これはラッセルが難問を解く時「潜在意識の中に培養する期間を必要とした」ということだ。この培養期間中大切なことは「一度直面する問題を離れて心を解放してやる」ことだと一般に言われている。心を解放するにはスポーツでも音楽でも好きなことをするのが良い。
三つ目は知識の基盤を広げることだろう。平たくいうと何事にも好奇心を持って知識を吸収することだ。
予知能力そのものではないが、その近隣にある(と私が思っている)能力に「セレンディピティ」Serendipityという能力がある。これは「何かを探している時探しているものとは別の価値あるものを見つける能力」のことだが、日本語にない概念なので「セレンディピティ」と呼ばれる。セレンディピティをどうすれば鍛えられるか?ということについては例えば脳科学者の茂木健一郎氏が「セレンディピティの時代」(講談社)で説明をしている。ポイントを拾うと「変化を受け入れなさい」「人の話に耳を傾けなさい」というようなことが書いてある。
私はこのセレンディピティを伸ばす方法と予知能力を高める方法はかなり共通しているのではないかと考えている。予知能力やセレンディピティは、他の能力と同様「才能」という面はあると思う。しかし自分を見詰なおすと持っていないと思っていた才能を発見することがあるかもしれないとも私は考えている。
以上が予知能力に関する私の仮説だ。正しいかどうか知らないけれど、視野を狭くして仕事に専念するだけでなく、良い仕事をするのには遊びが大切です!というお題目を掲げると人生が楽しくなる・・・と私は思っている。