金融そして時々山

山好き金融マン(OB)のブログ
最近アマゾンKindleから「インフレ時代の人生設計術」という本を出版しました。

気になる谷垣氏の不協和音

2007年06月27日 | 政治

ファイナンシャルタイムズ紙は昨日谷垣前金融相にインタビューした。その内容は概略次のとおりだ。

  • 我々は全力をあげて阻止するけれど、安倍首相の辞任は問題外という訳ではない。もし自民党が参院選挙で大敗すると法案成立が困難になり前進することができなくなる。歴史的にみて自民党が大敗した場合、だれかが責任を取っている。
  • 参院選では地方で負ける可能性は高い。というのは日本のより貧しい地域では規制緩和と財政引締めの悪影響は出ているが、メリットはまだ出ていない。地方では退職者の比率が高いので、年金問題に対する怒りは大きい。
  • 年金記録問題を解決する万能薬はないので、失われた年金記録が簡単に修復できるかどうか疑わしい。
  • 安倍内閣は日々の人々の関心事に取り組むよりは、観念的である。

また谷垣氏は安倍首相が愛国的教育に力を入れていることや、憲法改正に対する好戦的なアプローチに疑問を投げかけている。

この谷垣氏の話については今時点で私は日本の新聞では見ていないが、選挙結果次第では谷垣氏が参院選挙後安倍首相の後を襲うという意向を示したものだろう。

自民党の中に不協和音が鳴りはじめたことは、年金問題に対する国民の不信感を募らせることになり、自民党不利といわざるを得ない。谷垣氏は自分が安倍首相の後を襲うためなら、自民党が敗北しても良いと考えているのだろうか?気になる発言である。

谷垣氏の影響力がどれ程あるかは疑問だが、FTがこの様な記事を書き始めたことは海外に安倍首相辞任の可能性を探るムードが広がりそうである。株式・金融面への影響を考慮するべきだろう。

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年金問題の本質に迫る(1)

2007年06月27日 | 社会・経済

今日の新聞は年金記録問題に関連して安倍首相他関係閣僚が賞与の一部を返上し、社会保険庁の職員にも5-10%位の返上を求めるという記事を載せていた。これを読んで私を含めて大方の人が思うことは「参院選挙前のパフォーマンスか?」ということだ。もし社会保険庁の職員達に重大な職務違反があるのであれば、5%やそこらの賞与の返上でお茶を濁すべきではなく、徹底的に責任を追求するべきである。もし責任がないのであれば、返上する必要はない。この様なことを曖昧にするから政治が良くならないのである。

今回問題になっているのは、年金保険料の記録不備の話なのだが、今の国の年金制度にはそれ以外に大きな問題が沢山あるので、余りこの問題に入り込み過ぎると年金が抱える巨大な問題を見失ってしまう恐れがあるのだ。

個人の保険料の記録は極めて大切だが、記録を整備してもいざ年金を払う段になってその原資がないということになるとこれはまた大問題である。ところが多少この問題について調べている人なら、国の年金財政が破綻状態にあることは周知のところだ。

保険料の記録の重要性を強調すると、国の年金というものが民間金融機関で行っている個人年金の様なものと誤解を与える可能性がある。無論まじめに年金保険料を払っている人にとってはそう考えたいのだが、実際はかなり異なっている。ごく一例をあげると財政的に破綻している国民年金(基礎年金)をサラリーマンが払う厚生年金保険でカバーしているのである。国民年金については加入するべき人の4割の人が保険料を払っていない。つまり日本の年金の財政方式は掛け金をまじめに払う人には「積立方式です」と言いながら実態は「賦課方式的」になっているというべきなのだろう。

少し専門的にいうと日本の公的年金制度は「修正積立方式」と言われる制度だ。積立方式の反対概念が賦課方式だ。賦課方式というのは必要とする老齢者への年金給付額を、現役世代が税であれ社会保険料の形であれその時々に負担していく制度だ。

日本の修正積立方式というのは、簡単にいうと将来必要とする年金原資の一部は積み立てるけれど、足りない部分は国庫が負担するつまり税金でまかなっているという制度だ。家計で考えると積立方式の方が健全に見えるが、日本という国家レベルで考えるとそれは必ずしも正しくない。

一つは仮に年金資産が事前に積み立てられ効率的に運用されていくにしろ、日本には巨額の財政赤字がある。これは将来の世代が負担しなければいけない重荷だ。つまり年金の原資は積み立てたけれど、財政赤字をたっぷり残したいうのでは将来の世代にとって負担はかわらないのである。インフレ時には借金をしても貨幣価値が将来下がるので、実質的な負担は下がっていくが、デフレ時には借金の重みは時間とともに増えていく。日本では当面デフレを想定した財政政策を取るべきであろう。

私の基本的な主張は基礎年金に相当する部分については、積立方式ではなく賦課方式を採用するべきであるというものだ。その根拠については改めて説明したいが、次の三つのことは述べておこう。

  • 税の形で今老齢者に支払う年金分を徴収するので、徴収コストが低く年金不払い問題が発生しない。
  • 低金利下では事前に積み立てて運用しても安定的に高い運用収益を得ることは簡単ではない。
  • 運用の問題が発生しないので、複雑な数理計算がなく、年金掛け金の計算根拠がきわめて明快になる。従って国民に分かりやすい制度になる。
  • 年金先進国の欧米では基本的に賦課方式を採用している。

なお積立方式において「資産が効率的に運用されているにしろ」という仮定を置いたが、年金資金がグリーンピアのような保養諸施設に浪費されたことは周知のことだ。

積立方式の年金制度というものは巨額の資金が生まれるため、様々な利権が発生し、それが年金官僚のモラルの弛緩を生んでいる。このことも別の機会に述べたいことだ。

今日言いたいことは「年金の掛け金記録というものは大事だが、そこにはまり込むと現在の現在の財政方式を容認してしまい、公的年金の抜本的解決策が見えなくなってしまう」ということなのだ。

コメント (1)
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