追憶の彼方。

思いつくまま、思い出すままに、日々是好日。

アナおそロシアー6

2022年09月09日 | 国際政治
アナおそロシアー6 【ロシア衰退への道】
 ロシアによるウクライナ侵攻から半年が経過した。短期間でゼレンスキー政権を打倒、ロシア傀儡政権を樹立して属国化し、最終的にはベラルーシを含めた巨大スラブ国家を形成しようとのプーチンの妄想はウクライナの予想に反する頑強な抵抗で、脆くも崩れ去ろうとしている。
ウクライナ侵攻は色々な副作用を生じ、プーチンの目論見に反してロシアが衰退への坂道を転がり始める契機となってしまった。
一つはウクライナの惨状を目にし、周辺諸国にロシアへの強烈な警戒感を植え付けてしまった事である。(自由、民主主義、市場経済、明るく開放的な世界)とは真逆の(暗く、残忍、貧困、独裁的、不自由)なロシアに対する拒否反応、ロシアの影響下に入る事だけは何としても避けたいと言う強い思いである。
先ず5月18日、フィンランドがスウェーデンとともに北大西洋条約機構(NATO)に加盟を申請した。これまでロシアを刺激しない様にとの配慮から中立を保ち、経済発展、教育、福祉などで世界の模範とされてきたフィンランドが米国主導の軍事同盟に加わる決意をしたことはロシアのウクライナ侵攻が欧州に与えた衝撃の強さを示し、バルト3国やポーランドの防衛力強化に弾みをつける事に繋がった。
更に深刻なのは、NATOに対抗しワルシャワ条約機構に替わるものとして結成されたロシア主導の軍事同盟CSTO(集団安全保障条約機構)の足並みの乱れである。ロシア、ベラルーシ、カザフスタン、アルメニア、キルギス、タジキスタン6か国で構成するCSTOは5月16日、条約締結30年の区切りの意味合いも込めて、モスクワで首脳会合を開催した。プーチン露大統領は公開された会合冒頭の演説で、「ウクライナではネオナチと反露主義が横行し、米欧も奨励している」と主張したが、ベラルーシのルカシェンコ大統領を除き、各国首脳から同調する発言は出なかったばかりか、異例のロシア批判やウクライナ侵攻の早期終結を促すような発言が出たほか、共同声明にも侵攻を直接支持する文言は一切記載されず、足並みの乱れを露呈する結果となった。友好国の結束と協力体制の構築を期待したロシアの思惑は外れ、かえって求心力の低下を世界に晒す結果となってしまった。 
 ウクライナで多数の民間人死傷者が発生し「侵攻に関与すれば自国も欧米の制裁対象になりかねない」との懸念が拡大した。ロシアからの経済、軍事分野での統合圧力が強く、領土をウクライナ侵攻のために利用させてはいる(ベラルーシ)でさえ支援はそこ迄、国内には親ウクライナ感情も根強く、派兵要請には応じていない。石油、天然ガス、石炭、ウラン、銅、鉛、亜鉛などに恵まれた(資源大国・カザフスタン)は北部にロシア系住民が多く住むことから、領土の一部をロシアに併合されるとの懸念が根強く、米情報機関によるとベラルーシ同様ロシアからの派兵要請を断ったと報じているだけでなく、5月9日のロシアの戦勝記念日、パレードなどの祝賀行事の開催もとりやめ、ウクライナに対して医薬品や食料を輸送するなどの人道支援も行う等ロシアとの距離を取り始めている。3月の国連総会でのロシア非難決議ではキルギス・タジキスタンと共に反対はしなかったものの棄権に回っている。
更に8月10~20日、タジキスタンでCESTメンバーのカザフスタン・キルギス・タジキスタン3か国にウズベキスタンを加えた中央アジア4か国とパキスタン、モンゴルも加えた米国主導による共同軍事演習が行われた。中央アジア4か国は南側にアフガニスタンと隣接している為、イスラム過激派の浸透を強く警戒、ロシアがアフガンのタリバン政権と関係を築きつつある事に懸念を抱いて居り、米国との関係維持を図っている理由の一つはこの点にもある。カザフスタンはEUトップの電話協議で欧米の対露制裁の影響で高騰する世界のエネルギー価格安定の為、石油・ガスを供給する用意があると伝えており、これに反発したロシアはカザフ原油の黒海輸出港を停止に踏み切り、関係は一層冷え込み始めている。

もう一つは、ロシア連邦からの離脱・独立問題で、内部崩壊に繋がる深刻な問題である。国家と民族を同一視する民族主義運動・エスノナショナリズムの世界的な高まりはロシアも例外ではない。アメリカの場合は最初から新天地に馴染もうする心づもりで移住してくる人々は、新天地の生活に馴染めるように自らのアイデンティティーをアメリカに合うように変化させていく。しかし、自分の先祖が数世代にわたって暮らしてきた土地に今も暮らす人々は、民族意識を政治的アイデンティティーの基盤に据えている。この為往々にして政治権力を求めて各民族集団が競い合うことになり、近年この傾向が一層強まりつつある。ロシア人は帝政ロシアの時代はロシア正教により統合されていたが、その後領土拡張により、イスラム教やチベット仏教、ユダヤ教、シャーマニズムの様な土着宗教が入交り、結局ソ連時代はマルクス・レーニン主義がそれに取って代わる事となった。社会主義を放棄した現在のロシア連邦時代はそれに代わるものが無く、ナショナル・アイデンテイテイ・クライシス(国家への帰属意識の低下)が連邦からの離脱・独立を意識させることに繋がり始めている。
ロシアの全人口1億4200万人の78%(1億1100万人)はロシア人であるが、残りは僅か1千人強のシベリアのケット人にいたるまで、190以上の民族から成り立っている。又ロシア連邦の構成主体は85に昇る多さである。首都(モスクワ)と(サンクトぺテルブルグ)は(特別市)、これに共和国(21)、州(46)、自治管区(9)、地方(7)、自治州(1)から成り、まさに多民族国家である。此の内、共和国はロシア民族以外の民族が連邦の枠内で自民族の名を国名にし、国土や国語を持ち名義上国民国家を形成して居り何時でも連邦離脱・独立の外形的準備は整っている。共和国で人口の大きい(パシコルトスタン共和国410万人)、(タタールスタン共和国380万人)、(ダゲスタン共和国258万人)等は、(スタン国)の名前が示す通りペルシャの流れを酌むイスラム教徒(スンニ派)を中心とする民族が居住する地域である。(「スタン」とは、ペルシア語で「土地」という意味、「カザフスタン」とは「カザフ人の土地」を意味する)。
その他にもイスラム教徒を中心とする(チェチェン共和国)、他3共和国が存在する。共和国は州や自治管区と異なり独自の憲法を持つことが出来るが,連邦の法律と衝突することも多いと言われて居り、近年プーチンが中央集権体制を強化する為、自治権を大幅に削減、監視体制の強化を図りつつある。こうした動きを背景に一部の共和国で分離主義のマグマが溜まり始めて居り欧米の経済制裁による経済問題への不満や、独裁政治に対する反発等を契機に一気に噴出する危険性を孕んでいる。元々分離志向が強かったのはチェチェン、タタール、トウヴァなどであるが、サハ、バシコルトスタン等の共和国でもこの傾向が見えた。特にチェチェン共和国の主要民族であるチェチェン人はイスラム教徒で独立志向が強く,帝政ロシア時代の1994年~96年の第1次と、1999年からの第2次の2度にわたり、自治と独立を求めロシアと戦って来た。ロシア軍がチェチェンに侵攻し紛争が始まったが、チェチェン側はゲリラ戦で抵抗すると同時に,ロシア国内で爆弾テロなどで対抗し紛争が激化、2度の紛争による死者は 10万人を超える惨事となったが、とりわけこの紛争でのロシア軍による民間人に対する残虐極まりない不法行為・殺戮行為は世界を震撼させることとなった。プーチンの強硬手段により2009年までに戦闘は終結したが、火種は燻ぶり続けている。独立を目指すグループがチェチェン共和国の指導者、故ジョハル・ドダエフに忠誠を誓い、1000人規模の「ドダエフ大隊」を結成しウクライナ支援の為にロシア軍と戦っている。
 更に英国防省によると5月15日、ロシアがウクライナに投入した地上戦力の3分の1を失った可能性が高く、約5万人が死亡または負傷したとみられると発表したが、戦死者の大半をロシア南部出身者、特にイスラム教徒が多い北カフカス地方のダゲスタン共和国の兵士が最多で135人。次いで、シベリア連邦管区のモンゴル系少数民族ブリャート人が住むブリャート共和国出身者が98人だった。又多数のバシコルトスタン共和国出身の兵士が動員され、8月時点で171人が戦死したとも報じられている。モスクワ等の都市部ロシア人に反戦機運が乏しいのも、ロシア人の死者が殆どいない事が原因とみられるが、このような不公平な扱いに対する反発が連邦に対する不満として蓄積される可能性が高い。コーカサス地方のチェチェン、イングーシ、タゲスタンの共和国は何れもイスラム教徒が中心でロシア人が他共和国に比べ極端に少なく、しかも隣接して居るところから、分離独立問題が波及する可能性が十分存在する。1991年末と同じように、ロシアという植民地帝国に残る異民族の共和国たち、あるいは有力州が自己主張を強めて、国家主権に等しい権限を主張し、税収を中央に送らないという現象も起り得る。シベリア鉄道など重要な物流の線が、これらの存在によって阻害されると、ロシアは1つの国として機能しなくなるだろう。
ロシアはモンゴル治世下でモスクワ大公国という小さな都市国家から出発して、17世紀にやっとウラル山脈を越え、1860年にウラジオストックとその周辺の沿海地方を中国・清朝から取り上げて、現在の広大な版図を作った。西のモスクワから東のウラジオストック迄,全長約9300キロ,特急のロシア号に乗っても最短6泊7日、世界最長の鉄道である。ロシア極東のウラジオストク市は、2010年に市の創設150周年を盛大に祝った。帝政ロシアは1860年の北京条約によりこの地をロシア領に併合し、この天然の良港に、「極東を制圧せよ」を意味する(ウラジオストク)という名前を付けた。だが、中国の新しい歴史教科書には、「極東の中国領150万平方キロが、不平等条約によって帝政ロシアに奪われた」との記述が登場した。中国はある日突然、ウラジオストクを「中国固有の領土」として返還を要求しかねない状況にある。ロシアは世界一広大な土地面積を有し世界最多16の主権国家と国境を接するが中国との国境は4209Km(モンゴルとは3485Km)で中国との間には国境紛争が絶えず、1960年代末には国境線の両側に、658,000人のソ連軍部隊と814,000人の中国人民解放軍部隊が対峙する事態になった。在北京ソビエト連邦大使館に対する紅衛兵の襲撃や、国境地帯での発砲事件など両国の小規模な衝突は度々起き、極東及び中央アジアでの度重なる交戦の後、両軍は最悪の事態に備え核兵器使用の準備を開始するまでに至ったものの、本格的な軍事衝突は起きず、結局2004年10月プーチン大統領と胡錦濤国家主席両首脳によるロシア側の大幅な譲歩による政治決着で最終的な中露国境協定が結ばれ現在に至っている。ウクライナ侵攻により世界で孤立化を深めるロシアにとって、経済・軍事等あらゆる面で中国が頼みの綱である。中露間で歴史的なパワーシフトが進む中、ロシアにとって、中露国境問題は大きな火種、悩みの種でもある。日本の尖閣諸島問題、明日は我が身である事に気づいている筈である。
ソ連解体後、ロシアの衰退は静かに進行していたが、原油や天然ガスの高騰にかまけて宇宙や核武装に現を抜かして居た為にロシア経済は世界に大きな後れを取り、理不尽なウクライナ侵攻に対する前例のない大規模な経済制裁によって衰退へのスピードを加速することになった。原油・天然ガス価格の異常な高騰で制裁の痛みは緩和されているに過ぎないが時間の経過とともにボデイブロウとなって、効いてくるはずである。石油と天然ガスは、その採掘に対する課税、輸出に対する課税、輸出収入に対する課税などを総計すると、ロシア政府歳入の50%以上を占めてきた。この収益源から派生する商業等のサービスも含めて、ロシア経済はやっと韓国と同程度のGDPを維持できているに過ぎない。  EUは、年末までにはロシアの原油輸入を止めると宣言して居り、既にEUの企業はロシア原油の購入を控えている。ロシアは、EUに代わる顧客としてインド・中国に頼らざるを得ないが、買いたたかれることは間違いない。天然ガスはドイツが需要の半分近くをロシアに依存しているために、簡単には切れないが、湾岸、米国からのLNG輸入、そしてこれまでの方針を変えて原発、石炭発電を復活させることで、かなりの削減が可能になり、ロシアにとって大きな痛手である。軍事的、経済的実力などの面でのウクライナに対するロシアの軍事力・経済力の優位は、ウクライナの決然とした抵抗・反撃と、西側国家のウクライナへの持続的、有効な援助によって霧消したばかりか、ロシアと、NATOとの武器技術装備、作戦などの分野での実力差が、ウクライナ・ロシアの優劣の勢いの違いをさらに突出させることになった。
電撃作戦でウクライナ侵攻作戦は短期間に終わらせることが出来ると考えたプーチンの目論見は水泡に帰し、 今回の戦争を何時、どんな形で終結させるかという決定権は、すでにロシアの手中から離れてしまった。折角手に入れたクリミア半島さえウクライナの反転攻勢で危うくなりつつあり、この劣勢が更に周囲の離散を助長することになる。
ウクライナ情勢を受けて国際的に対露感情が悪化している状況下、頼れるのは最早、中国だけである。
ロシアにとって最大の戦略的武器である原油・天然ガスが有効に機能しなくなった時、ロシアは多くの領土を失い、中国の属国となって北朝鮮と同じ道を歩むことに成りかねない。
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 安倍国葬に根拠無し | トップ | 木偶の棒総理・岸田 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

国際政治」カテゴリの最新記事