金融そして時々山

山好き金融マン(OB)のブログ
最近アマゾンKindleから「インフレ時代の人生設計術」という本を出版しました。

特殊な転換社債に金融庁のメスが入るか?

2006年04月14日 | 金融

表題の特殊な転換社債とは転換価格が変動する転換社債型新株予約権付社債のことである。英語の略称はMSCB Multi - strike convertible bondsのことだ。この転換社債型新株予約権付社債について当局の調査が入るのではないか?という記事がエコノミスト誌に出ていた。記事の概要について解説を加えながら見ていこう。(赤字がエコノミスト誌の訳)

  • 「有毒」「底なし」「デス・スパイラル」といった言葉はMSCBのリスクを極めて端的に示している。これらの言葉が日本語に訳されていないのは恥ずべきことである。日本のMSCB市場は驚くべき勢いで拡大している。この市場が出来た2003年の発行額は480億円だったが、昨年までにそう発行額は1兆円に達している。他の富裕国ではこれらの債券は合法ではあるが、幸いなことに稀である。

通常の転換社債型新株予約権付社債(平成14年4月1日の改正商法により従来の転換社債がこう呼ばれる様になった)は転換価格が固定しているが、MSCBは株価が下落すると転換価格がそれに伴い低下する取り決めがある。これを悪用してMSCBの保有者が簡単に利益をあげる方法がある。それは保有者が当該企業の株を大株主から借り、空売りを行なうのである。そうすると株価が下がる。下がったところでMSCBを株に転換して借りた株を返すのである。こうすることで簡単に金儲けができる。

  • 株価が行使価格よりも低下したならば、新株が発行され従前の株主の持分は希釈化される。そして更に株価を押し下げる。そしてそれが又行使価格を引き下げるのである。この連鎖が繰り返されるのである。
  • では何故企業はMSCBを発行するのか?日本企業とその株主にとっての答は主に企業統治と金融教育の不足ということである。米国では弁護士が詐欺まがいに見える行為には何であれ直ちに訴訟を起こすのである。更にはMSCBの発行体は他の方法で資金調達する場合も極めて高いコストを払わなければならないだろう。それらの企業は殆ど金融知識のない中規模の上場会社である。

なお最近金融庁がHP上で発表した証券会社の市場仲介機能等に関する懇談会(第2回)で出された意見・論点についての中で米国(ニューヨーク証券取引所・ナスダック)では「証券取引所の上場基準において、大きなダイリューションが発生するエクイティ・ファイナンスについては、あらかじめ株主の承認を受ける仕組みがないと上場を認めないとい
った事項が規定されている。」という記載がある。

  • 日本の証券取引委員会は懸念を声に出し始めた。証券取引委員会の佐々木氏は外国銀行・証券連合会でMSCBは潜在的には「不適切または疑わしい取引である」とスピーチした。同氏はより良い開示とセールス活動とブローカーと証券取引所により監督強化を望んでいる。法律改正は難しいので運用を通じてMSCBを減らしていこうという訳だ。主管庁である金融庁は法改正(金融サービス法)の中で適合性を重視して行く様だ。取り締まり強化は遠いことではないかもしれない。

若干の補足をしておこう。MSCBはライブドアが発行し、リーマンブラザースが引受た件が有名だ。これについては専門家や事情通の解説が既に沢山あるので、繰り返すことはないが、要は転換価格はライブドア株の市場価格より約10%低く設定されていたので、大株主(この場合はライブドアの元堀江社長)から大量の株を借りたリーマンは容易に10%近い利益をあげることが出来た訳だ。そしてそれはライブドアの他の株主のコストにおいてなされたことである。エコノミスト誌の記事にライブドアの実名は出てこないが、ライブドアを意識した記事であることは間違いない。

この記事が単なる埋め記事なのか、何か新たな事件の魁なのか・・・ちょっと興味があるところだ。

因みにエコノミスト誌を読んでいると、Sharp practiceという言葉に出会った。「抜け目のない取引」という意味と「詐欺まがいの行為」という意味があるが、本文では「米国の弁護士は詐欺まがいの行為については訴訟する」ということで後者になる。企業幹部や企業側弁護士がしっかりしないと日本企業は金融知識に長けた仕掛け人にしゃぶりつくされることになる。

コメント
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