金融そして時々山

山好き金融マン(OB)のブログ
最近アマゾンKindleから「インフレ時代の人生設計術」という本を出版しました。

デッド取引が企業を変える

2006年09月23日 | 金融

昨日日経新聞にイオンが期間50年のハイブリッド債券を発行するという記事が出ていた。イオンのホームページによると当該債券は、機関投資家を対象とした劣後債で発行総額の半分程度が資本として認識されるということだ。日本では銀行は資本増強のため劣後債券を沢山発行してきたが事業会社がこのよなハイブリッド債券を発行するのは始めてである。

さてこの事実から透けて見えるものは、日本でも企業の資金調達が株式や公募社債から私募債での資金調達へのシフトという世界的な傾向に歩調を合わせる兆しが出たのではないか?ということだ。そこで最近のエコノミスト誌の情報を元に世界的なデッド(債務)市場の動きを見てみよう。

  • デッド市場の主な牽引車はバイアウト・ファンドである。バイアウト・ファンドの代表格のプライベート・エクイティ・ファンドは2006年上期に3千億ドルの資金調達を行なった。もしこのペースで彼等が資金調達を続けると理論的には、2006年に彼等は米国ナスダック上場会社の約5分の1あるいは英国FTSE100のほぼ4分の1を買収することができる資金を集めることができる。
  • デッド・ブームの主役の一人シティグループによると、特に英国ではバイアウト、外資による買収、自社株買いにより新規に発行される株式よりも減少する株式の方が多くなっている。なお今年は欧州の株式市場で過去20年以上の間で初めて英国と同様に株式数が減少している。
  • 企業は買収を避けるため、借入金を増やし自社株買入を進めている。国際決済銀行によれば、第2四半期の自社株買入額は1,170億ドルに達している。因みに昨年の四半期あたり自社株買入額は87億ドルだった。
  • 2003年以降税引後のデッドファイナンスのコストは、エクイティファイナンスのコストを下回っている。コストの高いハイ・イールド・デッドでもエクイティファイナンスのコストより低くなっている。因みにエコノミスト誌のグラフによると、米国におけるエクイティ・ファイナンスのコストは現在9%程度、ハイ・イールド・デッドのコストは6%弱、投資適格デッドで4%をわずかに下回るレベルになっている。
  • 今や銀行だけが居心地のよいデッドファイナンスを独占しているのではない。数年にわたる低金利と豊富な流動性により、投資家達はそれがより高いリスクを意味するものであっても、より利回りの高い資産を追い求めている。このことはヘッジ・ファンドのようなファンドが銀行から資金を借りてローン市場に参入していることを意味する。
  • また給付債務に合わせるため年金基金が長期資産の保有を望む結果、彼等はクレジット市場に参加している。投資信託や保険会社もポートフォリオを分散させ、リターンを少しでも向上させるためローン市場に参入してきている。米国では今年前半の総てのレバレッジド・ローンの3分の2を年金基金、投資信託、保険会社が購入している。彼等はローン・シンジケーション市場で銀行に取って代わっている。因みに7年前は年金基金、投資信託、保険会社のシェアは45%だった。欧州でも同じ傾向で1999年にはローン・シンジケーション市場において年金基金、投資信託、保険会社は殆どシェアを持っていなかったが、今年6月末時点で彼等のシェアは45%になっている。
  • このようなディールを牽引しているのは、ゴールドマン・ザックスのようなバイアウトの専門家である。最近の大型の買収ファイナンスとしては、スペインの建設会社フェロビアルがゴールドマンを主幹事として英国の空港運営会社最大手のBAAを買収することとなった。ディール総額は300億ドルである。
  • 安くて流動性の高いファイナンスにより企業はバランスシートをより効率的に使うことができ、レバレッジをかけることで株主へのリターンを高め、経営層は利益とキャッシュフローに集中することが可能になる。また貸出が増加しているにもかかわらず、銀行側も安全装置となる資本の厚みを増している。
  • しかし他方デッドとクレジット・デリバティブの市場が認識の範囲を超えて成長しているため、規制当局はこれらの複雑な金融商品が次の金融危機の種になるのではないかという懸念を持っている。
  • クレジット市場は過去10年間の3つの大きなトレンドの牽引車である。まず最初に企業は株式や債券の発行ではなく、私募のローンを通じてより多くの資金調達を行なっている。私募取引は規制当局や通常の投資家が見張ることはより困難である。次に貸出が規制業種である銀行以外の業種例えばヘッジファンド等により行なわれることが増えていることである。これは特にクレジット・デリバティブ取引において顕著である。三番目はこの資金はフェロビアルのような公開企業も使うことができるが大部分は公開企業のレバレッジド・バイアウトに使われる。つまり企業の非上場化のために使われるのである。
  • メリルリンチによれば欧州のレバレッジド・ローン市場は既にジャンクボンドの市場より大きくなっている。米国ではレバレッジド・ローンの新規実行額はハイ・イールド債券の発行ペースよりも早い勢いで伸びている。ただし規模自体はまだ小さいが。レバレッジド・ローンには第二抵当権ローンを含む。(筆者注。イオンのハイブリッド債もこのカテゴリーに入ると考えられる)これは変動利付債で安全性は劣後するが、高いリターンが得られる。もっとも信用サイクルが悪化した場合、これらの債券の流動性がどの程度あるのかは誰も分らない。
  • 世界的に見てレバレッジド・ローンやよりシニアなローンを含むシンジケーション・ローン市場は公募債や株式の市場より早い速度で成長している。デーロジックというデータ提供会社によると、昨年の世界ベースの新株発行額は6千億ドルでこれはピーク時の2000年より少しすくない。また公募社債の発行額は2000年より少し多く、6,850億ドルであった。ローンの金額は同じ時期に2.3兆ドルから3.5兆ドルに拡大している。

このような世界的な流れの中で日本のローン市場を考えてみよう。まず商業用不動産のキャッシュフローを元利金支払源資とするノン・リコース・ローンが拡大している。またソフトバンクによるボーダーフォン買収のような大型バイアウト・ファイナンスも出てきている。また究極の買収防衛対策である非公開化つまりプライベート・エクイティによる買収ファイナンス等も活発化しそうだ。

そこで必要となるスキルは単なる伝統的な与信スキルではなく、将来キャッシュフローの的確な予測や様々なリスク・アペタイトを持つ投資家にリスク特性の異なる様々なローンを販売するといった極めて投資銀行的なスキルが要求される。

これから日本のデッド市場も漸く面白い時代に入っていくだろう。そこで勝者となるのは大手邦銀銀行なのか米系の投資銀行か?あるいはそれ以外の機関投資家なのか?

なおこの記事を掲載した翌日(9月24日)日経新聞朝刊に以下のような記事が出ていた。備忘のためポイントを記録しておく。

  • 日本で外資系金融機関が協調融資(シンジケーションローン)業務を拡大している。外資のシェアは前年同期に比べて、5.4%増え13.6%となった。
  • 外資ではシティグループが4.7%で最大のシェア、ゴールドマンが2.1%でこれに続く。
  • 今年前半の日本のシンジケーションローン金額は1,193億ドル。協調融資は市場拡大が見込まれることや、金融機関にとって手数料収入が得られることを背景に、主幹事獲得競争が激化している。外資の他地方銀行が地元企業向けに主幹事業務を務めるケースも増えている。
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総持寺の白花曼珠沙華

2006年09月23日 | まち歩き

田無駅の北側に総持寺という大きなお寺があるが、その入り口に白花曼珠沙華が咲いている。

Siromannjyu

曼珠沙華は普通赤いものだが、白花曼珠沙華は園芸種として品種改良されたものということだ。曼珠沙華は日本では余り縁起が良い花とは思われていないが西洋ではそのようなことはなく園芸種が開発されているということだ。そういえば近所のスーパーの店先で鉢植えの赤い曼珠沙華がライコリスという名前で売られていた。ライコリスは曼珠沙華のLycoris Radiataから来ている。曼珠沙華を死人花とか地獄花と呼ぶようなことはなくなるのかもしれない。

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