金融そして時々山

山好き金融マン(OB)のブログ
最近アマゾンKindleから「インフレ時代の人生設計術」という本を出版しました。

エコノミスト誌、消費者金融問題を切る

2006年09月08日 | 社会・経済

エコノミスト誌は以前から消費者金融問題について卓見を示してきたが、今週も尻込みしている金融庁を鋭く批判している。まず記事のポイントを示した上で私が考える消費者金融問題の本質を述べよう。記事の題名は「金融庁の尻込み」The FSA flinchesである。

  • 10代後半から20代前半の男性をターゲットにした少年マガジンの様な漫画雑誌にはけばけばしい消費者金融の広告が目立つ。金融庁が業界のオーバーホールを試みている理由の一つも消費者金融会社が若者を勧誘していることにある。
  • 金融庁が9月5日に発表した改正案は改革派を失望させた。後藤田政務官の辞任で議論に拍車がかかっている。その結果法案の国会提出が遅れるかもしれない。
  • 改革派が懸念していることは余りにも多くの日本人が彼等が返済を望める以上に借金をすることである。改革派は消費者が複数の消費者金融会社から借入できる限度を設けることと金利の引下げを望んでいた。大手消費者金融会社は7%の借入人だけが複数の会社から借り入れているというが、業界の信用データベースは1万4千社の小さな消費者金融会社をカバーしていないので、実際の数はもっと多くなるだろう。
  • 議論と後藤田政務官の辞任は法の抜け穴により、改革が最大8年も延期されることにより触発された。グレーゾーン金利は廃止されるが金融庁は3年にわたる段階的実施を提案している。「消費者金融会社に寛大で消費者を保護する点で不十分な役所のメンバーでいることが恥ずかしい」と言って後藤田政務官は辞職した。後藤田政務官や他の改革派を苛立たせているのは「1年以内の返済なら上限50万円まで28%の貸出を認める」等の経過措置だ。これは実質的に消費者金融会社に28%での貸付を認めることになるからだ。
  • 同時に金融庁案は上限金利の変更を望まない消費者金融会社を苛立たせている。消費者金融会社を日本に持つシティとGEキャピタルは米国の財務省に介入させることも望んでいる。
  • 日本の金利が極めて低いのに、消費者金融の金利が高いことは奇妙に見えるかもしれない。最も健全な信用履歴を持っている消費者は5-6%で借入を行なうことができる。しかし潜在的な多くの借入人は有利な借入を行なう機会に恵まれていない。日本の銀行は何時の日にかこのギャップを埋めるかもしれないが、彼等は個人貸しというマスマーケットにずっと尻込みしてきている。
  • 急速な改革は、重い多重債務者を破産に追い込むかもしれない。しかし変革を先延ばしすることは避けることのできないものを延期するだけである。個人破産法はより寛大になっているので、絶望的な債務者を先延ばしする理由は少なくなっている。裁判前の和解も一般的になってきている。

消費者金融・漫画・パチンコというものを私は現在の日本人の精神的な廃頽の象徴だと見ている。無論借金は日本人の専売特許ではなく、アメリカ人が得意とするところだ。しかし消費者金融の赤や黄色のけばけばしい看板が街の真ん中に目立つ国というのは世界中でも(もっとも全世界を旅した訳ではないが)日本位なものだろう。日本位といえばパチンコ店のようなギャンブル施設が街の真ん中にはびこっているのも台北を除けば日本だけである。大の大人が朝の通勤電車で漫画本に読みふけっているのも日本以外ではまず見ない光景だろう。

これらは一見ばらばらの話に見え密接に関係したものだと私は見ている。どう関係しているかというと、自己実現という人生の目標を放棄しその場その場を刹那的に生き、自己や世界の問題を考えることを停止してしまった数千万人の日本人の生き様という点だ。

ギャンブルのために金が不足すると漫画本の派手な宣伝をみて消費者金融から金を借り、返済できなくなると親や親戚に泣きつき、泣きつくところがなくなると破産したり最終的な手段に訴えたりという具合だ。

無論私は総ての借金が悪いという積りなど毛頭ない。借金とは人生の様々な局面で発生するキャッシュフローの不足やゆがみを調整する方法であり、上手に使うことで人生を楽しく有意義に送ることができる。しかし調整する方法だからどこかで逆の動きつまり借りたものは返すということをしなければいけない。具体的な返済方法のない借金は本来してはいけないものである。そしてこのようなことは政府が法律で決めることではなく、自立した経済人であれば当然従う経済の基本ルールである。つまり約束を守るというのは市民の義務なのだ。無論本人の責めに帰するのが酷なような外的要因で約束が守られない時には救済措置を設ければ良いのである。

しかしまず「返せないような借金はしない」「借りたものは返す努力を惜しまない」というのは市民として極当たり前のことでありそんなことまで国があれこれ規制しなければならないとすれば、日本人とはなんと幼稚で未熟な国民なのか!と悲しくならざるを得ない。

繰り返して言うが消費者金融・漫画・パチンコというものは日本人の精神のレベルの低さと幼児性を象徴している。年収の3割までしか貸してはいけないなどというのは本来金融機関の与信プラクティスの中で決まることであり、自由主義社会において国が口を出すべきことではない。消費者金融を巡る議論は関係者総てが基本を忘れているとしか言いようがないのである。

コメント (1)
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