金融そして時々山

山好き金融マン(OB)のブログ
最近アマゾンKindleから「インフレ時代の人生設計術」という本を出版しました。

日本の新聞は三菱の不正を正しく報道せよ

2007年06月12日 | 金融

三菱UFJ銀行が投信の販売で不適切な処理を行っていたことについては大手新聞が報じているが、私はかなり事実を歪めていることに懸念を持っている。

例えば日経新聞(6月12日)は「投信の誤販売 損失を補填せず」というタイトルで「顧客から苦情が届くまで損失補償をしなかった例がある」と報じている。また同日の日経金融新聞は「初歩的なミス」というタイトルの下で「顧客が注文した投信とは別の投信を販売したり、期間や金額を間違えるミスが発生」と書き、善意の過失性を強く打ち出している。

しかし同日のファイナンシャルタイムズ(FT)は違う。FTの原文は以下のとおりだ。

At the same time, BTMU had unfairly compensated certain customers who had complained about such losses, resulting in unfair treatment, the FSA noted.

と述べている。太字にしたところが重要なのだが、三菱UFJは損失について不満を述べた特定の顧客(複数)に不当に損失補償を行っていると金融庁が注釈をつけているということだ。

証券会社(含む銀行)のミスによって顧客が損失を被った場合、証券会社は損害賠償として損失を填補する必要がある。これは証券取引法42条2項に損失填補禁止の適用除外として規定されている。しかし同条はそもそもそれ以外の損失填補を禁じている。FTが記事が正しいとすると、三菱UFJ銀行が行ったことは初歩的なミスではなく、相当悪意の損失填補に該当すること可能性があると考える必要があるかもしれない。

ところで昨日三菱東京ファイナンシャルから株主総会の案内状が来ていた。何気なく見ていると議案の中に「役員退職慰労金は今年で廃止するので、今年の分まで慰労金を認めて欲しい」という主旨の議案があった。まさか将来色々な不祥事が発覚して役員慰労金をもらえなく可能性があるから今の内に確定し置こうなどと考えている訳でもあるまいが、ちょっと気になる程三菱UFJの不祥事件は多い。

合わせて日本のマスコミの不正確な報道が多いことも気になる。これも初歩的なミスなのだろうか?それとも何か特別な背景があることなのだろうか?

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

敢えて社保庁を弁護する

2007年06月12日 | うんちく・小ネタ

日経新聞(6月12日)の寸評欄は「水に落ちた犬を打つようで気がひけつつ、社会保険庁の重なる不始末には荒い言葉を向けてしまう」という書き出しで社会保険庁を攻撃していた。社会保険庁の色々な仕事の不始末は批判されるべきものだが、日本を代表する大手新聞がやや軽薄な議論を行っているという気がしないでもない。

「不安を抱えた人が相談窓口で、コンピューターの調子が悪いと待ちぼうけを食わされた」と同紙は指摘する。確かに待ちぼうけを食わされた年金加入者の怒りは分かる。しかしコンピューターにアクセスが増加するとパフォーマンスが落ちることやトラブルが発生することは起こりうることである。マスコミが一般大衆の怒りに迎合することは簡単なことだがそれだけで良いのだろうか?

私は特段社会保険庁を弁護する理由はないが、敢えて公平の観点から次の二つのことは言っておきたい。

一つはワイフが言っていたことだが、社会保険庁は年金基礎番号を統一する過程で加入者に不備がないかどうか照会を行っていた。ワイフがいうには「私はちゃんと回答していたわよ。今公的年金保険料の記録漏れがある人はその時回答していないのじゃないの」ということだ。これはどこまでが加入者の責任でどこからが社会保険庁の責任かということで又議論を呼ぶ話だが、社会保険庁もそれなりに努力していた面があるということは言ってよいのではないだろうか?

問題があるとすれはその時に「国民の皆さんの協力がないと将来保険料の記録漏れが発生する可能性がある」という警鐘を鳴らし、年金加入者である国民の協力を強く呼びかけなかった点である。記憶も記録も時間の経過とともに風化し、その修復に膨大な時間を要する。社会保険庁の問題は記録不備を隠蔽したことである。

次に年金に係わる事務というものは元々相当大変なものだということをやや専門的になるが述べておきたい。

数年前多くの厚生年金基金が国の年金の代行部分を国に返上するという大きなイベントがあった。その時の作業として基金が管理している加入者データと国が管理している加入者データを突き合わせるということがあった。多くの基金においてこの突合せ作業は大変な負担になった。

不突合の大きなパターンは年金支給額のベースになる標準報酬のヒストリーが一致しないというものだ。つまり厚生年金基金のコンピューターに登録されている加入者の給料のヒストリーと国のコンピューターのそれが不一致なのである。なんらかの理由で昇給がコンピュータに正しく入力されていないといったことが原因だ。多くの基金において加入者が不利にならない様に修正作業を行ったはずだが、それに要した時間は基金の規模や複雑さにもよるが数ヶ月から1年というものだったと記憶している。

もう一つ不突合のパターンをあげると女性特に流通業などで勤務する女性が実際の年齢よりも若く会社に申告していたということもかなりあった様だ。これも当然本人が特定しない、あるいは年金の支給開始にかかわるデータが基金と国で異なるという問題を引き起している。

厚生年金基金というものは年金に詳しいベテランの事務局員が運営するものだが、それでもこの様に多くの不突合が発生していた。つまり年金というものは制度的に複雑で誤りを犯しやすい性質のものである。

今世の中の年金専門家の人は物言えば唇寒しの状態で黙っている様だが、年金というものが極めて複雑な制度であるということを国民に知らしめるべきではないだろうか?マスコミも又公平の観点からその様な意見を取り上げるべきであろう。

なお私は年金が複雑だからミスがあっても良いといっている訳ではない。更に突っ込んで言うと誰が年金を複雑極まりないものにしたか?ということまで考えなくてはならない。年金族と呼ばれる年金の専門家達がやたらと専門用語を振り回し、分かりにくい制度を構築しているのが年金の世界である。私はこれを年金族達が自分の権益を守るためワザと複雑な制度を作り難しい規則を羅列している面があると見ている。

マスコミにはその辺りまで踏み込んだ議論をして欲しいものだ。水に落ちた犬を打つことは誰でも出来るが、社会の木鐸たる新聞はでないものなのだろうか?

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする