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どうして住宅価格は下落を続けるのか?

2009年06月09日 | 社会・経済

ニューヨーク・タイムズにエール大学の看板教授ロバート・シラー氏が「どうして住宅価格は下落を続けるのか?」という記事を書いていた。ポイントを紹介しよう。

  • 最近行われた大手米銀ストレステストで、連邦政府は住宅価格は2006年から2010年にかけて41%下落するというシナリオで行われた。しかし賃料・住宅価格レシオ等の指標はもっと厳しい事態が起きる可能性~48%の下落~を示唆している。
  • このような長く確実な住宅価格の下落は常識と伝統的な経済法則に反している。伝統的な経済法則とは人々は合理的で市場は効率的だというものだ。もし人々が効率低市場仮説に従って行動するならば、不動産価格の下落を予想する人は直ちに住宅を売却するので、価格の下落は素早く起こることになる。
  • ところが歴史に例を求めると、日本では1991年にバブルの崩壊が起きた後土地の価格は15年連続して下落を続けている。このことを説明する幾つかの要因がある。その中の重要な一つの要素は「既存(日本では中古という)住宅の売却は主に次の家を買う人により行われる」ということだ。売り手は住宅価格が下落すると考えても売り急ぐ理由はない(次に買う家の価格も下がっているから)。
  • 自宅を売却して賃貸住宅に移るという意思決定の大部分は不動産相場を見て行われるのではなく、経済上の理由でなされる(例えば住宅ローンが払えなくなるなど)。住宅価格が将来下落するという投機的な理由から、自宅を売却して賃貸住宅に移ることを考えている人はほとんどいない。
  • 数年前に自宅を買うことを夢見た若い夫婦は、雇用状況や住宅市場を見て考えを変えている。彼らは数年間この考えを変えないかもしれない。一方不動産ブーム時代に自宅の売却を見合わせ、ケア付の施設に移っていた高齢者は今が自宅の売り時だと考える。この結果売り手はいるが買い手はいない状況が起こるだろう。
  • もし経済が急速に改善すると人々は計画を変えうる。若い人は来年自宅を買おうと決めるだろうし、老齢者は自宅の売却を延期しようとする。その結果買い手はいるが売り手はいないという状況が起こり得る。
  • この理由から総ての経済学者が住宅価格の下落は予想できると考えている訳だはない。現に同僚のフェア氏は「上昇・下落のトレンドは経済的な制度の変化があれば突然反転するかもしれない」と警告している。

もっともシラー教授は「1990-91年の景気後退期に終わった前回の住宅ブームの後(景気は回復したが、住宅価格は97年まで上昇しなかった」と述べ、今回リセッションが素早く終わったとしても、住宅市場の不振は長引くだろうと予想している。

今米国の経済学者の中で話題になっていることの一つが効率的市場仮説への批判だ。「人々は合理的な行動を取り、市場は効率的だ」というのは誤りで人々は不合理な行動を取るということを行動ファイナンス理論は色々な例で明らかにしてきた。シラー教授の意見も「住宅の購入や売却は純粋な経済的判断ではなく、ライフスタイルや子供の学区の問題などが影響する」と述べ、住宅価格が複雑な要因に影響されることを示唆している。

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