金融そして時々山

山好き金融マン(OB)のブログ
最近アマゾンKindleから「インフレ時代の人生設計術」という本を出版しました。

米国長期金利の上昇リスク

2006年04月05日 | 金融

米国の長期金利が徐々に上昇するリスクが高まっている。昨日のウオール・ストリート・ジャーナル紙のLong-Term Rates Creep Higher after years of Resistaing the Fedの主旨は次のとおりだ。

  • 2004年6月から連銀は短期金利を連続して引き上げているが、長期金利は頑強に抵抗してきた。しかしここに来て長期金利の上昇傾向が見られる。長期金利の上昇は住宅ローン金利の引き上げ等につながり景気をスローダウンさせる。
  • 連銀が短期金利を最初に引き上げた2006年6月時点の10年債の利回りは約4.87%だったが、一年後には3.89%に低下した。昨年12月には10年債の利回りは2年債の利回りを下回った。これは「逆イールド」という現象で過去には景気減速の前兆だった(ことが多い)。
  • 先週連銀は短期金利を4.5%から4.75%に引き上げた。更に重要なことは連銀は次回(5月10日)の政策委員会で金利を5%に引き上げる可能性を示唆していることだ。これにより10年債の利回りは昨日先週末の4.71%から4.87%(終値)へ上昇した。(2月末時点の利回りは4.55%)
  • ブラロック社のチーフ・インベストメント・オフィサーは「市場は金利は5%で頭打ちにならないだろうということを認識し始めた。しかしより重要なことは金利は直ぐには低下しないだろうと認識し始めたことだ」と考えている。
  • 借入金利が上昇すると、消費者や企業にとって総てのもの~新しい住宅、自動車から工場の組み立てラインまで~の購入コストが上昇するので、消費と事業投資が減速する。この高コスト化が連銀が経済成長とインフレを制御するもっとも重要なツールである。
  • 過去米国は短期金利を引き上げてきたが、欧州と日本が金利を低く据え置いてきたので連銀の金利引き上げ効果は希釈化されてきた。というのは多くの投資家は低金利の通貨で資金を借入て、金利の高い米国の債券を買ういわゆるキャリートレードを行なってきたからである。この結果(債券の需給がしまり)米国の債券価格は上昇(利回りは低下)してきた。
  • しかし今日本と欧州の経済は予想よりも良い状態に見える。このため欧州・日本の中央銀行は金利引き上げに動いている。欧州と日本で利回りが上昇するとそれに競合するべく米国の金利があがるのである。
  • 現在のところ金利上昇が金融市場の混乱を引き起こしてはいない。しかしゴールドマンザックスのチーフ・エコノミストは「住宅価格下落による消費減退の効果は相対的に大きい」と言う。同氏は住宅市場の冷え込みは2007年の経済成長を1.5%減少させると見積もっている。
  • もっとも金利上昇による景気減速が極めて大きい場合は、金利引下げが行なわれるだろうから、多くのエコノミスト達は金利は経済が耐え得る範囲で、少なくとも連銀がそう信じる範囲でのみ上昇すると信じている。

米国の景気が減速すると米国への輸出需要で活況を呈してきた新興諸国へ大きな影響がでる。エマージング市場の株式市場が悪化するとその損失をカバーするためパフォーマンスの良い国(日本等)の株が売られる局面が出るということは頭に入れておいて良いことだろう。

米国長期金利の動きにはここしばらく特別の注意が必要だ。

コメント
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