私にとって剱岳ほど懐かしい山はない。大学時代の夏合宿は大体剣沢をベースに周辺の岩を登っていた。その他ゴールデンウイークの八峰縦走だとか初冬の剣尾根登攀など思いでは多い。最近は剱岳そのものには登っていないが、近くの立山や奥大日岳には山スキーで出かけている。
写真は数年前のゴールデンウイークに剣沢上部から剱岳を写したものだ。
さて今日(6月28日)ワイフと新田次郎原作「剣岳 点の記」を観た。話は陸地測量部の測量部員が地元の山案内人の力を借りて未踏と思われていた剣岳に四等測量点を設置するために苦難の末登頂するという話だ。陸地測量部と日本山岳会は剣岳の初登頂を巡って競い合う。陸地測量部は長次郎雪渓~映画では三の沢と呼ばれていたが、後にこのルートを開拓した案内人宇治長次郎を記念して「長次郎雪渓」と呼ばれるようになった~から、剣岳の初登頂を果たすが、頂上で古い錫杖の頭部を発見する。つまり剣岳ははるか昔に修験者によって登られていたのである。
剣岳が前人未踏でないことが分かると柴崎測量官に「初登頂」を命じていた陸軍高官連中はたちまち関心をなくしてしまう。一方初登頂を競い合った陸地測量部と日本山岳会の間には尊敬と友情が生まれる・・・・・
この映画の一つのテーマは「人生で大切なことは何をなしたか?ということではなく何をしようとしたか?ということ」ということだ。名声という成果だけを追い求める陸軍高官連中。彼等の指示を柴崎測量官は淡々受け流しながら「「測量作業の一環」としてついに剣岳に登頂する。
測量官と山案内人達、このような地味な人達の努力で地図ができ、国土の開発が進んでいく・・・。普通の人々のきっちりした仕事が日本を支えていたのだ。
私は深い感動を持って映画館を後にした。
写真は映画にも登場していた5月の奥大日岳だ。ここから観た剣岳西面は雪をとどめないほど傾斜の強い岩壁で覆われていたことを私は思い出している。あの岩壁を再び登ることはもう無理な年になったが、測量官達が登った道をもう一度歩いてみたいと私は考えている。